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スウェーデン 雨上がりのライラックの花

旅の記憶は突然甦る。ふとした拍子、何かがきっかけで。それを脈絡なくつらつらと。記憶の引き出しから無造作に出して、友達に話すみたいに書いてみたい。

スウェーデンで撮影した紫の花。
花の写真・・それは趣味でカメラを持ち始めた人ならおそらく概ね最初に撮るであろう被写体といえる。いってみればベタ中のベタ。
だけど私はやっぱり花を撮るのが好きだ。

この写真はスウェーデンの写真の中でも好きな一枚。でもこの時は花の名前も知らず撮影した。帰国後写真を見返した時も特に何の花か調べようともせず、ただなんとなくいいなあと思って見ていた。
ある時、数年を経て何かのきっかけでこの花の名前がライラックだと知る。これがライラックか!聞いたことあったわ。
そしてまたある時、ふいにライラックのことを思い出し、日本でも見られるのかなと調べたところ、寒い地域で4-6月に咲く花らしく、日本では北海道で見られるとのこと。
あーーだから6月のスウェーデンで咲いてたのか・・とここでまた線と線が繋がった。

撮影した日のことを思い出してみる(実際は結構忘れてるので撮影日を元に日記をめくる)。

なるほど、これは2013年6月2日、スウェーデンのYstad(イースタ)という町で撮影していた。そして色々思い出した。
Ystad、本当に素敵なおとぎ話に出てくるような町だった。
海沿いで、長い桟橋が海に迫り出していて、その橋の板1枚ずつに誰かの名前と番号が書いていた。一番先頭は612だった。立ち並ぶどの家もかわいらしく、壁は色とりどりのパステルカラーだった。
着いたのは前日で、快晴のなか一通り小さな町をぐるりと歩いて、偶然やっていたロッピス(蚤の市)でお買い物もして気分上々。
でも翌日のこの日は朝からどんより曇り空。さらに日曜だったので町は活気がなく静かで、明日見に行こうと昨日思った雑貨屋も閉まっていた。
昼間一度散歩に出てみたが、途中でさーーっと細い霧雨に降られ、墓地の中の小さな誰もいない教会で1時間半も雨宿りするも止まず、結局走って宿に帰った。

宿でぼんやりと過ごすうちに徐々に雨も止み、雲の合間に青空ものぞき、わーー晴れたーーー!と喜びながら庭のポーチで日本から持参したタイカレー味の即席ラーメンを食べ(節約晩ごはんです)、庭のトランポリンで遊んでみたりした。
この日の夜の列車で町を出る予定だったので、最後の散策をしよう、ともう一度宿から出て歩き出した時のあの線路沿いの道、ああ、傾きかけた日に照らされた、雨上がりの草木や花たちがなんて美しいのだろうと夢中で撮った一枚が、このライラックの花、でした。
なんとこの時、時刻は19時前だったというのだから驚きだ。スウェーデンの初夏はとても日が長い。

こうして自分で振り返ってみると、なるほど好きな写真には理由があるのだなと腑に落ちる。写真は撮影者の精神世界の投影に他ならないという真理。
ずっと信じてきたその事実を再確認できて、ほっこり嬉しい、日本での今この瞬間よ。
そしてライラックは私の好きな花の一つになった。

・・そう思ってみれば、そもそも私はこういう枝が湾曲に伸びて、先端にわさわさと花がついているような植物が好きだ。日本だと百日紅 さるすべり。夏の眩しい日差しの中でピンクに光る百日紅は本当に好き。

そうそうこの夏の百日紅といえば・・と続きたいけれどこの話はまた今度。おやすみなさい。


All Photography by 田中閑香



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