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わたしの本棚・2冊目 『村上T』

 村上春樹さんが、「集めた」のではなくて、気づいたら「集まっていた」というTシャツたちについて語った本。

 村上春樹さんの本は、小説はあまり刺さることがなくて(ごめんなさい)、「何かについて語っている本」はど真ん中に突き刺さることが多いという、優良ではない方に入りそうな読者です。

 だから、Tシャツを前に、あれこれ語っているという作りのこの本は、好みのど真ん中のど真ん中。

 これと並ぶのは、好きなミュージシャンや曲をとことん語った『意味がなければスイングはない』、身体を動かすことを軸にあれこれ語った『走ることについて語るときに僕の語ること』。

 この2冊と比べると、『村上T』の方が、より柔らかくてカジュアルな感じ。本の寸法も小さくて可愛らしい。真っ白でタフな感じの紙のカバーと、見返しの臙脂(えんじ)色の具合も、気持ち良いです。

 登場するTシャツたちは、米国のものが多くて楽しい。それから、古着で1ドルで買ったとかジャンクなものが多いのも好き。日本でいうユニクロの企業コラボっぽいものもあったり。擦り切れるまで洗い込まれていたり。気どって着るもんじゃないですからね。

 ロック系など、少し値が張りそうなものもあるけれど、お洒落です、とか、高級です、という感じのものはなくて、Tシャツらしさに徹しているのが素晴らしいです。

 Tシャツをジャンル分けして語っていく構成の中で、冒頭のサーフィン系、ハンバーガーのお供系から、アメリカの「普通」とか「日常」なところが大好きなんだなぁという、ノリノリな感じでこの辺がいちばん楽しいです。

 ちょっと引いてみると、「ハンバーガーショップとケチャップ」から。

 アメリカに着くと、まずハンバーガーが食べたくなる。

「理想的なのは、午後の1時半くらいに、ランチの客がようやくひいたハンバーガー・ショップに入り、一人でカウンターに腰を据え、クアーズライトの生と、チーズバーガーを注文することだ。焼き加減はミディアム、バーガーとチーズの他には、たまねぎとトマトとレタスとピックルス。付け合わせは揚げたてのフライドポテト。それから大事な伴侶、マスタード(ディジョン)とハインツ・ケチャップ。
 きりっと冷えたクアーズライトを心静かに飲み、まわりの人々のざわめきや、皿やグラスのふれあう音を聞きながら、そして異国の空気を深く吸い込みながら、チーズバーガーの皿が運ばれてくるのを待つ。」 

 こんな感じで、良い感じのTシャツを何枚かずつ関連付けて見せてくれつつ、村上さんが好きなんだろうなぁという海外の現地の話などを、おしゃべりするように書いてくれている。

 ラジオを聴いているような心地よさがあります。

 村上さんならでは、というのは、自著の英訳版の販促用のTシャツたちを、さすがに本人がこれを着て街を歩けないなどと言いつつ楽しそうに紹介していたり、講師などを務めた米国の大学のオフィシャル品、マラソンやトライアスロンの完走賞の逸品が紹介されているところ。

 けっこう良くて、欲しいです。

 あとがき代わりの対談で、ウイスキーは何でも好きだけど、指定を求められる場合は「ラフロイグ」という箇所があって、おおっとなりました。

 自分もそうだからです。だから、「ラフロイグ」を飲みながら書いてみました。


読んだ本:
『村上T   僕の愛したTシャツたち』
著者 村上 春樹
発行所 マガジンハウス 
発行 2020年6月

買った書店 教文館(東京都中央区銀座)
読みはじめ 2020年7月

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