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自分という存在を自分たらしめる身体。

『パフォーマンス医学』 先読みレビュー18 田中 渉悟さん

本書について書く前に、二重作先生と出会ったきっかけについて、触れておきたいと思います。 私は田中渉悟と申します。ジャーナリストの田原総一朗と月に一度のトークイベントを開いています。ふだんはビジネスマン向けの学びの場をつくる会社で仕事もしています。

二重作先生との出会いは2022年末に遡ります。 ある日、田原さんとの打ち合わせを終えたあと、丸の内の丸善書店に立ちより、『強さの磨き方』を見つけました。

Twitterでも見たことがあったので、以前から気になっていたのです。

本を手に取り、パラっとめくると「田原総一朗」の文字を見つけました。おや?と思い、よく見たら、田原さんの言葉が引用されているのを見つけました。

「好きなことをしてお金を払うのが趣味、好きなことをしてお金をもらうのがプロ」

田原さんと打ち合わせをした後に、偶然手にした本の中に、田原さんの言葉が引用されている。 これを書いたのが「格闘技ドクター」という、なんじゃそりゃ!という肩書きの方であることに、ミステリアスな興味も惹かれました。

これがご縁となり、二重作先生との親交が始まり、現在に至ります。田原さんとのトークイベントにもゲストとしてお招きさせていただいたこともあります。

 そんな私がこの度、先生の新たな著書『可能性にアクセスするパフォーマンス医学』を発売前に読ませていただく機会を賜りました。

まず「パフォーマンス医学」というパワーワードに、「格闘技ドクター」と同じくらい、ミステリアスな魅力を感じました。私は先生の言葉の選び方、組み合せ方に、誰もがやらない道を切り開いてきた覚悟を感じます。

「パフォーマンス」とは何を指しているのか。 本書でいうパフォーマンスは、もっと大きな「生きること」そのものだと認識しています。 「生きている」中で行っている動作の全般と、それらの総体として「その人をその人たらしめている」存在そのものを指す言葉としての「パフォーマンス」だと思います。

 そして、パフォーマンスは生涯に渡って進化することができる。そのヒントのなるのが本書です。決してそれらしい答えは出していません。ここが『強さの磨き方』との共通しています。

 パフォーマンスを構成する要素のひとつに「運動」があります。 二重作先生は運動の定義を「前頭前野で想起された運動イメージを、筋肉(随意筋群)が具現化するプロセ ス」(36ページ)としています。 運動は脳で「運動イメージ」したものを再現する一連の過程であり、そこで「記憶」とも密接に関わってきます。「運動イメージ」を起こすのが、記憶された言語や過去の経験の蓄積であり、それらを組み合わせて動作を起こしているのが、脳内での神経の組み合わせ(シナプス)によるものなのです。 つまり、運動を変えるには、記憶と想像の解像度を変えないといけないのです。

 例えば、私は人前で話すことが多い仕事をしています。時にはマイク無しで話さなければならない時もあるし、議論やディスカッションでは声が大きい相手に圧倒されそうな時もあります。田原さんも89歳とは思えない声量と勢いで、侃侃諤諤の議論を仕掛けてきます。まさに「猛獣」です。

そんな折に、本書に書いてある 「背中の後ろ30センチの地点Xから声が自分の身体を貫いて目標の地点Yに飛んでいく」イメージで、これを「猛獣のように」やってみました。すると、かなり通った声がでるようになりました。

 元々、私は声の大きさには自信があったのですが、腹から声を出すのではなく、のどを酷使していました。自分で自分の声が、気持ちが乗っていない軽いものに思えてなりませんでした。

 しかし、「背中の後ろ30センチの地点Xから声が自分の身体を貫いて目標の地点Yに飛んでいく」を脳内でイメージしたら、それに応じて身体が動いて声を出してくれました。

 これも具体的な位置(背中の後ろ30センチの地点X)から方向を定めて(目標の地点Y)「自分の声」が背後から身体を貫いていくイメージをしただけで、見事に芯の通った声に変わったのです。

 これまでは、発声トレーニングのYouTubeを見よう見まねで試してみたり、腹筋を鍛えたりしてみましたが、脳の使い方を変えるだけで、身体も変わり、パフォーマンスにも変化が生まれました。 「イメージトレーニング」とよく言いますが、ただ漠然とそれっぽくイメージするだけでなく、記憶と想像を駆使して頭に思い浮かべることが必要なのです。

(二重作先生のご友人であるオペラ歌手の大山大輔さんに「口の形を卵にするといい」というアドバイスをいただいたこともありますが、これも記憶と想像を駆使したパフォーマンスの例だと思います)

本書では記憶が変わることでイメージが代わり、運動が劇的に変わるワークがいくつか紹介されています。先生の専門である医学的な知見と、空手の求道者としての実践を交えて解説されており、圧巻の書です。

 では、どうしてパフォーマンスを磨くのか。 それは「どんな時でも、生きることに希望を持つため」だと思います。

 この本に書いてあることを実践して、すぐにメリットが返ってくるかどうかは分かりません。すぐに年収がアップするかは分かりません。急に喧嘩が強くなるかは分かりません。密かに思いを寄せているあの人から好意を持たれるかは分かりません。選挙に立候補したら当選するかは分かりません。

 人生いい時ばかりではありません。私も数年前、精神的にしんどい時期がありました。 今は回復したものの、毎日のように理想と現実で葛藤したり、自分のだめなところばかりに目が向いたり、他の人のいい所ばかりが輝いてみえて劣等感に苦しんだり、負けそうになる時もあります。

 こういう時、よく「自信を持って」とよく言われます。 「自信」は「自信を持て!」と脳に命令して持てるものではないと思います。 仕事で何かしら成功体験を積んだり、おしゃれをしたり、ダイエットを頑張ったり、SNSのフォロワーが増えたりすることも、自信をもつために必要かもしれません。

 私はそこに「身体の可能性を開花させる」もぜひ加えてほしいなと思います。

 自分という存在を自分たらしめる身体。

 本書によると、自分で意識的に動かせる筋肉とそうでない筋肉があります。心臓なんかその例でしょう。 それくらい身体は謎に満ちた、「自分」でさえ全てを把握できていないものであり、そんな不思議なものを全て把握できないもどかしさを抱えたまま、私たちは生きているのです。

 だけど、私は二重作先生の本を読んだり、ワークショップに参加すると、他の誰とも比べる必要がない、唯一無二の自分の身体の可能性に触れらえれたような気がして、前向きになれるのです。

「自分にはこんなことができるのだ!」と驚きを伴った、本当の意味での自信を持つことができます。 本当の意味で自分を知り、認め、愛することができる。それが身体の可能性を開花させる「パフォーマンス医学」の究極の目的ではないかと思うのです。

 そのために必要なのが「言葉」です。 身体の変化を起こす記憶と想像の変革も、言葉を磨くことから始まります。 言葉は時に人を鼓舞し、時に人を傷つけ、時に人を変える力を持ちます。 身体と言葉がつながっている。これだけでもおもしろいと思いませんか。 二重作先生の理論と実践、そして人間の叡智を愛する言葉が詰まった一冊です。 ぜひみなさん、読んでみてください。

田中渉悟さんがMCをつとめる田原カフェ、そして田原総一朗チャンネル

PS やると、変われる。


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