『反重力建築の姿と世界』
過去のレクチャーイベントの感想まとめ。
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17.10.15(Sun.)
「反重力建築展」
レクチャーイベント『反重力建築の姿と世界』
@四谷アートコンプレックスセンター
ANOMaRY Studio・建築芸術家として活動なさっている姉咲たくみさんによる構想から7年越しの個展「反重力建築展」とそのレクチャーイベントにお邪魔してきました。
レクチャーイベントは姉咲さん×押山くんの対談。姉咲さんの人物背景を踏まえつつ、反重力建築の意義・可能性といった話が1時間でスマートに議論されていて面白かったです。
まず作品が面白い。SF系のRPGゲームや映画・本等に触れたことあるなら惹きこまれる方も多いはず。得も言われぬ憧れの世界がそこにある。
それらの世界にも背景となるストーリーがあるように、姉咲さんの作品にも綿密なストーリーが通底している。その根幹に「反重力」という概念があって、実は夢物語などではなく、いずれ(いつになるかは分からないけれども)実現可能な世界。
建築的にみてとても興味深いのは、「反重力」が既成の建築における概念を刷新する/完全に解体する可能性があるということ。
かつてアーキグラムやスーパースタジオといったヴィジョナリー・アーキテクトとも呼ばれる人たちが提案してきたものからの影響がもちろんあって、作品の端々に見てとれるが、やはりそれらをリアルに実装する最大の課題は物体における<重力>と<質量>だろう。
これはそのまま建築全般にも言えることで、建築の形態はなにも人間のためではなく、その多くは構造的(とそれに追従する経済的)観点から規定される。その足枷が外れたとしたら、いったいどれだけ建築は自由になれるのだろうか?
また別の観点で面白いのは、「反重力建築」の背景にあるストーリー。それは多分に社会風刺が含意されていて、<人間と空間の在り方>に対して非常に示唆的。
たとえば、様々な国籍の人間が集合した時の様相の現れ方=ここでは各国の建築様式が記号として表出する。
たとえば、人間が地上を離れ自由に行き来できる時に発生する国境の問題=コスモポリタン的になった世界になっても尚争う人々。パラグ・カンナの『「接続性」の地政学』を想起させるような移動の自由度は何をもたらすのか。
たとえば、空中都市においてあらゆる生物はどのように生存可能か=人間と家畜は居住域を分断せざるを得ないのか。
たとえば、超過密都市において空白となった地帯には何が発生するか=圧倒的な自然と居住環境が共生するのか。バブル期のハイパービルディング構想や、八束研の『Hyper den-City』を想起させる、或る種のディストピアチックな、しかし欲望的な姿。
などなど…。
これらは一種の物語としてもとても面白いので、ぜひ文章化してほしいところです。映像化にも期待。
こんなアンリアルな議論に何の意味が、って思う人もいるかもしれませんが、リアルを相対化するためには非常に重要な視点で、むしろこういったパースペクティブをもったうえでリアルな創作活動をするか否かで成果物が決定的に異なってくると考えてます。
即物的に判断することを余儀なくされる昨今。どうしてもそこからは距離を置きたいし、そのための思考回路と行動手段っていうのがある。そういった意味で、姉咲さんの作品からはとても勇気がもらえます。ただただ尊敬。
1991年神奈川県横浜市生まれ.建築家.ウミネコアーキ代表/ wataridori./つばめ舎建築設計パートナー/SIT赤堀忍研卒業→SIT西沢大良研修了