あの頃の恋
カーテンの隙間から太陽の光が射し込んできた。その光を見てあの頃の恋を思い出した。
*
沙耶はバレエの舞台から舞い降りてきたような女の子だった。大学のCMにも出演する程の美貌と人気を兼ね備えている子でもあった。
そんな沙耶とは大学に入って出会った。同じ学科だった。レクリエーションのようなものが終わり帰ろうとしていた時に沙耶から連絡先を聞かれた。
それから毎日のように連絡を取り合った。わかったことは同じ地方出身だということ。そして二人とも映画が好きだということだ。
そこで沙耶の家で映画を見た。LEONという映画だ。孤独な殺し屋が少女と恋に落ちていくむちゃな設定なのにその世界観が美しすぎて魅入ってしまった。それと同時にこの子の目には世界がどう写っているのか、それはとても美しい世界なんだろうなと想像した。
そんな映画を観てる最中に友達からメールが来た。
今なにしてる?
今沙耶の家で映画見てる?
そか、お前ら付き合ってんの?
このやり取りの画面を見事に沙耶に見られてしまった。
沙耶は言う
どうなの?
と。
俺、真司はこう答えた。
そんな受け身は嫌だから言わせてほしい。
好きだ、付き合ってほしい。
と。
*
そこから二人は三年間程付き合う事になる。
お互い大学近くで一人暮らしだったから自然と半同棲のような形になった。
真司は沙耶の笑顔が好きだった。彼女を笑顔にしたくて何だってしてしまった。優しさの全てを沙耶に捧げた。
沙耶もそんな真司の優しいところが好きだった。真司に沢山甘えた。
沙耶は真司の知らない世界を沢山見せてくれた。
バレエ、クラシック音楽、アニメの世界。
二人で何かをしている時が一番幸せだった。
そして、どんどん二人だけの世界に埋没していった。
*
沙耶は外の世界では飛び抜けて明るいが、家では押せば倒れそうな程弱かった。
ロキソニンや睡眠薬を過剰に摂取していた。しかもその量は日に日に増していった。
どこか死を望んでいる節があった。
そんな姿を知っているから真司は余計に沙耶を支えた。俺がいなくなるとこいつは本当に死んでしまうとさえ思ってしまった。
後々気づくのだが、この真司の過剰な優しさが反対に沙耶を追い詰めていたのだ。
それは美しい恋ではなく、ただお互い依存しているだけの関係だった。
沙耶のほうがそれに早く気づいただけだ。
珍しく真司の家に来たいと言いだした。
そこで別れ話をされた。
流れる涙を堪えるそぶりもなく、泣いているのに笑っている。
この3年間楽しかったよ、ありがとう。
そう言って天使のように優しく真司の世界を壊した。
沙耶が立っている後方の窓から光が差し込んだ。
当時はそれが優しさだとは気付いていなかった。
だから沙耶の思い出しかないその街から真司は逃げ出した。
*
そこから何年も月日が流れた。
真司は闇と光の世界を行き来し、その時はどっぷりと闇の中にいた。
闇に溶け込みすぎて自分の輪郭がどこからだったかわからないくらいに。
もうこのまま闇の一部となるのかと思っていた時、何年かぶりに沙耶から一通の連絡が入った。
スマホの画面に表示されたのは
私結婚します。
だった。
その一文を見た時、真司は心の底から沙耶を祝福できた。
そして気づいたのだ。
ああ
俺にはまだ人の幸せを幸せだと思える心が残っていたんだ。
あの時と同じだ。いつも君はそうやって僕を闇から引っ張り出してくれる。
そして闇の中に光が差し込んだのだ。
そうカーテンの隙間から太陽の光が射すように。
終わり
※物語はほぼ実話ですが、出てくる名前は全く関係無い名前です。
ここまで読んでいただきありがとうございます。