【ショートショート】人間らしさが一番?
あるところに四人の男がいた。今小さな部屋に入れられ、四人で机を囲んでいる。
彼らは先ほどまでお互いの顔も名前も知らぬ、お金を目的にアルバイトに参加した他人同士だった。彼らの参加した仕事とは、アンドロイド研究者のとある実験への協力だった。そして、仕事の契約書を書き終えるとすぐに、わけもわからぬまま部屋に案内された。
彼らを案内した係りの者は言った。
「皆さま、本日はお集まりいただきありがとうございます。皆さまには本日、当社のアンドロイドの性能実験にご協力いただきます。
この四人の中に実は一人だけ当社のアンドロイドが混ざっております。皆さまにはどなたがアンドロイドであるかを当てていただきたいのです。
もし当社のアンドロイドを見事に当てることができたのなら、お約束していた二倍の謝礼金をお支払します。ただし間違ってしまった場合、アンドロイドだと疑われた方の謝礼金は没収いたします。つまり、疑われなかった三名の方にのみ、お約束していた謝礼金をお支払いたします。
それでは検討時間は一時間です。ご相談のほどよろしくお願いします。」
突然始まった実験はあまりにもゲームじみていた。しかも何かの実験に参加させられるとは聞いていたが、それによって報酬金がもらえないかもしれないとは聞いていなかった。男たちは文句を言いたかったが、係りの者は言いたいことを言い終えるとさっさと退室してしまった。
皆がどうしようかと途方にくれていると、その内の一人であるAが口火を切った。
A「報酬がもらえないなんて冗談じゃないじゃないが、アンドロイドを当てたら二倍もらえるのは嬉しいかぎりだ。俺は金を貰ったら、カジノの軍資金にしようと思ってるんだ。今度こそポーカーで勝つと決めている。だから、こんなのさっさと終わらせて帰ろうじゃないか。」
それを聞いていたBは言った。
B「カジノはさておき、さっさと終わらせたいのは賛成だ。でも、そもそもアンドロイドかどうかなんてどうやって当てればいいんだろう?」
C「一番アンドロイドっぽい人を選べばいいんじゃないでしょうか?」
B「見た目とか?アンドロイドはどれも目鼻立ちが整っている。」
Bの言葉を受け、皆で顔を見合わせた。四人の中にはお世辞にも顔が整っていると言える者はいなかった。
A「この中だったら、Cが一番顔が整っているんじゃないか?」
Aの言葉は苦し紛れの一言だったが、まわりも自分が疑われないならと「そうだそうだ」と同意した。だが、Cは自分だけ報酬がもらえないことは避けたかった。
C「待ってください、私はアンドロイドではありません。皆さん適当なことを言っていますが、そもそもアンドロイドほどの美形はここにはいないでしょう。であれば、逆にブサイクなアンドロイドを作って我々を騙そうとしているのかもしれません。例えばBがアンドロイドなのではありませんか?」
Cの言葉にBは怒った。醜いと貶され、お金も貰えないなんてたまったものではない。
B「ふざけるな、僕はアンドロイドじゃない。醜いからなんて理由でアンドロイドと見なされてたまるか。僕よりももっとアンドロイドっぽいヤツがいるだろう。例えば、Dなんか全然話さないし、アンドロイドのように不気味だ。」
今度はそれを聞いてDが黙ってはいられなかった。
D「ちがっ……、今まで話さなかったからって……。そんなこと言うなら、自分は仕切り屋で品がなさそうなAが怪しそうだと思いますけどね……。」
A「なんだとっ!」
四人の言葉にはどれも根拠がなく、議論と呼べる代物ではなかった。だが、誰もアンドロイド候補者には選ばれたくないので、口をつむぐことはできなかった。そうして、時間が立つにつれ、誰がアンドロイドかは関係なくなり、他人の気に食わないところを見つけては指摘し、感情を発散するだけの罵り合いへと発展していった。
四人がヒートアップしていくにつれ、机や椅子を蹴ったり壁を殴ったりするものが現れ、その後はとうとう四人で殴り合いの喧嘩を始めた。
博士は四人の喧嘩を別室で見ていた。彼は四人のやり取りをずっと観察しており、すべてメモに取っていた。
この実験はアンドロイドに人間らしさを学ばせるべく彼が企画したものだった。四人には誰か一人がアンドロイドだと伝えたが、実際はアンドロイドは混ざっておらず、全員が人間である。お金を目当てに集まった四人が、お金のために本性をむき出しにする。彼はそこに人間性が表れると考えたのだった。
博士は得られた結果に非常に満足していた。
「よしよし、非常に人間らしいデータが取れたぞ。金銭や自分の損得が絡むと攻撃的になるのは、なんとも生物的で人間らしい。このデータを使えば人間らしいアンドロイドが作れるに違いない!」
博士は手に入れたデータを使って早速アンドロイドを作った。そして作ったアンドロイドを同僚たちに見せ、どれほど人間らしかったかアンケートを取った。
アンドロイドに会った同僚たちは確かに全員「他のアンドロイドとは比べ物にならないほど人間らしい」と答えたものの、一方で同じく全員が「こんなアンドロイドは無料でもいらない」と答えた。
「これほどまでに人間らしいアンドロイドがいらないとはどういうことだ?」
博士はこの結果を疑問に思い、同僚に理由を尋ねた。
「だって、あのアンドロイドはこっちを馬鹿にしたようなことばかり言うぞ。しかも、いきなりポーカーがやりたいと言うからそうしたら、あのアンドロイドときたら、俺が勝つと『いかさまだ!』と叫び、ヤツのチップが尽きると怒り狂って机をバンバンと叩き始める。感情がむき出しで人間らしいかもしれないが、あんなものは誰もいらないよ。」
「なるほど、人間らしければいいというものでもないのか……。以前にアンケートを取ったときには、みんな人間らしいアンドロイドが欲しいと言っていたんだがなぁ。」
「みんな、自分が本当に欲しいものがわかってないんだよ。そもそも、社会は人間にすら人間性を求めないってのに、誰が機械に人間らしさを求めるって言うんだい?」
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