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貧乏だった時のタダ酒の飲み方

二十歳前後の頃、僕は底抜けに貧乏だった。

月収五万円で、家賃が六万円の家に住んでいた。ギリギリ計算が合わなかった。

何かを手に入れたくとも手に入れられなかった。それでも何かを手に入れなければ潰れていくのが人間だ。

「何か」を手に入れる方法というのは、そこまで多くない。五つほどしかない。

①買う
②借りる
③拾う
④パクる
⑤奪う

他には強盗く(タタく)や詐欺る(サギる)いうのがあるが、確実に刑事罰の対象になるので難しいところだ。

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ちなみに④や⑤はミュージシャン、作家ならば避けては通れない部分だ。「自分にとってはパクリだが、リスナーからしたらインスパイア」という領域にいくと、ようやく量産が可能になる。

さて、三宮や十三をウロついていると、酒を飲まねばならない夜ばかりである。

困ったもので酒を飲むには金がいるのだ。金が無いから、酒を飲んで忘れたいのにムチャな話である。

しかし僕は金が欲しいわけではない。酒がほしかったのだ。

とにかく酔っ払って、アルコールの薬効が作り出す無敵感、万能感さえあれば、金など入らなかった。

しかしなかなか拾うもパクるも奪うもできない。酒は落ちていないし、僕はコンビニ酒を飲みたいわけでもないのだ。

ほどほどに風情の効いた酒屋で、安酒をゆっくりとあおりたいのだ。こうなると「パクる」は難しい。五合は飲むので、逃走してもすぐに捕らえられるだろう。

そこで僕は「払ってもらう」に挑戦するようになった。

横丁の飲み屋。綺麗すぎるわけでもないが、汚すぎもしない店を選ぶ。

ここでカウンターで一人チマチマと飲んでおく。

しばらくやっていると、サラリーマンの集団が入ってくるのだ。後は頃合いを見て、彼らのテーブルへと突撃して頭を下げるのだ。

「すみません。僕あっちで一人で飲んでるんすけど、お金無いんす・・・払ってもらうとか無理すか?」

「え、なんで・・・?ていうか誰、おまえ?」

「平井です。はじめまして。何ていうか、一円も無いんす。ただ、払ってくれたら何でもします!これ、僕の電話番号す。いつでも呼んでください!」

「え、嫌だよ・・・」

「嫌ですよね。やっぱりこんなこと絶対に不可能ですもんね。本当ごめんなさい・・・」

「いや、絶対とかじゃないけど・・・いくら?」

「二千円弱です・・・」

「もういいよ、出してやるから」

「え!?ありがとうございます!本当嬉しいです!よかったら五分だけ席座らせてもらっていいすか!?」

などとすっとんきょうなことをほざき、さらにガブガブとアルコールを頂いていた。

やってみると案外うまくいくもので別のグループ数組とも仲良くなり、いつしか金は無いが飲むに困らなくなった。

「おい!今飲んでるんだけど、来れるか!?おごってやる!」と呼ばれるようになるのだ。

「ありがとうございます!すぐ行きます!」と二つ返事で僕は駆けていった。

完全に乞食なのだが、サラリーマンのひとたちの話を聞くのは案外面白かった。

あの頃の僕にとって、「はたらく」という絶対不可侵領域の海で呼吸をしている生物は偉大すぎた。

次第に仕事も紹介してもらえたりと、いいことづくめだった。そこから経済的に困らなくなってきた。

あの頃の遺産でまだ人間を続けていれている。

アルコール依存症や双極性障害、躁鬱とさまざまな疾患にかかったりもしてきたが、これはこれでまったく問題はない。そもそも生きていたら何かあるものなのだ。

僕の会社はガッツリ業務停止もしていない。

もちろん感染経路を緩和するうえでは停止がベストなのだろう。

だが、経営者はいつだって廃業のリスクをとって経営をしている。

政府が止めてくるのならば、前月と同じ営業利益を補填してくれないと、停止もできない。

それができないなら、憲法を犯すリスクをとってでも停めにきてもらわないといけない。

リスクをとっていない人間がリスクをとっている人間を動かすのは不可能だ。

21時から配信を行う。



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