プレゼンの技術

さて、私は物理の大学院生をやっている関係上、良くも悪くもプレゼンばかりしている。

プレゼンは自分の考えを端的に伝える上で非常に最適な手段である、とかよくいうが、まぁ、大変だ。準備も時間かかるし、発表練習も大変である。でも発表しないと、自分の宣伝もできないし、研究の幅も広がらない。

だからこそ、いかに効率よく、そして相手も自分も満足のいくプレゼンをしたいわけだ。

そのためのプレゼンの技術、考えてみたい。




その1「発表原稿かく」

 一番めんどいのが最初に来る。私の場合は、プレゼンのスライドを作る前に先に、発表原稿を作ることが多い。そして私はそれを一言一句丸暗記してしまう。そうすると、プレゼン途中でテンパる事はまずない。そして既にロジックができたものをしゃべるので理路整然としている。一見、非効率に見えて案外効率が良かったりする。(暇があったら原稿あげてみようかな)

 発表において、起承転結は大事だというが、では発表における起承転結とは何なのか?自身の研究について話す場合、以下の様になるだろう。

起…背景、疑問、目的
承…手法
転…結果
結…議論、結論

以下、それぞれについて見ておこう。

起…背景、疑問、目的

 つまり、発表内容の前提知識、なにがわかっていて何がわからないのか、そして何を解決したいのかである。物語で例えるなら、何かしらのイベント、事件の勃発である。

研究の話の場合、必ず現状があって、これがわかっていない、とかこんな予想があるとかがあって、そしてそれらを知りたい、予想が正しいか確かめたいといった動機になる。

案外、これがはっきりしない発表がすごく多い。

発表というストーリーにおいて、最も大事なところであり、ここで聴衆を掴まないと、手法とか結果みせられたところで聞いてる側はまじで何もわからない。

承…手法

 疑問や目的を検証するために何をしたのか?である。物語に例えるなら、推理小説での手がかり集めの作業である。

手法を明確に、手順をやったとおりに説明すれば、そこに飛躍は生まれない。結構、みんなこれは知ってるだろ?とか時間制限ではしょってしまう人をみかけるが、全部言うべきである。ここでつまったからこうしたとか、とにかく何をしたのかを正直に述べる。

ここですごく大事なのは技術的な話は極力せず、すごく簡単化することである。知らない人相手なら少しぐらい誇張してもいいと思う。

例えば、自分の研究の一つで、宇宙の大規模構造のボイドがあるのだが、ボイドを調べるには宇宙の質量分布をしる必要がある。そこで観測した「観測シア」という値から「シア」という量を引き出すのだが、この変換は非常に数学的であり、面倒である。ですので、「観測シア」=「シア」として話を簡単化して、観測から、「シア」がわかりますと、いったことがある。手法を全部言うといってもこだわりだすと、すごく面倒な説明が必要な場合がある。

当然、専門相手の人にはこれは通用しないが、一般人、知らない人相手なら、簡単化、誇張はとにかくすべきである。これをしないで誰にもわからないような説明をする人がほんと多い。気をつけてほしい。

時間に余裕がある場合は、手法のまとめを最後に付け加えてもいいかもしれない。

転…結果

ここはシンプルである。自分でいろいろやってみて何がわかったのかを述べれば良いだけである。わかったことを素直に書けばいい。

結…議論、結論

ここもシンプルに結果から何が読み取れるか、考察する。研究の場合、ここで研究の優劣が決まるわけである。独創性の見せ所であり、ここは当人のクリエイティビティにかかってる。

1つ、ここで大事なのは、起で述べた、疑問や目的を結の部分でもう一度繰り返して言っておくことである。

手法や結論の話をしてれば、聴衆のレベルにもよるが、最初の疑問や目的がなんであったかなどだいたい忘れてる。言った本人も忘れる。

なので、ここで「とにもかくにも私はこれが知りたかったんです!」ということを強調する。

結局のところ、それについてしれたのか、なんだかよく分からなくて終わったのかを明確にすべきである。

以上のことを踏まえて原稿を書く。私の場合、プレゼンにいれるギャクさえ原稿に書く(イッセー尾形を真似してたり)。遠回りにみえてすごく効率的だと私は思ってる。

その2「プレゼン資料つくる」

あとは原稿通りにつくるのだが、プレゼン資料の作り方は正解が特にない。好みの問題である。ただ、見やすい、見にくいはあるし、作りやすい、作りにくいはあるので、そこのあたりをまとめてみる。

まずは実例見せたほうが早いと思うので、私のスライドの一例はこんな感じ。↓(研究の内容には触れてないので、多分著作権大丈夫)

スライドの一例

まぁ、このスライドをもとに要点を整理してみよう。


1.タイトルは「起承転結」のどこを喋ってるのかをかく

タイトルに、もう「背景」とか「手法」とか書いてしまうわけだ。そしたら、どこで話が切り替わったのか、別に逐一発表者の話を聞いてなくても、スライドをみればわかる。
ただ、図がメインのスライドとかは、別に一枚ぐらいタイトルを省いても何ら問題ない。

2.サブタイトルはこのスライドで「何がいいたいのか」をかく

スライドの一例の場合、「弱い重力レンズ効果」とかいてあるから、これについて説明するのだとわかる。実際、本文の一行目にすぐさま定義が書かれてる。で、二行目以降に弱い重力レンズの強みがかかれてるわけだ。

3. 文章は多すぎず、少なすぎず

スライド1枚あたりの文章量は4行ぐらいを最大にするように作る。どちらかといえば少なめが好みである。その方が断然見やすいし、何が言いたいのかがより明瞭になる。

4.スライドは字幕

3.とも絡む内容だが、基本的に私はスライドの文章をほぼほぼ読み上げる。ただし、決して読み上げるとき、スライドを見ない。なので、スライドはほぼ字幕の役割を果たす。まぁ、少し補足的なことは当然喋るのだが、だいたい人の言ったことなんてすぐ忘れるし、喋る本人もそんな覚えられないのでほぼほぼスライドの文章と喋る言葉は一致させる。

だからこそ、原稿作りが非常に活きてくる。原稿を作った時点でスライドの文章はほぼできているようなものなのだ。

5.重要な部分は赤字で

まぁ、誰もがやるだろう。ただし、私はこれ以上色を増やさない。
つまり、文字の色は黒と赤だけ。大事なとこを赤で、しかも喋るときも強調する感じで喋る。
スライドの背景も、だいたい見やすい白を使う。ここで変にこり始めると見づらくてしょうがない。

あくまてスライドは見やすさが命で、こだわりが命ではない。



というわけで、色々紹介したわけだが、とにもかくにも見やすくである。

さてさて、最後、最も大事な話、発表練習である。


その3「発表練習」


私が気にかけてることを幾つか書く。

1.ほとんどスライドはみない

鉄則である。聴衆の目をみて喋るべきである。ただ、一人をずっと見ても怖すぎるので、適当に10秒ぐらいで視点移動である。

2.身振り手振り

強調したいところは言い方で強調するのはもちろんのこと、大げさな手の動きとかで視覚的に強調するのも良いと思う。ただ、研究の場ではあまり好まれないと思う(私は平気でやるのだが)。

3.スピード

原稿を覚えると、一つ問題が、早口になりがちだということだ。1分辺りだいたい300文字程度言うような発表がちょうどいいとされているが、私は400字とかいくこともあるので、自分自身注意しているポイントである。

4.壇上を歩く

TEDトークみたいだが、プレゼンを効果的にみせるには非常に効果的である。これをするだけで、堂々とした発表に見えるし、最初に言った視点移動もスムーズに行える。

5.ジョーク

研究の場ではスベりがちなのでまぁ、やめたほうがいい(当然、私は平気でぶちこみ、スベっていく)が、一般相手や素人相手の講演なら落語のように、内容にからめたジョークはどんどん入れるべきである。

私は専門の一つが「大規模構造」だが、個人的に好きなTシャツで、その模様から「大規模構造Tシャツ」とよんでるものがある。これをプレゼン中にネタでぶちこみ、爆笑に包み込んだことは言うまでもない(www)。

6.時間厳守

当たり前のことである。どんなに超えても1分である。時間制限を超えるような発表は、最もレベルの低い発表である。

聴衆にも時間を取って聞いてもらっているのだから、失礼極まりない。制限時間で話すことは、発表者の礼儀だと肝に命じてほしい。

本番では緊張とかで発表時間が伸びてしまうかもしれないので、制限時間ー1分~30秒を目安に練習しておくのがいい。


まぁ、こんなとこである。色々書いたが、とにかく正しいことをきちんと淡々と言うのが先決である。いくら、技術を磨こうが中身の伴わないものは空虚な発表になるのは目に見えてる。
でも、中身のある発表でも、きちんと相手に伝えるように話さなくてはやはり、空虚な発表になる。

私は、常日頃から素人でもわかるような説明ができない人は、そのものの本質を理解していない人だと思っている。ブーメランにはなりそうだけど。
いずれにせよ、いかに、人にわかりやすくしゃべれるかは自分がどれほど深く理解しているかに直結すると思う。

むしろ、誰にでもわかりやすく、しかも簡潔に話せる人がいたとしたら、それは紛れもない天才である。

ただ、そういう人に実際、遭遇すると不思議なことにすごくバカっぽく見える。

余談だが、僕の指導教員がそういう人で、普通に喋ってる限りはすごく馬鹿っぽく見えるのだが、実際はめちゃめちゃな天才で、一言二言で本質をぱっというのでいつも、うわわわわってなってしまう。


常に本質を理解することを怠らず、決して専門の言葉に酔いしれず、内実を兼ね備えた発表こそ、真に素晴らしい発表になることだろう。







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