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真夏のサンタ帽🎄3🎄🎄

最終日1日前の8月30日。最近黙りこくっていたあのおもちゃのキャスターがまた語り出した。

いよいよスペシャルウィークも大詰めです。本日の夜、夏に開催予定だった祭りを全て実行します。祭りと聞いて思いつく場所に行ってみてください。

そんなニュースが全世界に配信された。



ところ変わってここは青森県。

彼の名はゴン。数少ないねぶた師の1人であり、祭りの為に生きている男だ。この男もこのニュースを聞いて驚いていた。

2ヶ月前くらいから変な噂が流れてたんだ。夏に必ず祭りを開催するから各自用意しておくこと、と。

こんなコロナ禍で祭りなんてできるわけないだろ。

しかも今年は祭りって気分じゃねぇんだ。

ゴンには22歳になる娘がいる。名前は清香。就職も決まって、来年から始まる都会暮らしに心躍らせていた。

しかしコロナで全てが変わった。

清香はコロナに感染してしまったのだ。しかも不運なことに青森県で初めての感染者だった。

原因はおそらく東京に行ったからだ。こんな時期に東京に行くなんて、と思われるが仕方ないだろ、大切な最終面接があったんだから。

だが世間はそんなことは気にしない。

東京に行ったこと、そして感染したことにしか興味がない。

まるで清香はこの街の災いかのように周辺住民から、そしてSNSを通じて、全国のどこのどいつかもわからない奴から叩かれた。

それでも清香はテレビ電話越しにはそんな批判を気にしていないようだった。当初は懸命にコロナを治そうとしていた。

しかし確実に奴らの批判は清香の心を貪った。

清香の生きたいという心を貪ったのだ。


結局、清香は死んだ。


報道ではコロナで死んだと言われているが違う。清香は奴らに殺されたんだ。

だから俺は今、この上なく人間が憎い。

憎すぎる。

そう思いながらもねぶた師としての血が騒ぐ。

そうだ、この憎さをねぶたの絵にぶつけてやる。デマだったとしてもいい。祭りの準備はしといてやるよ。

そう言って取り掛かったゴンのねぶたは憎しみで溢れた狂気の表情をしていた。

すまねぇな、ねぶたよ。今の俺にはこんな狂気じみたものしか描けねぇんだ。

そしてこの男、ゴンが作りあげた魂のねぶたが30日の今日、放たれようとしていた。

日が落ち、各々のねぶたがライトアップされていく。

ゴンも自分が作ったねぶたの前でその瞬間を待っていた。

光が灯り、ねぶたの表情が現れてきた。

それを見てゴンは膝から崩れ落ち、号泣した。

そこに現れたのは、狂気に満ちた表情ではなかった。

そこに現れたのは、清香を思わせる優しい表情のねぶただった。

サンタの仕業か。

半分正解で半分不正解。

サンタはただゴンにバレないような魔法をかけただけ。

この絵はゴンを心配したねぶた仲間達が秘密裏に描いた絵だ。

ねぶた仲間達は言う。

ゴン、辛かったな。でも見てみろよこの清香ちゃんの表情を。こうやって毎年清香ちゃんのために祭りをしようぜ。

そこでゴンはさらに涙した。

まだ清香を殺した人間は憎い。

だけど、だけど、その感情と同じくらい人間が恋しい。

うっ、ううう、清香、俺はもう狂気から逃げ出すぞ。

そして来年は俺の手で、お前を描かせてくれ。

少し秋の気配が感じられる夏の夜に、清香の微笑みが優しく照らし出された。

その優しい光を合図に全国の祭りがスタートした。

人々はこれまで我慢していたものを全て発散するかのごとく一晩中踊り明かした。

踊る阿呆にみる阿呆

同じ阿呆なら踊らにゃ損々


🎄続く







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