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なんともにんげんくさい【盲目的な恋と友情/辻村深月】

なかなかまたどぎつい物語と出会ってしまいました。終始うわあ…と若干引きながら読んでいました。

(ちなみに表紙はめちゃめちゃおしゃれだしかわいいです。パケ買いしちゃう人多いはず。)

この物語は2パートに別れています。

まずは恋パート。
美しい容姿と無邪気で飾らない性格をあわせ持つ蘭花の口から語られる大学生生活からその後の四年間。

その次に友情パート。
蘭花とは対照的な容姿で自分に自信がなく蔑まれた過去をもつ留利絵の視点から同様の出来事が語られます。

この物語を一言で表すと"執着と嫉妬"です。

蘭花は容姿端麗で華があり、音楽の道で輝く茂実の魅力に取り憑かれます。茂実に何があろうともう蘭花は引き返すことができなくなっていきました。

一方、留利絵は蘭花の1番であることに異常に執着します。蘭花が他の友人を親友と呼ぶことが苦痛で許せない。

恋愛での嫉妬はよく聞く話ですが、友情にも嫉妬というものがあるようです。

周囲から評価されている人物と友達であることで自分も評価されようとする、
その人の1番の友達であることに異常な価値を見出す、そんなふうに誰かの友達であることや、もはやありもしない友達ランキング1位に輝くことがそれほど重要なのでしょうか。

読み進めていくと、始めこそ恋にしろ友情にしろ純粋に相手を思いやる気持ちが根底にあったのに、それがだんだんと狂い始め、もはや嫉妬と執着が絡み合いながら渦巻いてどんどんと怒りや苦しみをこね上げているようでした。

また、タイトルに盲目的とあるだけあって、蘭花も留利絵も客観的な視点が欠落しています。解説にこれを辻村さんがあえて利用したというようなことが書かれていてなるほど!っと思いました。ぜひ解説も読んでみてほしいです。

少々話が変わりますが、物語の中で留利絵が蘭花に対して「なぜ私にもっと感謝しないのか?」と思う部分があります。留利絵の他人に多くを求めすぎる様子にやれやれと思いつつも、軽いものならこれってあるあるだなあと思いました。
たまにありませんか?まあまあ大変なことをやり遂げたにも関わらず、相手の反応が悪くて「ありがとうくらいないわけ?」ってなるとき。

さて、なんだか否定的なことばかり書いてしまった気がしますが私はこの物語嫌いじゃないなと思います。

人間って結局いつまでも幼稚で恥ずかしいし愚かで汚いものじゃないですか。

それを大人になる過程で、上手に隠す技とどのタイミングで隠すかを見極める目を身につけていくんですよね。

現実ではみんな上手に隠すので、こんなに幼稚で汚い人間らしさというものはそうそうお目にかかれません。

だからこそ物語の中で出会うへんてこりんな人たちって魅力的なんですよね。

それから、そのへんてこりんな人たちを浮き彫りにして描くことで、実は私たちの水面下に蠢いている人間関係とか社会的な問題とか生きづらさみたいなものの強烈なメッセージを、物語を通して伝えてくれているのだと思います。

読書感想文が宿題にでてたころに、こんな小説の読み方ができてたらなって最近よく思います。

読書はいくつになってもいいものですね。

タカラジェンヌの母をもつ一瀬蘭花は自身の美貌に無自覚で、恋もまだ知らなかった。だが、大学のオーケストラに指揮者として迎えられた茂実星近が、彼女の人生を一変させる。茂実との恋愛に溺れる蘭花だったが、やがて彼の裏切りを知る。五年間の激しい恋の衝撃的な終焉。蘭花の友人・留利絵の目からその歳月を見つめたとき、また別の真実がー。男女の、そして女友達の妄執を描き切る長編。
新潮文庫 あらすじ

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