シニア起業のリアル 【1】独立を決心した経緯
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2024年(令和6年)4月に、私はtalkONE(トークワン)株式会社を設立しました。1992年に富山県の日本テレビ系列 北日本放送にアナウンス職で入社して32年間、テレビ・ラジオのアナウンサーとして仕事を続けてきましたが、55歳の時に決断し退職をしました。
独立起業を決心した理由はシンプルに「自分のスキルと情熱を社会のために役立てたい」からでした。
会社員である局アナとしての仕事も、もちろんその使命を帯びていたとは思いますが、キャリアを重ねていくにつれ、社会のためというよりも、会社のためとか昇進のためといった感覚も出てきて、自分の仕事の目標がはっきりしなくなっていきました。
本格的に会社を辞めようと思ったのは、退職を告げる1年ほど前からでした。自分としては、専門職であるアナウンサーとしての仕事を、まだまだどんどん追求していきたいのに、会社としての期待はそこにはあまり無く、組織全体や仲間の為に働くという部分に多く求められていると感じました。平たく言うと、アナウンスの仕事は好きだけど、管理の仕事は得意では無かったと言うことです。
もちろん世の中の管理職の皆様は、それくらいの兼務は当然だと思われるでしょう。でもどうにも不器用な私には無理でした。アナウンサーの仕事で使う思考=脳の場所と、メンバーや組織のことを考える思考=脳の場所とは、根本的に違う気がしていました。退社直前は週5日のうち4日は、ラジオで3時間あまりの生放送を担当し、頭と心をフル稼働させていました。ところがその前後にも最中にも、遠慮なく「別の脳を使うオーダー」が入り、処理を迫られました。これには流石に参りました。
一番力を入れるべきアナウンスの仕事に、大きな影響を及ぼしていると感じました。そういう役回りだということはオンエアではひた隠しにしていましたが、クオリティの低下は隠せなかった気がしています。自分のスキルと情熱を投入したい仕事と、組織の中で求められる仕事との間に、埋め難いギャップができていくのを、毎日のように感じ、それがどんどん心を引き裂いていきました。
頑張りたいことは認められず、苦手なことばかり求められる。それを辛抱すれば、会社の期待に応えることになると分かってはいても、一度しかない人生それでいいのだろうか。そんな葛藤に、ピリオドを打ちたいと考えたのが、決断の理由でした。
「自分のスキルと情熱を社会のために役立てたい」。そのためには会社という組織を自ら離れる必要があると思いました。
厚生労働省の令和元年調査によりますと、日本人男性の平均寿命はおよそ81歳。ところが健康寿命は72歳と報告されています。55歳の私に当てはめると、自分の意思で物事を決め、思い通りに体と心が動かせる期間が、残り17年しか無いことになります。
私が勤めていた会社は、本人が希望すれば65歳までは勤められました。でも65歳で会社を離れたら、健康寿命のリミットまで残りは7年。生き甲斐としている海外渡航や、夫婦で過ごす時間には、あまりにも短いと感じました。せめて10年、いや15年は、自分の人生、自分の幸せを「自分でデザイン」したいと思いました。苦手だなぁと思い、本心に蓋をしながら会社員生活を続けていく時間は、私にはもう無いと、危機感にも似た思いで退職を決意しました。
でも、気合いだけで会社を辞め、独立出来るはずもありません。どうやってお金を稼ぐのか、生活を安定させるために何をすべきかを真剣に考えました。考えるだけでは限界があったので、先に独立起業した先輩方を訪ねて、話を聞きました。特に、局アナのセカンドキャリアの定番であるフリーアナウンサーの皆様には、本当に多くの貴重な話を聞かせていただきました。おかげで、自分もその道でやっていけるのではないかという、小さな自信を得られた気がしています。
では、何をしていけば良いのか。その整理と棚卸しに取り掛かりました。すると、これまで自分が体得してきたスキル、人脈、かけてきた時間などが、ひとつずつはっきりして行きました。自分にはどんな特技があって、それが誰にどんな風に役立つのか。そこから得られる報酬はどの程度で、生きていく上でどの程度必要になるのかなどなど。自分自身にメスを入れてみることで、ぼんやりしていた先行き感が、少しずつ見えていくような気がしました。
加えて、全く新しい知識も必要だと分かりました。私は法人を設立して代表として仕事をしていきます。そうなると、業務の拡大、利益の追求だけでなく、社会や地域に貢献していく姿勢が求められます。また、今まで会社任せにしていた経理や税務、法務などに、専門家の力を借りながら向き合っていく必要もあります。
ただ、そういう一見面倒にも思えることに対しても、よしやってみよう!という好奇心が湧きました。ある意味、遅ればせながら社会の仕組みの中にいる自分の立ち位置を自覚したような感覚でした。面白いじゃないか!独立起業を決意して以来、そんなワクワクが続いています。
令和の世の中は、本当に便利だと感じます。分からないことがあればYouTubeの中に先生がたくさんいますし、同じ悩みを抱える人と、スマホがあれば共感しあえます。リアルなコミュニケーションとの比較はナンセンスで、こういう便利なツールはどんどん活用していきたいです。
自分の仕事は、ファン作りも大切だと自覚しています。そのためにもSNSやITツールは欠かせません。元来そういう流行り物には興味があるので、頑張ってメリットを享受して、令和の時代の起業を実践していければ楽しいだろうと思っています。
これまで、勤務先という限られた社会の中しか見ようとしなかった私でしたが、野に放たれた虎のよう、いやもっとのんびりした生き物ではありますが、自由に活動できるフィールドを与えられた今、様々な仕事に挑戦していきたいと意気込んでいます。
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