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マネジメント層とメンバーの間の「埋まらない溝」と言われるものは、視界や基準の問題ではない


 

はじめに

企業がよく直面する組織問題の1つに「メンバーとマネジメント層以上の意識や基準のギャップが大きい」がある。例えば、業績が悪かった時に、マネジメント層以上は「メンバー1人1人のスタンスが甘い。もっと行動量を増やさないといけない。」とメンバーの問題だと考えている一方、メンバーは「あれもこれも手を付けないで、もっと選択と集中しないといけない」と会社や部の戦略の問題だと捉えている状況である。この記事では、この問題について考察をしてみたい。


マネジメント層以上とメンバーの意識や基準は異なる

実務を担当しているメンバー層の方は、下記のようなことを思うことはないだろうか?

・上層部は将来のビジョンや目標を描いていない。魅力的なビジョンがないから一体感も弱いし、これでは各部でうまく協業することも難しい。

・なぜ、経営層は「選択と集中」をしてくれないんだろう。あれもこれも手を付けてばかりでは、業務負荷が増えるばかりじゃないか。

・経営層は既存の延長戦上のことしか考えてない。失敗を避けることばかり意識がいっており、大胆な意思決定がほとんどない

・・・


一方で、部下やメンバーを持つマネジメント層以上の方は、日々業務をする中で、下記のようなことを思うことがあるのではないかと思う。

自分で考えて主体的に動いてくれない。こちらが目標を設定したり、課題を設定してあげないと、自分からは自主的には動いてくれない。

・結果を追求する姿勢が弱すぎる。結果につながる行動をとって欲しい。ひとつひとつの業務をやり切って欲しい。

・会社や自部署の方針に沿って、まずはすぐやってみて欲しい。やる前に色々と意見を言うのではなく、まずはやってみてから議論しよう。

などなど・・・


 単純化すると、メンバー層は「業績が上がらないのは、上の経営力・マネジメント力の低いからである」と思っており、逆に経営層やマネージャーは「業績が上がらないのは、メンバー層の実務能力・行動力が低いからである」と思っているような状況である。(実際には、こんなに単純ではないが、これに似た構造は規模の大小に関わらず多くの会社で見かける。)

 そして、これは「マネージャー層以上と、メンバー層の意識・基準の違いが問題」と捉えらえることが多い。役割が違うと見ている時間軸も違うし、求める結果の基準も違うだろう、という捉え方である。そして、基準の低いメンバーの視界をより引き上げるために、マネージャー層以上のマジメント力を高めよう、という方向性で解決策が検討されることが多い。


「マネージャー層以上とメンバー層の意識・基準の違い」は本当の問題なのか?

上記の問題定義と解決策の方向性は一見まっとうに見えるが、問題をそう捉えることが本当に組織改善につながるだろうか?その捉え方は少し安易ではないだろうか?と思うことも多い。なぜなら、メンバーとマネージャーで組織の捉え方が違うのは「当たり前」だからである。マネージャー以上とメンバーでは、課されるミッションも違えば、持つ責任も業務内容も違う、給料も違う。多くのことが違いすぎる。基準が異なってくるのも当たり前ではないか。そんな「当たり前」のことを、組織の問題と捉えるのは変ではないか?

では、何が問題なのかを考えた。これはすごく難しい問題ではあるが、現時点では、この問題の根本は下記だと考えている。


階層とか関係なく、ひとりひとりが「自分が問題を生み出している可能性」を疑っていないことが問題


本当の問題は、階層など関係なく、純粋に一人一人が組織問題を自分が生み出している可能性に目を向けられていないことだと考えている。例えば、あるメンバーが自分なりに入念に考えて上層部の人に提案をしたが、それを受け入れてもらえなかった時、「自分が提案を通せなかったのは(自分の提案力のせいではなく)、上司の理解力とリスク回避志向のせいである」というように、他人のせいに思ってしまうことが問題なのである。つまり、自分の提案内容に非があった可能性に目を向けられていないのである。

 また、あるマネージャーが、結果が出ていない部下の営業マンがいたときに、その要因をすぐに「部下の営業に向き合うスタンスが悪い」とすぐに決めつけることがある。しかし、その結論に至る前に「自分の部下への指示が悪いのかもしれない」「自分が設定している目標が良くないのかもしれない」「営業プロセスの仕組み設計ができていないのかもしれない」という思考を通らず、安易に問題を相手のせいにしてしまうことが大きな問題なのである

つまり、マネジメント層以上とメンバーの間で起こる「問題」と思われることの多くは、表面的には上司と部下という役職による視界の違いと捉えられがちだし、それが分かりやすいのだが、それよりもむしろシンプルに「問題を自分が生み出してしまっている可能性に目を向けられず、他者や環境のせいにしてしまっている」ということが両立場に共通している問題なのではないかと思っている。これは、多くの企業でメンバーの声もマネジメント層以上の声も、第三者として聞いているからこそ、気づけたことかもしれない。

「組織の他責思考」をどう改善していけば良いのか

いくつか考えらえる指針を挙げておく。①は社長ができること、②はメンバー層ができること、③はマネージャー層ができること、④は全員ができること、である。

①社長は、自責思考の強い人を主要ポジション(社長含む)に配置する。
他責思考の厄介な特徴は「伝搬しやすい」ことである。なので、影響力が大きいポジションには自責思考が強い人を配置するべきである。特徴としては「自分ではなく組織を優先して判断できる」「他人の悪口言わない」「自分のミスを認められる」「問題をフラットに捉えようとるす」等が挙げられそうである。

②メンバー層は、「上司」を「仲間」と捉える
多くのメンバーは「上司は○○するものだ(してくれるものだ)」と、勝手に大きな期待をしている。その期待を下げて、一人の仲間として捉えてみるべきである。例えば、「上司はどんな問題も解決する方法を知っているはずだ」と思ってしまうと、指示が想定より曖昧だった時に「上司は全然仕事ができない」と思ってしまうが、「上司も一人の従業員である」と捉えると、「上司はこの領域は知らないだろうから助けてあげよう」というマインドを持てることもある。マネージャーとかメンバーの関係性を上下ではなく、「役割の違い」と捉えておくのがちょうど良いと思っている。

③マネージャー層は、自分の弱みや問題を素直にメンバーに開示する
 例えば自分の弱みが組織の問題を生み出してしまっていると薄々分かったとしても、人間なので簡単には変われない。もちろん、変わる努力をしたり、その努力を伝える、等の行動は必要だが、それよりも大切なのは、その自分の弱みが問題を生み出していると、自分自身も認識していることをメンバーに素直に伝えることだと思う。例えば、育成が苦手で、本当は部下のキャリアを考えて魅力的な仕事を出したいと思っているが、そのデザインが苦手である、というような弱みは、素直に伝えた方が良いと思われる。マネージャー層が「自分にも問題があると思っている」と素直に捉える姿を見て、下の人も自責思考が身につくように思う。

④人の悪口・陰口を言わない
他責思考は悪口や陰口となって表面化する。「うちの社員は全然○○ができない」「あいつは全然弱い」など、本人にその気がなくても、悪口というのは伝搬するものである。悪口かどうかは「その人を前にした時に言わないようなことを言っているかどうか」で判断すれば良い。この定義であれば、おそらくほとんどの人が何かしらの悪口を日々口にしているはずである。従業員に影響力を持っているのは、やはりトップや部長クラスの人達の悪口である。そのような立ち位置にいる人は「どんなつらい時も、人の悪口・陰口を絶対に言わないタフさ」が必要だし、それが自責思考な組織を創る上では必須となるように思う。


自責思考な組織をつくるのは本当に大切であり、そのような意味でリクルートの「お前はどうしたい?」のようなキャッチフレーズは、本当に優れたものだと思っている。自責思考な組織を創るためには、他にどのようなことが必要なのかについては、今後も引き続き考えていきたいと思う。



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