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かる読み『源氏物語』 【澪標】 明石の君の役割〜ヒロインの引き立て役はつらいだけなのか〜

どうも、流-ながる-です。『源氏物語』をもう一度しっかり読んでみようとチャレンジしています。今回は【澪標】のキーパーソンの一人、明石の君の物語における役割について考えてみたいと思います。

読んだのは、岩波文庫 黄15-12『源氏物語』三 澪標みをつくしになります。澪標だけ読んだ感想と思って頂ければと思います。専門家でもなく古文を読む力もないので、雰囲気読みですね。

紫の上のチャームポイントは嫉妬をすること

かなり前のお話、雨夜あまよの品定め【箒木】で嫉妬を全くしてくれないのは、自分に気持ちがあるのかわからなくなるといったことを話している場面がありました。雨夜の品定めは《理想の女性ってどんな人?》という疑問を"こうではないか、ああではないか、実際は中々難しいよね〜"といったことを議論していたわけですが、この『源氏物語』のヒロインである紫の上は理想の女性の答えであると示しているのだと思いました。

紫の上の嫉妬

嫉妬は可愛いんです。「よそ見せず私を見てよ」というアピールなわけでして、ずっと読んでいると紫の上の嫉妬は彼女の魅力がふんだんに出ている場面のひとつ思われます。少女の頃はその子どもらしさで源氏の心を揺さぶっていた彼女が、本格的に妻としての道を歩んでいく姿というものを、ここから見せてくれるということなのでしょう。

そんな紫の上の可愛らしい嫉妬を演出するのにあたって必要なのが、嫉妬をする相手なのです。漫画とかでもヒロインの嫉妬を演出するのに、対抗となる女性というものが配置されるというのがお約束です。自分の知っている漫画で例をあげると高橋留美子さんの『らんま1/2』ですかね。

源氏は紫の上の親という側面もあって、教育もしています。その中には”自分の理想と思う女性”というイメージがあって、こうあってほしい、こうあるべきだということですべてを紫の上に教えている。つまり嫉妬という要素も源氏の理想に即していると言えそうです。浮気をしたら黙っているのではなく、嫉妬して拗ねてほしい(ただし可愛いと思える範囲で)、ということですね。

思い起こされるのは葵の上のことです。彼女は源氏がどんなに浮気をしても冷ややかに黙り込んでいて、可愛さを引き算した非難をしていた感じです。おそらく源氏は葵の上への不満点をふまえて、紫の上には嫉妬を教えたということなのでしょう。具体的にどう教えるのかについて考えると難しいですけど、共に過ごしてきた空気感によって作られたのかなと思いました。

嫉妬を煽るのは明石の君の役割である理由

源氏には大勢の恋人とされる女性がいますが、誰であっても嫉妬するというのではあまりにヒロイン・紫の上としてはよろしくない。そうなるとそれにふさわしい女性相手でないとだめということなのでしょう。

明石の君は紫の上が結婚してから現れた女性です。すでに紫の上がいるのに、他の新しい女性の目を向けた、ということになります。しかしながら、これは特殊な状況もあったというフォローもあるなと思いました。当時、源氏は明石にいて紫の上に会えなかったというのがありました。明石の君に会いに行くぞという時に、紫の上のことを思い出しています。

紫の上と一緒にいられるのならばこうはならなかったかも、と。そんな気がします。

その後、明石の君についてこれは紫の上が気にするはずだとなる点としては源氏の子を産んでいることですね。その他、明石の君には音楽の才能があったり、字の感じが良かったりと細々したところも気になるところではありますが、大きな違いといえばそうなります。子どもまで生まれるということは縁がそれだけ深いと感じるわけです。だから穏やかではいられないのでしょう。

明らかに差をつけられた明石の君は引き立て役というだけなのか

主役を際立たせるには引き立て役も必要であることはわかります。しかし”それだけ”ではあからさますぎるので良くないということですね。明石の君は明石の君で彼女が主役となる物語というものがあるように感じました。

明石の君が主役にもなりうる要素

その特徴として挙げられるのは、彼女の身分ということになりますかね。本来ならば都から離れて育っていましたから、源氏のような高貴な人と結ばれるというのは相当数奇な運命と言えましょう。源氏はもうこの時点で大臣となっています。政治の中枢に入り込んでいます。

明石の君が源氏との格差を認識するイベントも用意されていて、それがかなり際立たせるようになっていて、同じ源氏の子である夕霧と、明石の君の子とのあまりにも違う境遇を突きつけられている場面はなかなかにつらいものがあります。

でもこれが明石の君の魅力でもあるな、と。
立場の低い人が上へ昇っていくというサクセスストーリーというものは、かなりの人が好きだ、と思うものになりましょう。決められた立場から苦悩しながら進んでいく明石の君の話はひとつの見どころとなっています。

住吉の神のお導き

源氏が明石で生まれた姫については占い(物語の占いは当たる)によって、将来皇后になるんだと信じています。なので自分の人生でかなり重要な出会いであったと感じている。明石の君と会う運命にあったから、将来皇后になる人が生まれるから、須磨と明石へ行くことになったというふうにも受け取れると。

成り上がっていくストーリーと、何か大きな力に導かれてその運命に立ち向かうストーリーが共存している、そう感じます。

なんというか平凡な主人公が「お前は将来〜になるのだから」と言われて、それを目指していくといったゲームのRPG感もあるな、とゲーム好きの自分は思いました。

確かに明石の君はヒロイン・紫の上のことを考えると引き立て役なのかもしれません。しかしながら明石の君自身が持つストーリーではしっかり主人公になっている。それが面白いなと思いました。

明石の君が課せられた宿命をどう受け止めて進んでいくのか、これからも注目しながら読み進めたいと思います。

ここまで読んでくださりありがとうございました。

参考文献
岩波文庫 黄15-12『源氏物語』(三)澪標ー少女 澪標みをつくし

続き。澪標に登場したもう一人の女性を中心にまとめてみました。


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