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建物の外へ出られない背景たち

 アイデアの可能性を探る際、顧客の生の声を聞くことは欠かせない。どれだけ会議室で議論を交わしても、デスクリサーチを続けても、リーンキャンバスを埋めても、それは自身の主観に凝り固まった意見や妄想の類で価値がない。だからこそ、私たちは建物の外へ飛び出し、顧客という名の客観に身を委ねる必要がある。

 と、多くの人が頭では理解しているものの、多くの人々がこのステップを無意識のうちに避けようとしてしまう。最近、日本を代表する大手企業の新規事業に関わる方々と話をした際「顧客に突撃しろ!インタビュー大事!ってあれだけ口ずっぱく言われてるし、自分たちでも大事だって言ってるのに、外に出るのって展示会ぐらいなんですよね(笑)」と苦笑いされることに。

 なぜ、人は建物の外へ飛び出さないのか。その背景を三つほどメモしておきたい。

 一つ目の躊躇の背景は、否定されたくない気持ちがあるから。新しいアイデアを考え、それをカタチにすることは楽しい作業。けれども、もしかすると人に伝えることで、そのアイデアは実は一切の価値がなかったことになってしまうかもしれない。故に顧客に話を聞くことを避けがちになってしまう。

 例えば教育用のネコ型ロボットを作るアイデアがあったとして、「このアイデアは絶対に面白い!」と本人が思えば思うほどに、教育熱心な親御さんに話を聞くことを避けるようになってしまう。そのアイデアを失いたくないという気持ちが邪魔をしてしまう。

 二つ目の躊躇の背景は、初挑戦への恐怖の気持ちがあるから。特に、自分と繋がっていない赤の他人に話を聞いたことがある方は意外と少なく、どうやって聞けばいいのか分からないと感じてしまう。もちろん研修や書籍でその重要性や知識はインプットされてはいるものの、実際に行動に移すのは途方もない壁を感じてしまうもの。

 例えば、教育用のネコ型ロボットを買ってくれそうな親御さん候補を無事に見つけられたとしても、どんな顔をして近付いていき、どんな声をかけるのかが分からず、ただ恐怖にからめとられてしまい、その場に立ち尽くしてしまう。

 三つ目の躊躇の背景は、完成への執着があるから。多くの人は、売り出すことができる完成品の域に至っていないと、検証する意味がないと思い込んでしまう。けれども実際には、完成していない状況でも有用なフィードバックは多々得ることができる。

 例えば、教育用のネコ型ロボットが完成していない限り、人に見せたとしても「使えない」「買うわけない」という反応が返ってくるに違いない、と勝手に思い込んでしまっている。もちろんこれは間違いで、最初はコンセプトを語るだけでも、イラストを見てもらうだけでも、プロトタイプを触ってもらうだけでも、検証として大きな価値がある。

 新規事業やスタートアップのアイデアを確かめるためには、主観を抜け出し話を聞くことが欠かせない。否定への恐れ、初挑戦への不安、完璧への執着の壁を乗り越え、勢いよく建物の外へ飛び出し、顧客と向き合っていこう。

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