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真夏のサンタ帽🎄2🎄

8月25日のクリスマスが終わった翌日の26日。そこから29日までは特に何のイベントも開催されなかった。皆が、それぞれしたかったことを楽しんでいる。ある者は海外旅行に行き、ある者は好きなアーティストのライブに行っている。その頭にはサンタ帽。

そんな中、この親子も忘れられない3日間を過ごした。

僕の名はあいき。僕には大好きな母さんがいる。えりこって言うんだ。僕と母さんは2人で小さなアパートに住んでいる。お父さんは僕が生まれてすぐくらいに交通事故で亡くなってしまったらしい。でもお父さんがいない事も気にならないくらい母さんは僕に沢山の愛情を注いでくれた。母さんが作るから揚げはこの世で一番美味しいし、母さんが読み聞かせてくれるお話はこの世で一番面白い。

でも最近僕は親戚の家で過ごしている。母さんはコロナっていう菌に感染してしまって入院しているからだ。



私の名前は愛理子。5歳になる息子と2人で小さなアパートに住んでいた。でもコロナに感染してしまって入院を余儀なくされた。私はもともと体が強くない。だからこのコロナに打ち勝てそうにない。

死ぬのは構わない。でも息子を1人残して逝ってしまうのが耐えられない。なんだこのコロナって奴は。愛する我が子にさえ会ってはいけないのか。私はこのまま息子の顔に触ることさえ出来ずに死んでいくのか。

そう思っていた時にニュースキャスターの声が耳に飛び込んできた。

そして涙した。気づけばすぐに病院を飛びだしていた。頭にはあのサンタ帽。

親戚の家からあいきを連れ出し、小さなアパートに戻ってきた。

あいき、ただいま。1人にしてごめんね。これから母さん、あいきが行きたいとこ、どこにでも連れてってあげる!

あいきは喜んだ。やったー!じゃあ遊園地と恐竜博物館と水族館に行きたい!

オッケー任せときなさい。明日から毎日ひとつずつ制覇していくよ。

そしてあいきと愛理子は全てのアトラクションを楽しんだ。2人には夢の様な時間だった。

そしてあっという間に29日になった。

愛理子はまた尋ねる。今日はどこ行こっか。

あいきは答える。今日はお家で母さんのから揚げ、食べたいな。

愛理子は驚いて聞き返した。そんなのでいいの?

でもあいきは頑なに食べたい、食べたいと言う。そこまで言うなら、よしっ今日は気合入れて料理作るわよ。

そして夕食の時間、愛理子特製の山盛りのから揚げが食卓に並んだ。

あいきは笑顔でそれらを食べていった。

しかし、あいきの様子がおかしい。

泣いているのだ。

声は出さないが泣いているのだ。

愛理子は恐る恐る息子に尋ねた。

あいき、どうしたの?

あいきはしばらく言葉を詰まらせたが、少しずつ声に出して言った。





母さん、死ぬんでしょ。



あいきはわかっていた。

愛理子がもう、すぐにでも死んでしまうことを。

コロナの激痛に耐えながら色んな場所に連れて行ってくれたことも。

このサンタ帽がコロナにかからないようにはしてくれるけど、コロナを治すことはできないことも。

愛理子はそこで号泣した。

ここまで堪えてきた分の涙が溢れてきた。

ぬぁぁあ、ごめんね、ごめんね、あいき。母さんたぶんもう明日には死んでしまう。

最後にあいきに沢山触れていたかったの。

母さん、母さん。わかってるよ。もう沢山の愛情もらってるよ。

母さんが死んでも僕の中に母さんは生き続ける。だって母さんどこかでこうなると思ってたんでしょ。だからほら、僕の名前には母さんがいる。

僕の名は愛希。母の名は愛理子。僕の側にはいつだって母の愛がある。

その翌日、母さんは安らかに死んだ。

最後に母さんに合わせてくれてありがとう、サンタさん。

そうつぶやいて、愛希は冷めたから揚げにかじりついた。

それは悲しみを喰らい尽くし、明日から強く生きていくという愛希なりの意思表示だった。

🎄続く






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