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第3回:神は細部に宿る話

スマホを機種変した後って、どんなクールな人でもテンションあがりますよね。こんなに小さな四角の箱から声が聞こえたり、相手の顔まで見えたり、さらに世の中のあらゆることを知れて情報発信までできる。もう50年前からしたら魔法みたいなもんだよって。そりゃあウキウキするよ。でもそれってきっと、誰かが宿らせた神のおかげかもしれなくて。第2回:労働集約と知識集約の話に続いて本日は委員会第3回。

***

玉坂(以下、玉):ねえラマ王。
ラマ男(以下、ラ):毎回思う、王に対して気安すすぎる呼びかけ。

玉:「神は死んだ」ってなんなん?
ラ:ニーチェの?
玉:いや誰とか知らんけど。
ラ:きみさ、知りもしないのにすごい難しいこと聞いてるよそれ。
玉:いや、難しそうなことくらいはわかってるねん。だからこそ、やねん。
ラ:接続詞どうした。
玉:委員会やからそれらしい小難しいこと聞かなあかん、思うて。王がだらしないので、副委員長としての危惧。
ラ:ほう。言ってくれるな。
玉:で、ニーチェってなんなん。なんで神を殺したん?
ラ:土俵にあがってない人間にどっから説明しろと…。
玉:3行で頼む。
ラ:3行…そんな池上彰なことできるかしら。
玉:ほう。
ラ:どこの部分が「ほう」なのよ。”神”っていうのは”キリスト教的価値観”ね。で、ニーチェはそれが嫌いだった。
玉:ほう。
ラ:なので、”神”なんかほっといて、脱キリスト教=”超人”で生きてこうぜって言った。人生何回だって楽しもうぜ永劫回帰!って伝えたかったのよ。そんで神を殺めた。
玉:ほう。
ラ:ほうやめろ!
玉:脱キリストのための神殺しか。だからあえて死んだって言うた。
ラ:たぶんそれでいいと思うけど。哲学ちゃんと勉強した人だってちゃんと語るってなったら大変なんだよこれ。
玉:玉坂的にはさ、神は死んでないという立場をとります。
ラ:いきなり反ニーチェの気概。近代哲学史への果敢なる挑戦。なんでや?

玉:スティーブのジョブズがさ。めっちゃ頑張ってスマホ作ったやんか。iPhone的なやつ。
ラ:「的な」ってなに?普通にiPhoneの話?
玉:まぁ、そう捉えてもらってもいいけど。
ラ:「某タマちゃんがさ」みたいな、謎の某はさんでくるイケてないオジサンみたいなってるやん。そういうとこやで、自分。
玉:細部にこだわって、こだわって作ったから、神が手掛けたみたいに洗練されたものになった訳やんか。God is in detailな訳やんか。
ラ:まあ、はい。細部に生きている、と。
玉:うん。やっぱ生きてるやん、神って。
ラ:いやそれはさ、あくまで”神のなせる業”的な意味でしょ。神が生きてるみたいなのとはちょっと。
玉:え。悪魔っていうた?神の話してるんやけど。
ラ:そう聞こえた?
玉:「あくまで”神のなせる業”的な意味でしょ」って聞こえたよ。
ラ:はいはい、あってるあってる。で?
玉:でさ、神が細部に宿るやんか?
ラ:ちゃんと説明しろ。そりゃ丁寧に作り込めば「細かいとこまでよく作ってんなぁ」とはなるけど。
玉:神が、細部に、宿るってことやんか?
ラ:それを、僕に、説明してって。
玉:しょうがないな。きみさ、すごく難しいこと説明してって言ってるよ? 
ラ:なんなん。デ・ジャ・ビュ?

玉:MicroSDってあるやん?
ラ:今日はえらい横文字続くな。
玉:あれなんかもう1㎝四方にも満たない中に思いっきりデータ入りまくってる訳やんか。
ラ:あー、わかった。技術力の高さが人間の感覚値的なのを破壊するぐらい進歩してて「すげーなー」って話だ?
玉:ラマ王がいま言うた「すげーなー」より3倍、進化してる。
ラ:ITマウントやめろ。職場にたまにそういう人いて疲れる。
玉:恵まれた世界にお住まいやな。
ラ:おおきに。いや違うよ。MicroSDどんな進化よ?
玉:あーいうICチップってさ、サイズはそのままでどんどん入る容量が大きくなってる訳やん?
ラ:たしかに。ムーアの法則的な。
玉:そう。もはやそん中に写真数万枚入る訳やんか。
ラ:入りすぎてついついムダにハメ撮りとかやっちゃうしな。
玉:神やん。
ラ:おおきに。いや、そこで「神」はちょっとややこしくなるから。それならごめん。ちょっとだけ、ごめん。
玉:ほんで、もっともっとこれから先さ、さらにそれっぽいメガネかけて、生きているシーンをすべて動画で録画してさ、ちっこいチップに人生のすべてが残るって時代なんてすぐ来ると思わん?
ラ:急に怖かっこいい話になった。バーチャルリアリティー的な?
玉:神やん。
ラ:さっきから神って言いたいだけだろ。
玉:例えばさ、事故とかあって愛する旦那や子どもをなくした女性がさ、部屋の中でメガネかけてたら、そこに保存されていたデータがすぐに見れる世界観、わかる?
ラ:ハンカチいる話?
玉:メガネさえかければ、目の前に生きている彼らがいつでも動いていたとしたら。そんな思い出たちのすべてが、その1㎝四方の中に込められているとしたら。いつでも会いに行けるとしたら。
ラ:あぁ、涙が。
玉:神やん。もうそんなん、神、おるやん。
ラ:「言いたいだけだろ」って言えなくなった。神、おるわ。

玉:でさ、でもきっと、過去の人も、すごく未来の人も、それを読み取るってできないと思うんよ。
ラ:旦那や子供との思い出は、その人の記憶限定だからってこと?
玉:いや、もっと技術的な話。たぶん1万年も経てば、今の技術で作られた情報を取り出すってきっとすごく難しいはずなんよ。
ラ:あー。押し入れに眠ってる姉ちゃんのMD思い出した。
玉:そうそうそう。
ラ:ラベルに”DA PUMP”書いてあって「昔の曲、if…ちょっと聞きたい!」ってなったけど全然聞けないっていうなんともなアレ。今はUSAしか聞けん。J-POPなのに。ジャパニーズポップソングなのにっ!
玉:MDにはいろんな情報が入っているけれど、本体がないから聞かれへんっていうね。
ラ:わかる。
玉:いつまでも、MDには彼らの「もしも」が宿り続けている。読み取る力が人間にないだけで。
ラ:ISSAはやっぱモテ神なんよな…。

玉:でさ、MDもそうやし、MicroSDもそうやし、”宿っているけど読めない神”ってのを考えてたらさ、きっと我々が知覚できない神は、そこいらの細部、どこにでも宿ってるんじゃないかなって。
ラ:そこいらってどこよ?
玉:例えば、そのへんに転がっている石ころとか。
ラ:石ころ!?急に八百万みたいになったけども。
玉:はい。それを図にあらわしたのがこれです。

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ラ:また図。
玉:新しいスマホで描いた。
ラ:うわ。そういうのあるわ。テンション上がって入ってる機能全部使おうと思ってる気分の時の。
玉:スマホを替えた時にテンションの上がらん人間は感性が完全に枯渇しとる。
ラ:やめろ現代病。で、石に神が宿ってるってどういうこと?
玉:石ころって何千年、何万年って月日を重ねてそこにおったりするわけやから。自然の息吹、神の声が込められてるかもしーひんやんか。
ラ:かもやろ。そんなの信じるか信じないかはあなた次第です、的な某都市伝説芸人的なやつやろ。
玉:ラマ王がそれを読み取れないだけ。
ラ:は?この図の平民、俺?
玉:石の息吹を、聞けしものよ。
ラ:なに?
玉:声を求めよ、さればあらわれん。
ラ:…。
玉:神は、すぐそばにあられますから。
ラ:ラジオ「宗教の時間」みたいになってる!タマちゃんお願い。戻ってきて。

玉:はいはい!じかんじかん!!こちとら時間給でやらさせてもろてますから!
ラ:よかった帰ってきた。よかった時間給でお願いしてて。
玉:ぶぶ漬け出してもろた!はい、ラマ王の力で今日のまとめやってみて。
ラ:京都…何しに行ってきたの?

【今日のまとめ】

■議題
神は細部に宿るについて

■採決
見えないからとて、いないとは限らない。しかし見えると言ったら”認定”されちゃう。いかにもそれっぽく、「いや、いないって考える方がおかしくない?」ぐらいに留めておくこと。だって細部なんだから…。

80点

ラ:おわ、めっちゃ上がった。神採点。
玉:ありがとうございました。
ラ:次回もちこう寄れ。

#解説
神は細部に宿るとはよく聞く話。芸術の細部には神がいる。MicroSDの中にも神がいる。でも将来、技術の進化、深化、そして陳腐化によってその神には会えないかもしれない。沢山のゴミのように、大切な神を宿した破片が世の中に散らばっている世界。もしかすると、同じように散らばっている石ころだって、何かによって歴史や思いが込められたそれなのかも。目の前のそこかしこにも、神が宿っているかもしれません。

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