【映画深掘】「デトロイト・メタル・シティ」に異常な深みを見つけてしまった。
ご覧頂きありがとうございます。
今回は、晴れ。さんより
リクエスト頂きまして
初めて鑑賞いたしました。
2008年に制作された漫画原作の本作、
ただものじゃありません。
正直に申し上げると、
1回目に見た時は
普通に笑えるところもあるし
松山ケンイチの演技は凄いし
まあまあの映画かな・・・?
くらいに思っていました。
でも、記事を書くにあたって
2回目を鑑賞すると
じわじわ浮かび上がってくるんです。
この映画、実は
すごいことをやってるんじゃないか?
かなり深いテーマに
踏み込んでいるんじゃないか?
という発見があり
自分の見識の狭さを恥じてしまいました。
本記事では、
私が本作を掘り下げて見つけた
主人公・根岸の「心」の中身について
凄いと思った部分を取り上げて
ご紹介していきます。
心がどのような動きをしていくのかを
物語順に追いながら
素晴らしいと思った部分に触れつつ
ラストの着地まで
考えていきたいと思います。
あとご注意頂きたいのが、
本記事では、漫画原作には触れずに
映画の内容に絞ってのご紹介となります。
原作に当たったほうが
より深く物語を読み込めるのは
承知しておりますが、
監督と原作者が別の人間なので
作品としては別物と認識しています。
「映画掘り下げ話」として
お読み頂ければ幸いです。
女社長の異常性
大学の卒業後、
プロのミュージシャンになるため
とある事務所を訪れました。
根岸が胸にもっていたスローガン、
「NO MUSIC NO DREAM」と書かれた
ポスターに目が止まり、そこへ
自作のCDを持ち込みます。
そして次のカットでは
根岸(クラウザー)の大音量での叫びと
観客たちのあふれる熱気が映される。
しかし心の声では、
「僕がやりたかったのは
こんな音楽じゃない!」とのモノローグ。
ここまで、上京、大学生活、デビューまでと
無駄なくスムーズに展開されます。
そしてタイトルバックのあと
ライブ終わりの楽屋に登場したのは
根岸が所属するデスレコーズの
女社長(松雪泰子!)。
登場していきなり
吸っていたタバコを
自らの舌に押し付けて消火します。
もうこの時点で
彼女がヤバイ人というのがわかるし
「自分が濡れるかどうか」という
身体の根源的な部分が
反応するか否かで物事を決めるという
強烈なキャラクター。
本作で、根岸の「心」を表現する上で
重要な人物です。
この女社長が
ポップでオシャレな音楽によって
世界へ夢を与えたいという根岸を
強制的にデスメタルのギターボーカルとして
デビューさせたのです。
バンド名は
「デトロイト・メタル・シティ(以下、DMC)」で
バンド内の根岸の名前は
「クラウザー」。
相川さんと音楽
根岸が本当にやりたかったという音楽は
どういうものだったのか?
時間は少し戻って、
大学入学の場面で
加藤ローサ演じる
ヒロインの相川さんに出会います。
一目惚れをする根岸。
同じ音楽サークルに入った彼女は、
根岸の甘い恋心から生まれる
「ポップでオシャレな音楽」を
好んでいます。
「音楽で世界中の誰かに
夢を与えたいんだ」
という根岸の思いに、
相川さんは
「すごい。根岸くんならきっとなれるよ。プロに。」
この言葉をきっかけに、
根岸はデスレコーズへCDを持ち込み
あの女社長に出会うことになるのです。
時間は流れ、大学卒業。
冒頭のライブシーンの直後に
CDショップで偶然彼女と出会います。
根岸は、今自分が
デスメタルのバンドをやっていることを
伝えようとするが、
相川さんはDMCのCDを指差し
「このバンドって、最低だよね」
たまに差し込まれる
こういうおもしろ顔も絶妙なのですが
根岸は、恋する相手に対して
自分の正体を明かすことが
できなくなった。
このあと、相川さんから
お茶をしようと近くのカフェに誘われます。
直後にDMCとしてのイベント出演が
控えているにも関わらず、
「必ず行くよ」とダブルブッキング。
DMCのファンが押し寄せるイベント会場と
相川さんのいるカフェを何度も行き来します。
「ポップな音楽をしたい根岸」と
「デスメタルバンドのクラウザー」
という立場で揺れ動いていることが表されます。
すごくわかりやすく、
かつ笑いを交えながら。
こういったわかりやすい演出も
本作の特徴であります。
根岸 ⇔ クラウザー
という構造に合わせて
相川さん ⇔ 女社長
という対立も際立たせていて
この後展開される
根岸の「心」の葛藤がとても
飲み込みやすくなってくるのです。
荒らされた部屋と「恨み」
この後も、
根岸は女社長に股間を
フルスイングでキックされたり
相川さんと代官山のオシャレな
カフェでデートして、歌をうたったりして
根岸 ⇔ クラウザー
相川さん ⇔ 女社長
という立場を行ったり来たりするのですが
ある出来事で、決定的に
矢印の右側へ振り切ります。
相川さんの前で
「愛のあふれる甘い恋人の歌」を
カフェのスペースで披露するが
お客には響かずプロデューサーにも
「お遊戯は他でやってよ」と
全否定される。
自宅へ逃げ帰ってきて
ベッドで悔しがる根岸。
オシャレで綺麗に整えられている部屋は
根岸が求めている音楽のイメージそのもの。
そこへ、
急に土足で乗り込んでくる女社長。
デスメタルをやめたいんです
という根岸に対して
「私が調教してやる!」
と、トチ狂ったように
部屋をめちゃくちゃにしていく。
根岸に乗っかり
奇声を上げながら理由もなく
笑う女社長。
そのタイミングで
相川さんが入ってきて、
悲鳴をあげて出ていく。
ぐちゃぐちゃになった部屋は
根岸の心情がそのまま現れていて
たまたま開いていた雑誌の1ページに
恋敵であるアサトの姿を見つける。
それをきっかけに
恨み、嫉妬の力を爆発させる。
「音楽を生み出すエネルギーは
恋愛なんかじゃねえ
恨み、憎しみ・・・
この恨み、はらさでおくべきか」
そして次のカットで
クラウザーになって
ライブで歌うシーンに切り替わる。
心情が、そのまま直に音楽となって
観客へ届き、熱狂が上がる。
この鮮やかに流れるような演出は
見事だと思います。
自分のやりたい音楽を全否定され
オシャレな部屋をぶち壊され
恋する相手に見放され
ドン底まで落とされた根岸が
喪失の中で「恨み」と「嫉妬」を
自身の心に発見する。
そのエネルギーを乗せた音楽が
DMCのニューシングルとなり
多くのファンの心を掴むことになるのです。
なぜデスメタルで売れたのか?
ここまでのシーンで見てみると
女社長が
根岸の心の中にある
恨み、嫉妬などの
「闇」の部分を刺激して開花させて
魂に乗っけさせたから
エネルギーのある音楽になって、売れた
・・・と考えても
差し支えはなさそうです。
しかしもっと掘り下げて考えてみると
根岸の中にもデスメタルの「破壊性」を
求めている部分があったのでは、
と思えてくるのです。
「僕がやりたかったのは
こんな音楽じゃない!」
と言いつつも
その実、本人がデスメタルを
欲していたのではないか。
恨みをぶちまけたDMCのライブのあと
街でたまたま相川さんと出会います。
あんな姿を見た後なので
逃げて行く相川さん。
ナヨナヨしたキモい走り方で寄って行き
女社長に馬乗りされていたことを
弁明します。
あれは大家さんだったんだと
嘘をついて。弁明は成功。
そのあと、根岸はデートに誘いますが
相川さんは
「その日は仕事の付き合いがあって。
そっちに行っていいと思う?」
と根岸に問い返してくる。
「んー、別にいいんじゃないかなぁ」
というなんとも歯切れの悪い回答。
相川さん
「いいんだ。わかった。じゃあね」
という具合に、
根岸はことごとく、チャンスを逃すのです。
大学の入学式で一目惚れをしてから
4年の間、なんの進展もしてないし
強くデートに誘う勇気もない。
もっと言うと、
どうして相川さんのことが
好きなのか見えてこない。
可愛い女の子に
なんとなく思いを寄せているだけで
それをどうしたいとか
どんな恋愛をしたいとか
描かれていないんです。
「なんとなく」好き。
もちろん、
人を好きになるのに
理由が必要なわけではないですが
「恋の甘い気持ちを歌にしたい」と
言っているんだったら
もっと突き詰めてもいいのでは
と思えてくるのです。
根岸はそれをしない。
だからポップな音楽に乗せて
歌をうたっても、
人の心には響かない。
この後、相川さんと恋敵のアサトさんが
デートしているところでも
影からコソコソ尾行する。
・・・もうヘタレなんです。
深読みしすぎかもしれませんが
根岸は、こういうヘタレな自分を
消し去りたかったんじゃないか。
「音楽で世界に夢を与えたい」
という目標にも全然向かえてないし
好きな人へ思いを伝えることもできない。
そんな自分が嫌だったから
クラウザーという「仮面」を使って
自己を消し去り
デスメタルの破壊性に乗って
殺害を叫ぶ。
「殺害せよ!」という歌詞の
対象は根岸自身を殺したいという
無意識の表れにも思えてくる。
そう考えると、
根岸が歌うデスメタルには
魂がこもってくるので
大ヒットするのにも合点がいきます。
「仮面」から見えるもの
自己を消し去るために
クラウザーという「仮面」を使ったと
お伝えしましたが
同じことをしている人物がいます。
右側のロン毛の人物、
DMCの熱狂的なファンで
全部のライブにきているのですが
名前がないので「ファンA」とします。
根岸が相川さんのデートを尾行しているとき
遊園地のヒーローショーに出くわします。
そこでバイトしていたのはファンA。
子供に向かって
「クラウザーさんに触るんじゃねえ。
殺害するぞ!」
とどやしつけて、
ショーのお客は逃げ去っていく(笑
個人的にはけっこうツボで
クラウザーの言うこと為すことを
全部良いように解釈して説明してくれて
その強引さが面白い。
ブルーとイエローも
クラウザーのファンのようです。
数あるバイトの中で
あえて顔を覆って
正体を隠す仕事をしているというのも
クラウザーと共鳴しているように思えます。
しかも舞台の上で、ヒーローを演じている。
ここからも深掘りになりますが
DMCの音楽に惹かれるファンは
根岸と同じように
自分を消し去りたい欲を
無意識のうちに持っているのではないか。
だから「破壊」とか「殺害」とかを
謳っている楽曲に熱狂的になれる。
根岸が抱えている
恨みや嫉妬などの「闇」の部分は
実は多くの人が持っていて
それを昇華させるために
DMCのライブで盛り上がる。
そしてその様子を
作品として鑑賞している
私たちにも、
「闇」はあるんじゃないか?
と遠回しに指摘されているように
思えるのです。
・・・私自身を省みても
嫉妬とか恨みとかに
まみれてしまった時期もあったし
誰かを殺したいと思ったことが
一度もなかったかと言われると
はっきりと無かったとは答えられないと思う。
今は「たくまる」という仮名によって
正体を隠しているから
そういう感情があることを吐露できる。
仮面をかぶっている
クラウザーやファンAの気持ちが
自分の中にも潜んでいるという事実が
本作に入り込んでしまう
大きな一因だと思います。
さよなら、DMC
デートを尾行していた根岸は
クラウザーの姿で
相川さんとアサトの間に
立ちはだかります。
なぜかファンAがアサトに(笑
頭突きを食らわし、追いかけて退場。
クラウザーに向かって
相川さんは言います。
「ただの弱虫のカッコ悪い男が
世間への恨みを叫んでるだけじゃない。
音楽ってね、世界中の誰かに
夢を与えることができるんだよ」
「僕だってこんなことやりたくない」
言葉を続けられずにいると
強風が吹き、相川さんの背後にあった
ヒーローの像が倒れこむ。
クラウザーは身を挺して相川さんを守り
背中に受けた衝撃で
「うう」という声が漏れる。
根岸としての声。
相川さんはそれに気づき、
気づかれたことに気づく根岸。
「待って!」と呼び止める相川さんを無視して
一人トボトボと去っていく。
ここでも正体を明かして
思いを伝えるチャンスを
ふいにしてしまうわけです。
相川さんの言葉は
根岸自身が見て見ぬ振りをしてきた
嫌な自分の姿そのものだった。
それを愛する人に
ありありと突きつけられ、
根岸の心は折れてしまったのです。
「さよなら、僕の夢」
「さよなら、DMC」
実家にあふれる愛
音楽の夢をあきらめて
実家に帰る根岸。
出迎えたのは、
DMC信者になりかわった弟のトシくんと
DMCの限定Tシャツを着ているお母さん。
爆音で流れるDMCの音楽。
お母さんは
「最近はずっとあげなんよ
高校も行かんち、
ウチの手伝いもせんようになっち」
根岸のモノローグでは
「僕のやってた音楽が
家族に混乱を招いている。」
根岸のとった行動は
クラウザーになって弟の前に現れることでした。
弟に電話して外に呼び出すと
なぜか
光あふれる洞窟の中から登場します(笑
「これは人の首を掻っ切るときに応用できる」
と言いながら、
超高スピードで雑草を刈り込んで行く。
「トラクターの運転は、様々な乗り物を
ジャックするときに使える」
高度なドライブテクで
雑草を刈り込んで行く。
「俺は大学を出た。すべての学問を
身につけてこそ、帝王学だからなあ」
それを聞いた弟のトシくんは
「すげー!かっけー!」と感激し
今までの素行を改めることになる。
根岸は、
手放したはずのクラウザーとしての立場を
うまく利用して、
DMC信者の弟に刺さる言葉を駆使して
家族の混乱を解決した。
そこへお母さんがやってくる。
「お友達?」
お母さんに正体がバレないか
心配する根岸。
しかしお母さんの表情を見る限り
どうやら息子だと勘づいている様子。
気づいたことを
おくびにも出さず
お母さんは笑顔で頷きながら
「じゃあ泊まっちいかんね!」
根岸はお母さんの計らいに
甘えることに。
のどかな朝食に紛れ込むクラウザー(笑
そのアンバランスな息子の行動を
父と母はすべてを分かった上で
受け入れる。
弟思いの根岸も含め
深い家族愛があふれる
良いシーンでした。
クラちゃんて、良い人なんやろね
実家に届いた
山ほどのファンレターを
じっくり読む根岸。
バンドメンバー、
女社長、ファンからの
熱い気持ちのこもった手紙は
根岸の心を響かせる。
複雑な心境を表した根岸の表情は
趣深い。
お母さんはそれを察してか
「ちょっと出かけんかえ?」
と二人で神社へ歩くことに。
お母さんは息子の正体を
知らないふりしながら話す。
「あんな嬉しそうなトシくん(弟)はじめてよ。
クラちゃんって、本当はすごーく、良い人なんやろね」
クラちゃんとはクラウザーのこと。
「クラちゃんは、歌で夢を与えてるんよ」
根岸は
「夢なんて結局、なんもならんやん!
なんの役にも立たんし
夢持っても失望するだけだよ!」
お母さんは少し考えてから
「ええやないの。
夢はタダなんやし。
現実は厳しいし、たいがい夢が叶うことはない。
でも誰でも夢を見ることだけは自由でしょう」
少し俯く根岸。
お母さんは続ける。
「夢ってすごいよお。
それを思うだけで勇気が出ち、
一歩前に出て進んでいける。
どんな見かけで、どんな言葉でいい。
誰かにそういう夢、
与えられる人はすごいっち。
お母さんはそう思うけどねえ」
そう言って、
神社のお賽銭箱へ小銭を投げ込み
二礼二拍をする。
根岸はうつむきながらも
ある絵馬を見つける。
お母さんが根岸の夢を願って書いた絵馬だ。
「お母さん・・・」
「ん?」
「僕、戻らなきゃ」
お母さんは笑顔で頷きながら、
「じゃ、東京でクラちゃんに
偶然会ったら、これ、渡してくれんね」
根岸が最初に上京したときに渡した
同じ「長寿祈願」のお守りを手渡す。
なんとも奥行きのあるメッセージ。
根岸はお母さんの顔を見つめるが、
何も言わない。
「いってらっしゃい」
母に見送られ、
根岸はクラウザーとなって
東京へ舞い戻る。
直前の美しいシーンとのギャップもあって
電車に乗ってるだけで笑いを誘われる(笑
・・・
根岸は、最初に上京してからずっと
「夢を与える」ことに
捉われすぎていたんだと思います。
とくにその「やり方」に。
お母さんが
「自分の夢を願ってくれている」
と実感できたことで
本当の意味で
「自分の夢」を叶えることに向き合い
「僕にしか叶えられない夢がある!」
と思い至った。
クラウザーが蘇ったのは
そのあたりに理由があるのだと
思っています。
背中にしょって走る
東京駅に降り立ったクラウザーは
文字通り、ラストのクライマックス会場まで
全力疾走で駆け抜けます(笑
大急ぎで付け加えますが
クラウザーが向かっている会場では
世界的なデスメタル界のカリスマ
ジャック・イル・ダークが待っている。
彼の引退ワールドツアー
「世界崩壊」で各国のデスメタルバンドを
ぶっ潰すために世界を回っている。
記者に囲まれて
「一番楽しみにしている敵は?」
との質問に
DMCが名指しされた。
女社長がデスメタルに
心を奪われたきっかけも、
このジャックの魂にやられちゃったとのこと。
女社長の夢は
ジャックをDMCが倒す姿を見たい。
それはもちろん、
DMCのファン全員の夢でもある。
大勢の夢を背中に背負いながら
クラウザーは走る。
根岸と同じように、
心のどこかに「闇」をかかえて
「破壊」「殺害」を求めるファンたちが
次々と合流していき
満身創痍の中、
「世界崩壊ツアー」の会場に
到着した。
「ファアアアアア!!!」
ここからが本作の最大の見せ場となります。
このクライマックスシーンの凄さは
ほぼ「勢い」と「熱気」が占めています。
デスメタル特有の
破壊的な音楽が大音量で流され
高度なカメラワークによって
クラウザーの戦う姿と会場の雰囲気を
これでもかと「勢い」に乗せて映す。
同時に、コメディとしての要素も
ほどよく差し込まれていて
緩急のつけ方も見事に仕上がっています。
会場には、
相川さんも駆けつけていて
冒頭でもお伝えした
相川さん ⇔ 女社長
という構図が画面上でさりげなく
示されているところもポイントです。
最後のライブが始まる。
クラウザー不在のDMCの演奏に
ジャックは割り込んで登場してきます。
図太くて猛々しい歌声が
会場に響き、客席は盛り上がる。
次に登場してくるのは
牛、メタルバッファロー。
DMCのメンバーが
メタルバッファローに
追いやられてしまったところに
堂々と登場するクラウザー。
「ちょっと地獄に寄って
ジャックとかいう老いぼれ埋める墓穴を
掘ってきたわあ!」
額に書かれていた
「殺」の文字は「KILL」に
変わっている。
ステージに降り立つと
メタルバッファローが襲ってくるが
農家の息子である根岸の力によって
簡単に手なづけてしまう。
大盛り上がりの中
いったん外しのギャグが差し込まれるあたり
良いバランスというか、面白い。
クラウザーは、
ど真ん中のマイクを奪い、
「ファアアアアア!!!」
ジャックの十八番の曲で
勝負をしかけます。
何がどう勝負なのかは
もう「勢い」が凄いので
どうでもよく思えてくる。
熱気が高まる会場。
ギターを掻き鳴らすジャック。
「FUCK」を叫び続けるクラウザー。
ファッ!ファッ!ファッ!ファッ!ファッ!ファッ!ファッ!ファッ!ファッ!ファッ!ファッ!ファッ!ファッ!ファッ!ファッ!ファッ!ファッ!ファッ!ファッ!
ヒートアップする対決の中
ジャックの足が機材に当たり
感電が起きる。
この「爆発」は
クラウザーとジャックの魂の
正面から衝突した「勢い」が
引き起こしたものでしょう。
相打ちの様相に
騒然とする会場。
客席からは、「死んだのか?」
ファンAは
「クラウザーさんに死の概念などない!」
こいつは一貫してますね(笑
よろよろと立ち上がりかける二人に
再び爆発が襲いかかる。
地に這いつくばるクラウザー。
「やっぱり僕は、ちっぽけで
何も、叶えられないのか」
お母さんにもらったお守りが
目の前には落ちていた。
ファンAが声をあげる。
「GO!TO!DMC!」
もう一人のファンが声をあげる
「GO!TO!DMC!」
そこから、客席全体にへ
だんだんと「共振」していくように
「GO!TO!DMC!」
「GO!TO!DMC!」
「GO!TO!DMC!」
相川さんまでも
「GO!TO!DMC!」
根岸に感情移入している
私たちも叫ばずにはいられなくなる。
「GO!TO!DMC!」
ファン達の魂からの声が
クラウザーもとい、根岸にまで
突き刺さる。
長寿祈願のお守りを握りしめ、
叫び声を上げながら立ち上がる。
「NO MUSIC NO DREAM!」
蘇ったクラウザー。
客席の興奮は最高潮に達する。
ジャックが自身のギターを持って
歩み寄る。
勝敗は決したようだ。
それに対してクラウザーは
当惑してヘタレくさい表情に(笑
あの根岸が不意に入り込んできた?
消え入りそうな声で、
「Yes.I do…」と返す。
ジャックは小さく拍手しながら
舞台袖へ去っていく。
客席からは歓声が起こり
クラウザーの闘志を讃えるファン達。
勝利宣言に変わるような
ぶち上がる演奏が期待される空気。
クラウザーの心の声が響く。
「今こそ届けたい。
僕の大好きな音楽を!」
女社長も恍惚の表情を浮かべながら
「さあ、歌いなさい
夢のライブの始まりよ!」
演奏が始まる。
朝、目が覚めるとキミがいてー♪
チーズタルト焼いてたさー
スウィーツベイビー♪
キミはそうさ
甘い甘い 僕の恋人♪
・・・静まりかえる客席。
ファンAさえも
「・・・なんだ、新曲か?」
「甘すぎて吐きそうだ」
ジャックも頭を抱える。
画面を隔てて見ている私も
あちゃー、というか
不思議な感覚というか
言語化不能な感情に迷いこまされました。
クラウザーの中にいる
根岸の叶えたい夢が顔を出し、
抑えきれなかったのでしょう。
相川さんだけは、嬉しそうな表情で
すこし乗っている。
「あまいあまーい こーいーびーとー♪」
相川さん ⇔ 女社長
根岸 ⇔ クラウザー
という構造は
部屋をめちゃくちゃにされた時と同様、
女社長によって一気に振り切られる。
吸っていたタバコをクラウザーに投げつけ
「そんなんじゃ濡れねえんだよ!!」
彼女の口内にズームアップしていき
「ファアアアアア!!!」
喉仏の振動が見えるほど
カメラは寄っていき
クラウザーの喉仏を響かせ
共振させる。
「ぅぅぅあああぁぁぁぁぁぁあああぁ!!!」
もうここからの「勢い」はえぐいです
明滅する照明、
張り裂けるくらいに響くギターとドラム、
魂から絞り出さるような叫び声。
会場も私たちもぶち上がります。
「破壊」を叫ぶクラウザーに戻った!
もう、勢いで全てを持ってかれます。
「俺は地獄のテロリスト
昨日母さん犯したぜ
明日は父さんほってやれ
・・・
殺せ殺せ親など殺せ
サツガイ サツガイせよ
サツガイ サツガイせよ」
「ぅぅぅあぁぁぁああぁ!!!」
満足な表情を浮かべる女社長。
観客に分け入ってステージに
近づいていく相川さん。
「サツガイ サツガイせよ
サツガイ サツガイせよ」
「根岸くんだよね?」
「誰が根岸だ このメス豚めが!」
相川さんのスカートをめくりあげる。
「きゃー!根岸くんヒドい!」
「あっ」
まとめ
最後までお読み頂きありがとうございました。
本作は、この根岸の「あっ」で
パツンと終わるのです。
ここの私の解釈としては、
ポップな根岸を好いている相川さんが
メタルに振りきったクラウザーの中に
好きな相手が埋もれて消えてしまうことを
恐れて、思わずステージまで登り、
最低なことをされることによって
ポップ根岸の片鱗を呼び起こしたのでは、
と考えております。
突き放すような終わり方は
私は大好きです。
あと蛇足ですが、
本作はDMCやクラウザーに乗れるかどうかで
映画の楽しみが
大きく変わってくる作品だと思います。
原作にもメタルバンドにも
ノータッチの私にとって
1回目に見た時は、作品の楽しみが
見えにくかった部分があります。
本文で触れたとおり、
「仮面」を付ける人間の感情を
自分の中でも発見してから
DMCに乗れるようになりました。
本作の特徴として付記しておきたいです。
今回は、コメントにて
晴れ。さんより頂きましたリクエストから
記事を書かせて頂きました。
邦画でここまでぶっとんだ作品が
あったのかと驚きました。
おかげさまで
また自分の映画宇宙が拡がり
書くことの深みを知れました。
この場を借りて感謝申し上げます。
ありがとうございました。
この記事が参加している募集
ここまでお読み頂きありがとうございました。 こちらで頂いたお気持ちは、もっと広く深く楽しく、モノ学びができるように、本の購入などに役立たせて頂いております。 あなたへ素敵なご縁が巡るよう願います。