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都市木造への考察① 「背に腹はかえられない」とは言えない木材利用|木材の基礎知識

「背に腹はかえられない」とは言えない木材利用

中大規模の木造建築に従事し始めて5年の月日が流れようとしている。
現在では担当プロジェクトのそのほとんどが木造化、木質化されており、その社会的意義を感じながら、同時にその未開拓への難解さを痛感する日々が続いている。

木造は他の構造種別(RC造・鉄骨造等)と比較し、材そのものが有機質で構成されており、材自体の経年変化を前提とされた設計作法や、構造体や内装材における法的制限など根本的かつ多岐にわたる相違点が存在する。コンクリートや鉄がJIS(日本工業規格)に準じて品質が定められるのに対して、木材はJAS(日本農林規格)である点がそれを物語っており、前者は「工業的」な材料であるのに対し、後者は「農業的」な材料であると理解すると、全く異なるアプローチ(作法)が求められることは容易に理解できるだろう。広義に捉えると木材は「野菜」なのである。

そういういった観点から、「木造を目指す」ということをは、川上から川下までのサプライチェーンへの理解や、木材・木製品に対する知見、中大規模建築における関連法規への理解が必須となり、裏を返せばそれらへの理解不足がコスト高の要因をつくり、非常にメンテナンスのかかる悪しき前例を作りかねない状況にあることも言わざるを得ないだろう。

木材利用促進法が定められ、SDGsにおいて地方と経済、環境の循環が求めめられる中、都市や建築における木材利用促進はまさに社会課題となっており、その中で木材利用を真に進めるための試行錯誤のエッセンスとして、私的な考察を少しずつnoteに書き綴っていきたいと思う。

その初回として、「農業的な」材料である木材そのものについてのごく基礎的な知識についての考察、この「当たり前」の知識が設計作法の全てのベクトルの起点になるであろうという仮説のもと、あえて文章にしたいと思う。

木材の基礎知識

木材を輪切りにして年輪の中心側が「心材」、外皮側を「辺材」といい、枝や葉に根からの水分や養分を運ぶのは外周部の辺材部分が担う。

このように木材の成長は外皮に近い辺材部分において進み、1年に1本年輪は外側に増えていく。育った環境やその年の天候などで年輪の幅は変化していき、有機的な年輪の重なりが形成させる。

年輪が古い心材部分は色が変わっていき「赤身」となり、外周部の辺材部分は色の明るい「白太」となる。一般的な針葉樹の「赤身」は水分が少なく、鉱物が凝縮されることで「白太」と比べて耐腐朽性、耐蟻性が高い。(樹種によっては含水率分布は異なる)

木材は断面において水分量の差があるため、製材の仕方によっては乾燥伸縮による反りが発生するため、建材として利用する部位(柱・梁・土台など)に対してどのように木取り(原木から必要な寸法、品質の材を製材)するかがポイントになる。

木取りの仕方として、樹心(年輪の芯)を持つ「芯待ち材」は小径木から一丁取り(一本の原木から一本の材)できるため、構造材として使われることが多い。芯のズレにより反りを防止するために「背割り」を行うことがある。節が多く、木目は「板目」となる。

樹芯を持たない「芯去り材(割角)」は丸太の外周部から取られる為、白太が基本となり、木目に「柾目」が出てくる為、意匠性が求められる造作材として用いられることが多い。

反り対策においては含水率と製材方法にもよるが、木目を繊維方向に断ち切らず真っ直ぐに製材するのがベストで、樹心が絡む木取りにおいては樹心に沿って真っ直ぐに通す必要がある。

芯去り材の樹芯側を「木裏」、外周部側を「木表」といい、板材として利用する場合は水分の多い木表側に反る為、例えば建具の敷居、鴨居で用いる場合は建て付けに配慮し、どちらとも木表側が内側に見える面として利用し、上下に枠が広がる変化を想定する必要がある。

年輪の幅が小さい方を「背」、広い方を「腹」というが、傾斜地に育った樹木の場合、谷側が「背」、尾根側が「腹」となる。年輪の幅の大小により、結果的に「背」側に樹心が寄る為に、製材した際は、乾燥収縮しにくい「背」側に凸の形状変化が起こる。

梁材においては、樹心を上(背が上)にすることで上に凸の「ムクリ」を想定し、荷重に抵抗する配置としたり、土台や大引においてはムクリによる基礎との隙間を作らないように、樹芯を下(腹を上)にし、下に凸の「ムクリ」を想定する。
「背に腹はかえられない」とはこういう原理から生まれた言葉だ。

だが、冒頭で記述したように「木材利用」においてはそう割り切ってはいられないだろう。「背」も「腹」もそれぞれ適材適所の利用が必要なのだ。
(文:大庭拓也

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