ファシリテーターと司会は違う?・チームを活性化させるファシリテーターの役割とは
「今日の会議のファシリテーター、よろしくね!」
とお願いをしたり、されたりすることは、珍しいことではないと思います。元気の良い若手社員などからは「自分がファシりますね!」と返事が来ることも…
ところで、ファシリテーターとは何でしょうか?会議の進行役?司会とは違うもの?そう。ファシリテーターと司会は全く違うものです。
本来のファシリテーターは、安全な場を作り、個人の主体性を引き出し、チームを活性化させる効果がある重要な役割です。個に向けた働きかけがコーチングなら、チームに向けた働きかけがファシリテーションと言っても間違いありません。
今回は、コーチングと同じくらい大切なファシリテーターの話です。
1.ファシリテーターの役割とは?
ファシリテーターの元々の意味は「援助促進する」というものです。例えば、何かの意思決定をする会議であれば、より質の高い意思決定(結果)を生み出すために援助促進をすることが、ファシリテーターの役割と言えます。
質の高い結果を生み出すためには、タイムキーピングと言ったスムーズな進行も求められます。そのため、その点ではファシリテーターの役割の中に司会的な要素も含まれます。しかし、大きく違うのは、援助促進するという部分です。
ファシリテーターの役割は、グループやチームと言った「集団のプロセス」に対して「働きかけ(援助促進)」をすることで、個人が力を発揮し、主体性を育み、チームを活性化させることで、結果の質を上げていくことを指します。
それでは「集団のプロセス」「働きかけ」とは何でしょうか。
2.プロセス・ロスという考え方
プロセスの話をするにあたり、集団が力を発揮するときの話として「1+1を4にも5にもする!」ということを耳にします。ところ、そもそも1+1は2になるのでしょうか?
集団が力を発揮する際の考え方として、プロセス・ロスという考え方があります。例えば、10の能力を持った人と20の能力を持った人が一緒に仕事をしたとき、最大で30の成果が期待できます。しかし、実際の成果は25かもしれませんし、15くらいかもしれません。このように、期待できる成果に対して実際の成果が下回ることを示したのがプロセス・ロスです。
実際に発揮される成果を生産性としたとき、次のような計算式として表されています。
実際の生産性=潜在的生産性ー欠損プロセスに起因するロス
では、ここで言う欠損プロセス=プロセス・ロスとは何でしょうか。
一人一人の仕事へのモチベーション、個々人の仕事に対する腹落ち感、お互いのベクトルの方向、テレワーク下での対話の量、集団の人間関係など、集団の力がうまく発揮されない課題はいくつも思い当たります。そして、その課題は、恐らく目に見えない部分=集団の中のプロセスであることが多いです。つまり、集団の中のプロセスがうまくいかないと集団が力を発揮することは難しくなるのです。
逆にプロセスがうまくいくと1+1が10にも20にもなります。この相乗効果をプロセス・ゲインと言います。例えば、安全な場で意見を出し合うことで新しいアイデアが生まれたり、集団全員が意思決定に参画することで1人の意思決定よりも良質な決定ができたりなどです。
これらから、ファシリテーターは、集団の中の目に見えない部分=プロセスのロスをなくしてゲインを作ることで、結果の質を上げていく役割とも言えます。
3.ファシリテーターに求められる3つの働きかけ
それでは、集団の中の目に見えない部分=プロセスへの働きかけとしては、どのようなものがあるのでしょうか。それは集団を構成する個・チーム・個人間の3つのポイントです。図で示すと以下のようになります。
集団は個人の集まりですから、まずは個(黄色の顔)が対象となります。そして集まった全体=チーム(緑の円)自体も対象となります。また、集団の中では個人同士が影響を与え合っていますから、その個人間(橙の矢印)も対象となるのです。
①個のプロセスに対する働きかけ
個のプロセスというのは、集団に参加しているメンバー1人1人の気持ちや動機と言った部分です。例えば、発言をしているメンバーはどんな感情なのか。誰に向けたの発言なのか。発言の意図はどのようなものなのか、と言ったものです。
そうした個のプロセスを観て・聴いて・感じることが、ファシリテーターには求められます。そして、時には、感情や意図を整理したり共有する働きかけをすることで、個のプロセスがクリアになります。
②チームのプロセスに対する働きかけ
チームのプロセスというのは、全体の空気感や雰囲気と言った部分です。例えば、みんなが熱心に参加している、中だるみや疲れを感じる、何となく発言をしづらそう、集団にはいるけど存在感がない(無関心)と言ったものです。
そうしたチームのプロセスに気付いたとき、ファシリテーターはメンバーにたずねる働きかけが求められます。発言が少ない人に問いかけたり、全体的に疲れているように感じますとフィードバックをしたりすることで、チームのプロセスが活性化します。
③個人間のプロセスに対する働きかけ
個人間のプロセスというのは、コミュニケーションの部分です。例えば、話し手の意図が聞き手に伝わっているか、感情的な対立がないか、発言に対して聞き手が応えているか(反応しているか)などです。コミュニケーションギャップの有無と言ってもいいかもしれません。
コミュニケーションギャップに気付いたときは、ファシリテーターはギャップを埋めるための働きかけが求められます。話し手はどのような意図で伝えたのですか、聞き手はどのような理解をしましたか、今の発言に対してどのように感じますかなどと問いかけることで、個人間のズレや対立を解消することができます。
4.個人が最大の力を発揮しチームが活性化するファシリテーターに
個々が安全な気持ちを持ちながら力を発揮し、熱心かつ主体的に集団に参画し、対立やギャップを超えて関わることができる。そんなチームが実現できたらどのように感じますか?それを実現するのがファシリテーターであると考えています。
企業研修などでは、OJTトレーナーやメンターの養成、管理職へのコーチングトレーニングなど、個人への援助促進による個人の育成に関する取り組みが多いです。しかし、グループやチームと言った、集団への援助促進による集団の育成・活性化に関する取り組みは多くありません。
・個人に目を向けたときどんな気持ちでいるだろうか?
・チーム全体では雰囲気はどうだろう。関心を持って参加をしているだろうか?
・個人間でのコミュニケーションギャップがないだろうか?
そうした一つ一つの目に見えないプロセスにロスが起きていないかどうかを意識するだけでも、集団としての質は変わってきます。ストレスや不信感を低減し、より強固な集団となり、また結果の質も上がるでしょう。
私も人事の仕事を通じてファシリテーターの役割を担ってきました。個人が力を発揮し、チームが活性化する場を作ることは、時間のかかる取り組みです。一方で、プロセス・ロスに気づくことは新たな課題の発見になりますし、何よりも解決したときの結果の違いが明確で、とても楽しいものです。チームが活き活きしてくるのを見ると、自分も嬉しくなるものでした。
何かと会議の司会・進行役くらいに思われそうなファシリテーターですが、チームの活性化に必要ななくてはならない存在です。是非トライして欲しいと思います。