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「負けない」でもなく、「大丈夫」でもなくていいから、


今日は、ダメだ。なんでも奇跡に見えてしまう。

雨が降っていること。
身体の近くにある空気がしっとりとしていること。
窓辺の葉っぱがいっぱいに雫をつけていること。
カーテンの色がいつもよりも優しく見えてしまうこと。

傘をさした人が歩いていること。
膝を痛めたおばあちゃんの手を握る、おじいちゃん。
男の子が泣いていること。
「早くおいで」と声をかけているのは、きっとその子のお母さん。

電車が7分おきに景色を震わせること。
車が走っていること。
どこへ行くのかな。それとも、帰り道だろうか。
その車の中には、”誰か”が乗っていること。

それでも、世界は動いている。
それでも世界は、動いているのだ。

「昔は、自分が世界の中心だと思ってた。」

そんな話をしたら、ある人が言った。

「そう、僕も、ある時気づいた。自分”も”世界の中心にいるんだ、って。」

なんとエレガントな表現だろう。この言葉を味わうことができる人生でよかったなぁと思いながらコーヒーをすする。

最近は、世界の中心がどこなのかを問うことはなくなった。
その代わりに、気づいたことがある。

世界は、なんと豊かな”片隅”で溢れていることか、と。

この世界の片隅に
海街diary』
カルテット

私がとても好きな作品たち。それらは決して、”世界の中心”に名乗り出ようとはしない。
ただ、どんな状況でも食べられる野草を見つけようとしたり、海辺の食堂で出るアジフライはあいも変わらず美味しかったり、泣きながらご飯を食べていたりする。大切な人と出逢い、別れ、また出逢う。

そんな”片隅”が、どうしてこんなにも愛おしいのだろう。
どうしてこんなにも、奇跡なんだろう。

”片隅”とは、何だろうか。

私は、「絶対的なhere」だと思う。

この世界に絶対的なものがあるのか/ないのか、はわからない。
ただ、今この瞬間「生きている」ということだけは、絶対的な奇跡としてもいいのではないだろうか。

I’m here.

それぞれのIにとって、
そんな絶対的なhereが、
なんでもなくて、とびきり豊かな”片隅”が、
私から想像もし尽くせないほど存在しているのだ。

今、いろんなものが揺れている。
あまりにも人間中心だった世界が、こんなにも簡単に、あっけなく、揺さぶられている。

そうだそうだ、これはきっとチャンスなんだ。
「還る」と「変わる」の時代が訪れているんだ。
この次に来る時代は、きっと面白い。
そんな声も、自分の中から聞こえてくる。

ただそれでも、こんなにも「元気?」「うん、大丈夫」という会話が虚しくなってしまうのもまた、事実なのだ。

想像してみる。

この雨が、私が未だ訪れたことがない街を柔らかく湿らせていることを。
もしかしたら私はその街に一生行くことがないかもしれないことを。
それでもその街には、様々な(言葉の外に溢れ出すくらいに様々な)人が生きているということを。
その人たちもきっと、その人たちなりに豊かな”片隅”を生きているだろうことを。
何時に家に帰るのだろうか。その家は、明かりが灯っているのだろうか。それとも、自分で明かりをつけるのだろうか。今日は雨が降っているから、きっと傘は濡れている。どこかに干すのだろうか。それとも、ゆるく立てかけておいたら乾くのだろうか。あぁ、傘を忘れてしまった人ももしかしたらいるかもしれない。盗まれてしまった人なんて、いないといいのだけれど。あたたかい夜であったら、いいのだけれど。


想像してみる。

森の中に生きる、生命たちのコミュニケーションを。
木は、何を話しているのだろうか。木は木以外の生命と話すことができるのだろうか。
石は、どんなことに喜びを感じるのだろう。どんな風に泣くのだろう。
あくびなんかも、するのだろうか。「躊躇い」みたいな時間も、存在するのだろうか。
まさか、ものすごい遠距離恋愛が存在していたりもするのだろうか。

今年の春は、何色だろうか。
風は何を見ているのだろうか。
空は、どんな気持ちで今日も青く存在しているのだろう。


想像してみる。

「あのねあのね」と耳元で内緒の話を聴かせてくれる日を。
桜の下で、ただ一緒に風の声を聴くことができる時間を。
「元気?」と聞かなくても、目の前にある表情で元気かどうかを確かめられる日を。


それでも、世界は動いている。
それでも世界は、動いているのだ。


どうか、「負けない」でもなく、「大丈夫」でもなくていいから、
それでもあなたに今日が来るということを、祝い合えるこの世界でありますように。
そして、あなたの絶対的なhereが、あなたが呼吸できる片隅が、今日も仄かに明るく、灯されますように。




P.S

私が勝手に大好きでいる、ブログ。


世界には溢れんばかりの豊かな片隅があることを見せてくれる奇跡に感謝を込めて。

特に坂元裕二作品へ向けられた文章は、何度読んでも惚れ惚れします。




tama


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