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かる読み『源氏物語』 【若菜上】 この帖について受け止められる気がしない

どうも、流-ながる-です。『源氏物語』をもう一度しっかり読んでみようとチャレンジしています。今回は【若菜上】を読み、源氏と紫の上に与えられた試練について考えてみたいと思います。

読んだのは、岩波文庫 黄15-14『源氏物語』五 若菜わかなになります。【若菜上】だけ読んだ感想と思って頂ければと思います。専門家でもなく古文を読む力もないので、雰囲気読みですね。


女三の宮との結婚は逃れることのできない試練であるかと思う話

もう自分の中で源氏は源氏というのが統一した呼び名になっているんですけど、文中では”院”という名称が出てくるようになりました。源氏は準太上天皇なのです。そうなってくると六条院というのは半ば、後宮のような場所とも言えそうだなと思いました。
女三の宮は、作法としては臣下が内親王を迎える形で六条院に入りましたが、半分は入内風でもあるという、どっちとも決めきれない形の結婚をしています。源氏が準太上天皇として女三の宮を迎え入れたという視点で考えてみると、この結婚は帝がお妃を迎えるのと似たイメージも出来なくはないかなと。

思えば、桐壺帝きりつぼてい藤壺ふじつぼの宮を何としても後宮に迎え入れたいと願って入内じゅだいした以外は、歴代の帝は臣下から政治的な意味合いも含めてお妃を後宮に迎え入れています。

  • 桐壺帝
    弘徽殿こきでんの女御(太后)、桐壺きりつぼの更衣、藤壺の宮

  • 朱雀帝すざくてい
    朧月夜おぼろづきよ、今上帝の母、女三の宮の母

  • 冷泉帝れいぜいてい
    秋好中宮あきこのむちゅうぐう、弘徽殿の女御、王の女御

さらっと思い出せる範囲で思い出したところ、当たり前といえばそうですが、政治と密接に関係している後宮には帝の意思は関係なくお妃が入内しています。桐壺帝が桐壺の更衣をとにかく寵愛したというエピソードはインパクトがありますが、桐壺の更衣の後宮入りについては、彼女の父親の強い意志によるものですね。
源氏を仮に帝と同じとすれば、女三の宮はやはり後宮に入ってきたということになるのでしょう。

源氏の元服直後のあおいの上との結婚もそうですし、葵の上の兄の太政大臣の結婚も当人の意思は関係ないと思われるので、今回が特別そうだというわけでもないのですが、とにかく今回の女三の宮との結婚は源氏が自分から動いて新しい女性を見つけて加えたのとは事情が違うと感じます。

とはいえ、源氏は帝ではなく、これから政治にがっつり関わりますというほどでもない。つまり女三の宮との結婚は政治的な意味合いが強いわけでもないので、絶対必要で朱雀院からの打診を承諾しなければならないというほどでもない、けども、これまでのこともあり断りにくい相手だったというラインが、源氏と紫の上の苦悩を生み出しているような気がしました。

源氏、後ろめたいくせに、なぜ逆の行動をとる

紫の上の静かな涙

【若菜上】において、「源氏、お前なにやってんねーん!」というツッコミが入るのが、女三の宮との結婚を承諾し、紫の上に対して申し訳ない、後ろめたいと思っているのに、かつての恋人である朧月夜に会いにいく点です。

夢の考え方については、当時と今では違うとは思いますが、女三の宮のもとにいる時に源氏が紫の上の夢を見るというのは、二人が一緒に居ないことがそれだけ異常事態であるということを表していると思われます。二人ともが落ち着かない。

紫の上がその夜に、源氏以外の誰にも知られず流した涙のことを思うと、胸が締め付けられます。源氏は幼い頃から紫の上を育ててきて、まだ彼女が幼い少女だった頃の”離れるのは寂しい”と素直に態度に示した子どもらしい姿もきっと記憶に残っているはずだと思います。紫の上が、寂しさをこらえきれず涙を流していたということを知ったならば、それは後ろめたさにつながることと思います。

しかし源氏はなぜか朧月夜に会いに行きます。かなり強引なお出かけです。ただでさえ紫の上のことが気がかりであるのに、紫の上を傷つける行動をとってしまう、不可解な行動ですね。「何やってんだ!」となる行動です。

朱雀院との複雑な関係

朧月夜との関係が復活したのは、朱雀院が出家し、朧月夜が朱雀院のもとから離れたからでしょう。あくまでそれはきっかけです。

女三の宮との結婚という面倒ごとを持ち込んだのは朱雀院ですので、だからちょっと仕返ししようとしたのか、そのあたりの真意はわかりません。源氏と朱雀院のお互いに好意だけでは表せない関係性を感じました。政治上のしがらみがほぼなくなったとしても、完全に真っ白に純粋に兄弟として親しくすることは出来ないといいますか、どこか互いに厭に感じるといいますか、受け入れにくいところがあったのかもと思いました。

朱雀院は朧月夜を大変寵愛しましたが、源氏のように自分が好ましいと思った女性を求めるということを自由にできない立場でした。帝なので、周囲が決めた女性が中心です。退位した後に求婚した秋好中宮あきこのむちゅうぐうも、冷泉帝を支える源氏と藤壺ふじつぼの宮の政治的意図によって冷泉帝に入内し、手に入れることが叶わず、思うようにいきませんでした。
朧月夜も源氏に奪われ、秋好中宮も源氏によって得ることが出来ず、とよくよく考えてみれば、女性に関して源氏のためにうまくいっていないことが多いなと思いました。

そう考えると、意図的にではないですけど、朱雀院は女三の宮を源氏に押し付けることで、今まで味わってきた女性についての苦悩を源氏にも味合わせることができたともとれるといいますか、わざとじゃないだけに、これまで源氏が朱雀院にやってしまったことの反動がきたのかもという気がします。

朧月夜が解放されることで、さらに源氏にダメージが重なる

ダメージを受けているのは紫の上のほうだ、という大前提がありますが、紫の上の源氏への信頼や情を失わせることは、最終的に源氏へのダメージにつながると思うのです。

なぜここにきて朧月夜なのかについて、考えてみます。ほぼ妄想に近いですが、たまたまちょうど良いタイミングで朧月夜が解放(フリー)になったから選ばれたのではということです。

かなり前の帖、ほぼ序章にあたる【箒木】の「雨夜の品定め」で、妻の嫉妬が激しいとげんなりするものの、全く嫉妬しないというのも愛されていないようでいやだ、といった話がありました。源氏は女三の宮の件について、紫の上が冷静に落ち着いた態度で優等生的回答をしたことに、なぜか不安を覚えて、思い切り嫉妬できるであろう相手である朧月夜を使ったのか、と思いました。

源氏はわりとすぐに朧月夜に会ったことを紫の上に匂わせていました。これは紫の上の反応がみたくて朧月夜に会いに行った、本当の目的は紫の上の嫉妬だったのでは、という感じです。

朧月夜は魅力的な女性に違いないのですが、政敵側の女性だったというのもあるのでしょうか、どうにも扱いが軽く感じます。藤壺の宮と源氏の密通を公にさせるわけにはいかない、でも源氏には罪を背負ってほしい、だから代わりに朧月夜だったのではないか、と考えたことがあります。
以下のnoteです。

なので、今回は紫の上の嫉妬心を引き出したいと思った源氏の都合に合っていたから、「この人なら押せばいける」という感覚である意味使われたのでは、と思うとあまりに紫の上寄りの考えかな、という気もしますが、そうした一面もあるのかもって感じです。例えば、明石の御方では両者の関係性が良好なのと明石の御方がしっかり謙っているので難しいですね。紫の上からすれば朧月夜のほうが情報量が少ない、昔の恋人という点も不安を煽る要素だと思われます。

人間って何なのか

女三の宮の登場から始まったこの悲劇は、源氏の未だに残る藤壺の宮への執着心が引き起こしたことなのか、それともどうであれ逃れられないことだったのか、考えれば考えるほどにこれは仕方のないことだったという気がしてきます。コントロールできない感情があるからこその人間の不完全さ、それを受け入れなければならないと突きつけられるような感じです。

源氏と紫の上って人間としてものすごく理想的な人物というか、どう考えても誰もが憧れるような人じゃないですか、完璧です。それは読者が自然に認識していることだと思います。なのにここにきて二人は悩み苦しみ抜いている。長く理想的で憧れられる人として、夫婦として存在してきた二人がです。人間って完全になれない、人間ってなんなのか、と考えさせられます。

源氏と紫の上は主人公とヒロインです。だからこそ、二人の関係の変化につながる出来事があらゆる登場人物によって引き起こされているんだと思います。それを二人がどう受け止めどう答えを出すか。読んでいるこちらも中々にしんどい展開が続くかと思いますが、読み進めたいと思います。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

参考文献
岩波文庫 黄15-14『源氏物語』(五)梅枝ー若菜下 

続き。紫の上の出家について考えてみました。

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