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春をまっていた「土鍋とたけのこ」

いにしえの思いの馳。
海の向こうにひとり長く暮らしていたとき、春に一時帰国するタイミングは少なかったけれど、一度チャンスがあった。日本の友人らが「日本の春の味なに食べたい?」と満身のやさしさで迎えてくれたのを思い出す。


「たけのこ食べたいな」

時代的に、これらを手紙でやりとりしたのだから、どれだけみんな頭のなかに情調があふれていたのだろうと今さらながら感心する。情報も偽りも、過不足をなげくこともなく、真実はわれらでつくろうという元気があった。

ある友人宅裏の竹林で、たけのこ掘りからの「たけのこ宴会」を開いてくれた。大勢でゲラゲラ笑いながらごっそり抜いて、ホースの水で泥を落としながらもゲラゲラ笑い、家中の鍋に湯をわかし、庭でビールを飲みながら次々にたけのこの灰汁抜きをする。たけのこから大きく育った竹林を仰ぎながら、静かに心が満ち満ちていった風景を覚えている。


「たけのこ炊きたいな」

新作の深土鍋で、たけのこを炊きたかった。
友人たちとの、あの日の「たけのこ宴会」がどんなにうれしかったか。こんなに時間がかかったけれど、いまさら直接つたえようとは思わないけれど、うれしかった気持ちは、永遠の創作力になるのだ。

米ぬかと鷹の爪をまぶして水を注いで茹でたたけのこは、茹で汁ごと鍋に入れたまま冷まして保存できる。


「はるのいのち展」を開催したのは2月の初旬。
すでに同地の横浜には客船が寄港しており、中華街からはさみしい風がふいてた。来廊者のマスク率は日を追うごとに増え、時節のあいさつは、すでに「なぞの病の恐さ」だった。▶︎「十日一水な陶芸道」(2月個展後の記事)

壊れた窯の生まれかわりなどなどから名づけられた展覧会タイトル「はるのいのち」。奇しくも工房の20周年が皮肉にも重なった。だからこそ、堂々と、新しく誕生させたい新作がいくつかあった。2年ほど計画してきた新しい形とサイズの土鍋や、1年かけてつくってもらったオリジナル陶土。


「たけのこ食べよう」

まずは、薄く切りにして「たけのこのお刺身」に。新作のオリジナル土でつくった板皿にのせて。春の香りがたまらず、家族全員で「んーおいしい」とハモってしまった。

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次は、やっぱり「たけのこごはん」でしょ!
この土鍋も、この展覧会でおひろめしたオリジナルの黒土。厚めに切ったたけのこと米を炊く。家中に充満する春の香りに、ざくざく刻んだ木の芽を添える。

なんだなんだ今年のたけのこは、例年以上においしいぞ。あの日の「たけのこ宴会」を彷彿するようなしあわせさがある。家族で2合ペロリと完食。

春を大切に生きている。季節をめぐる旬の食材はごちそうだ。ごちそうさまさまでした。この言葉が、もっと好きになった。


あとがきコッチョリーノ 

▶︎「うつわ職人のなんちゃってレシピ」に「土鍋でたけのこ灰汁抜き」と「土鍋たけのこごはん」載せてます。 tamamiazuma.com 




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