イタリアでの一幕

 数年前のイタリア旅行の時に起きた印象的な出来事をふと思い出したので書いてみる。

 あれはピサの斜塔の観光を終え、バスに戻る際のことだ。僕含め、ツアーの参加者は住宅街の割と大きな道の歩道を歩いていた。すると、反対側の歩道に人だかりが出来ていて、大きな声も聞こえてきた。

 よく聞くと、それは怒号だった。中国人観光客8人くらいが、現地の子を取り囲んでいる。現地の子は2人組の男子で、1人は自転車にまたがっている。見た感じでは、小学生高学年から中学生。恐らくは兄弟か友達だろう。

「あれはなんですか」

 僕は、日本人のツアーガイドの女性にそれとなく尋ねた。

 彼女は、彼らを見つめながら答えた。「あの子たちの肌、浅黒いでしょ」

「まあ、確かに」

 言われれば、そう見える。

「あの子たちはジプシーよ」

 後で調べたことだが、ジプシーとはヨーロッパを中心に散在する民族である。ジプシーと聞くと、ドラクエ4のジプシーダンスという名BGMを想起するが、いまは置いておこう。

 閑話休題。彼女の言い方には差別的なニュアンスを感じた。日本で言うなら、乞食といった類の。

「子どもたちはスリをしたのね」

 彼女は恐らく中国語を聞き取ることはできない。だとすると、この状況を見るだけで断定した。つまり、ピサの斜塔近辺ではありふれた場面であるということだ。

「警察は呼んだんですかね」

 僕は思ったことを口にした。

「しばらくは来ないでしょうね」

 彼女は苦笑いしながら言った。

「なんでですか」

 自分で考えずにすぐに尋ねるのが僕の悪いところであり、良いところでもある。

「子どもたちのことを捕まえることはできないから。この辺りでは、あれくらいの年齢の子を捕まえられないと法律で決まっているの」

「なるほど、だから平気でスリをするんですね」

 僕は、軽い憎しみを込めながら言った。

「もうひとつ原因があるわ。ジプシーは基本的に貧しい。子どもたちの親が子どもたちにスリをするように命じてるの。あの子たちも被害者よ」

 僕は、途端に子どもたちがかわいそうに見えてきたし、自分が幸せ者であることも分かった。そして、この観光地が貧民街のように思えてきた。

 イタリアを一週間過ごして感じたことは、この国は観光でもっているということであった。イタリアの人々はみんな笑っていて、裏表のない良い人ばかりだ。時間の流れも緩やかで、ピザとパスタが美味い。もう一度絶対に行かなくてはならない。トレビの泉と約束してしまった(ある種の決まりごとがある)。

 その代償にあまり裕福ではない。iPhoneを持つ人はほとんど見かけない。幸せの反面、犯罪も多い。両手を開けて周りをキョロキョロと見る男がいた、彼はスリだ(トレビの泉には気を付けて!)。ホテルの一室の窓がなぜかバラバラに割れていた。とてもじゃないが、夜は出歩けない。

 犯罪の陰を感じるのはイタリアに相続税が無いことや、ジプシーにお金が回らないこと(というか観光客をターゲットにした犯罪行為もしくは犯罪まがいの行為によって、生きていけてしまうこと)が要因になっているのかもしれない。

P.S. ピサの斜塔は本当に傾いていた。想像の三倍は傾いている。ピサの斜塔を支えるように写真を撮る観光客が大勢いた。はたから見るとその光景は、滑稽で面白かった。その様子を外から撮っていたら自分と同じことをしている英国紳士と目が合って、互いにニヤリとしたのはいい思い出だ。


小説、漫画、映画、アニメを順繰りと。創作物が好きです。文章書くの下手なんで、上手くなるために書いていこうかと。なるべく素直でいようと思います。