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ぽつりぽつり、そして冬の選書

京都の空気はもうすっかり冬の冷たさになった。各地はどうなのだろうか。そしてわたしのきもちはなかなか焦っている。

事務所の引っ越しを年末にひかえ、大量の紙もの文具や本を丁寧に、しかし迅速に箱詰めする作業は骨が折れる。

日ごろPCの前に座っているだけの人間なので、しゃがんで立つだけでめまいすらするし、身体のこんなところにまで筋肉があるのかと思うようなところが筋肉痛で、ひーひー言いながら、次の日には、個人の引っ越しのため内見へでかけた。

なんだかんだで土地は理想とすこしちがったところになったものの、利便性と歩いて河岸へいける景色のよさ、窓からたっぷり光が差し込み、観覧車が見えるところに一目惚れし、無事引っ越し先が決まったのだった。

決まったということは、引っ越しが年明けに迫ったということで、事務所も自宅もパンダの段ボールだらけで、さすがにうっとなる。

そして、ひさしぶりに連絡をくれた知人が独立しばりばりとデザイン会社を切り盛りしていることを知り、仕事のおさそいやらがあった。尊敬とともにすこしのうらやましさと、そして、おだやかな会社でのんびり仕事をすることに慣れてしまったわたしは、とてもじゃないけどもうこの業界の最前線には立てないと思うきもちのつらさにやられそうになる。

仕事のしすぎで本を一冊も読めない5年間をすごし、その代償に身につけたデザイン力はなにほどのものなのだろう。今ある力に感謝しつつも、そんな日々にはもどりたくないとのんびり生きることを自ら選び、それでいいのだと今はかなり満足していながら、時折うしろめたさを感じる自分はなんなのだろう。

あの頃なにも知らないわたしに、デザインに対するがむしゃらさや真剣さの基準をつくってくれた方々にまちがいなく感謝しているのに、未だにずっとそこから逃げ出したいと思っているのはなんなのだろう。

いつのころからか、人が鉱物(岩石、土、砂)にふれているところ、あるいは樹木や水にふれているところに、興味をひかれるようになった。そんなふうに、ふれて実在を確認しながら、ヒトはヒトになってきたのだと思った。風に吹かれること、雨や雷に打たれることもおなじ。からだの表面で起きつつあるできごとによって、われわれは削りとられるようにして造形されてきたのだと思う。そして!ぼくらの主題にそっていうなら、読書もそうした造形作業の一部なのだろう。光にさらされる眼球が、網膜が、ざわめく文字を研磨剤のように使って、ぼくらの心を削る。声は無言のうちにもことばをつぶやき、それがのどを飼い馴らし、ひいてはわれわれの思考にも流れ癖のようなものを与える。

-本は読めないものだから心配するな

『本は読めないものだから心配するな』の菅さんのことばにすくわれる。

そして自分のための冬の選書。

気づけばこの倍くらい選んでいて、いやいやいや…と半分へらしこのようになった。

海外文学を中心に、なんでもかんでも読みたいものを読みます。
そんな日々がよいのです。

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