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記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
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3つ目レンズを自作した話 またはSF的な世界で生きる練習

3Dプリンタを使い始めて約半年。3DプリントやCADの経験値も増え、作りたいとずっと考えていたモノに挑戦しました

作ったモノはコチラ👇
3眼レンズ「三つ目ルンです (#MITUMERUNDES) 」です

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プラスチックレンズを3枚、横一列に並べています

絞りもピントも固定。シャッターを切るだけ。Lマウントアライアンスに対応しており、最近のライカ、パナソニック、シグマのカメラに取り付けられます

この記事では、この「三つ目ルンです」を使ってどんな写真が撮れるのか、そもそもなんでこんなレンズを作ろうと考えたのか、お話ししたいと思います


最近までSNSには公開せず、細々と研究や工作をしていたのですが、活動を @goando 氏に言い当てられまして、本腰を入れて作った次第です😅


外見も格好良く作れたのではないかと思っています。特にレンズフードのくびれが気に入っています

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なお、「三つ目ルンです」は販売もしております 🛒 「面白い」と思っていただけたなら、購入をご検討いただけますと幸いです😉

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■ 写真の例

3つのレンズがつくる像が混ざらないようする遮光幕が有るバージョンと、幕が無いバージョンの2種類を作りました。👇の写真は、遮光幕が有るバージョンのレンズ内部です。幕というより、箱のようですね

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それぞれ以下のような写真が撮れます。エモエモです🥰

👇遮光幕:無し

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👇遮光幕:有り

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遮光幕が有る方は、写真を3分割してパラパラ漫画のように動画にすることで、ステレオスコピック動画(3D写真)が作れます(作り方は後述します)

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プラスチックレンズとあなどるなかれ。拡大して見ても、細部までけっこうしっかり撮れてます(写真は遮光幕:有り)。画角は個々のレンズが約32mm。絞りはF11相当でピント位置固定で「1m〜∞手前」の距離でだいたいピントが合っています

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その他、たくさんの写真を撮っていますので、以下のリンクもご覧いただければ幸いです

MITUMERUNDES 三つ目ルンです 作例集 (Twitter Moment)

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■ 作った理由、またはSF的な世界で生きる練習

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(遮光幕:無し。夜間長時間露光)

この章では、いくつかのSF作品の内容に触れます。ネタバレ嫌いな方は読み飛ばしてください

■ ネタバレする作品
◎ ドゥニ・ヴィルヌーヴ (監督)  - メッセージ (原題: Arrival)
◎ アーサー・C・クラーク (著) - 幼年期の終り
◎ クリストファー・ノーラン (監督) - インターステラー
◎ 劉 慈欣 (著) - 三体シリーズ

なぜこんな風変わりなレンズを作ったのか

見たことないモノを見てみたい、表現したいという、素朴な動機があります。もう少し具体的に言うと、私たち人間が、人間の体を持つがゆえに認識しがたいものを想像できるように表現してみたい」という欲求が、私にはあります

突然ですが、映画「メッセージ」では、人類の言語体系がその認識に深く影響を与えているという話が展開されます。私たち人類は因果論に根ざした言語を使用しており、それゆえに時間は一方向にながれるものだと認識してしいるのだというのです。他方、作品に登場する地球外生物ヘプタポッドは円環構造の文字体系や言語をもっており、過去・現在・未来を同一視して認識できる存在として登場します。遠い未来にヘプタポッドを助けることにつながる成長した人類、その成長を促すことになる主人公、言語学者のルイーズに対して、未来から見たら過去である現在に、ヘプタポッドの言語、またその言語獲得に伴う世界認識を授けるのです(面白いですね!)。小説「幼年期の終り」にも同じように、人類の認識を超人に引き上げる存在が登場します

また、映画「インターステラー」ではクライマックスに、5次元人が作ったとされる4次元空間が登場します。4次元空間内はジャングルジムのようになっており、ジャングルジムの1面1面に私たちの4次元時空が投影されています。4次元空間内を浮遊する主人公、元宇宙飛行士のクーパーは、まるで泳ぐように時間を行き来し、人類滅亡を回避するヒントを過去の幼い娘に伝えます

さらに、小説「三体」シリーズでは、高次元人の科学技術や2次元人による3次元世界への攻撃、各次元の物理法則について話が展開します。極めつけは、ゼロ次元世界やマイナス次元世界といった、想像を絶する世界の可能性が提示されます。さすが世界最高峰のSF作品です


さて、私たち人類は一般的に2つの眼球を有し、それぞれ別個に受けとった光を、脳内で結像し、立体視して世界を認識しています。これを変えてみたかったのです

「もし、私たちの眼球が3つ有ったら?」
「もし、私たちの眼球が受け取る光が、脳に届く前に混ざったら?」

「三つ目ルンです」で写真を撮ることで、同時刻の、異なる3地点の世界を認識できるのです。私たちは自分たちが立つ1点(正確には眼球の2点)から同時に世界を認識するしかないのですが、「三つ目ルンです」を使うことで3点の像が得られます。微妙な視差ではありますが、私たちの裸眼では決して得られない世界がそこにあります

「三つ目ルンです」を撮る行為、そして撮った写真を通して、私たちの世界認識を拡張できるのではないかと期待して、このレンズを作ったのです。「インターステラー」に登場するような4次元空間を理解することに繋がるかもしれませんし、ピカソのキュビズムにも通ずるところもあるかもしれません。その他、先ほど言及したSF作品のような、人間を超越した感覚を得られる、その練習になるかもしれません

果たして、そのような効果が得られているかどうかは、皆さんの判断に委ねるところですが、私はそれなりに楽しんでいます

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■ ステレオスコピックGIF動画の作り方

三つ目ルンです(遮光幕:有り)をつかって撮った写真を、ステレオスコピックGIF動画にする手法2種類を紹介します

■ 手法1:先人の知恵 (Adobe Lightroom, Photoshop を使う)

デジカメでステレオスコピック動画を作るレンズについては、先人(George Moua)がいらっしゃいます

Moua氏がAdobe LightroomとPhotoshopを利用してステレオスコピック動画をつくる手順を公開してくださっています👇

この手法は、厳密かつ自由度高くステレオスコピック動画を作れるのですが、作業手順が細かくて多く、マウス操作も面倒で、上級者向きだと思います

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手順1よりも簡単に作れる手順を検討しましたので、共有します

■ 手法2:パソコンの簡易プログラムと、スマホの有料アプリを連携して、短時間で作る

◎ ステップ1:普段の写真現像と同じように、カメラから写真(JPG)をPCに抜き出すか、LightroomなどでJPGに現像する

◎ ステップ2:プログラムを書いて、自動的に、JPG写真を3等分する

サンプルのPythonコードを共有します。特定フォルダのJPGファイルを、PILという画像編集ライブラリを利用して3等分して、別のフォルダに分割後のJPGファイルを保存します。また、Macであれば、Automatorというアプリケーションを利用することで、【特定のフォルダにJPGが追加されたら、下記のコードを自動実行して、生成された3等分のJPGファイルを iPhoneのPhotosに自動追加する】といったものが作れます(私はMac使いなのでWindowsやLinuxの場合の解決法は分かりません)。なので、ステップ1で特定のフォルダに書き出すようにして、ステップ2のプログラムをいちど用意すれば、全自動で実行可能です

# 写真を長辺で3等分するPythonサンプルコード
# インプット: ./raw/ フォルダ内のjpgファイル
# アウトプット: ./ex/ フォルダ内に3等分したjpgファイルをナンバリングして出力
import os
from PIL import Image
home_ = os.path.expanduser('~')
pwd_ =  os.getcwd()

def get_files():
   target_fldr =  pwd_ + '/raw'
   if os.path.exists(target_fldr):
       files = os.listdir(target_fldr)
       files = [x for x in files if 'jpg' in x]
       files_with_path = [target_fldr + '/' + x for x in files]
       return files, files_with_path
   else:
       return NoneNone

def div_jpg(pil_img, color=(255255255)):
   width, height = pil_img.size
   if height <= width:
       for i in range(3):
           div = width // 3
           w2 = i * div
           yield pil_img.crop((w2, 0, w2+div, height))
   else:
       for i in range(3):
           div = height // 3
           h2 = i * div
           yield pil_img.crop((0, h2, width, h2+div))

def main():
   files, files_with_path = get_files()
   if files is None:
       exit()
   for rawfile, path in zip(files, files_with_path):
       im = Image.open(path)
       im_new = div_jpg(im)  # PIL or None
       if im_new:
           for i, im in enumerate(im_new):
               im.save(pwd_ + '/ex/' + rawfile + str(i) + '.jpg', quality=100)

if __name__ == "__main__":
   main()

◎ステップ3:スマホのAppを利用してステレオスコピック動画を作成する

3等分した写真を取り込んだスマホで、動画に変換します

RETO3D はステレオスコピック動画がつくれる写真の撮れるフィルムカメラです。ステレオスコピック動画を作るためのスマホ用Appが公開されています👇これを利用して、先ほど3等分した写真をステレオスコピック動画に変換します。変換操作自体は直感的にできますので、ここでの説明は割愛します

iOS用App

Android用App

この「手法2」なら、RETO3Dを作業する時間が大部分なので、慣れれば写真1枚2〜3分で変換できると思います

ただし、RETO3D Appの利用規約に、作成した動画の取り扱いについて、やや不安な記述があります。また、iOS版では、写真を動画に変換する一連の作業では不要なはずの、クリップボードへのアクセスが認められ、気持ち悪い挙動をします。ずいぶん前に更新が止まったAppなので仕方ないのですが、気になります

スタンドアローンで、プライバシークリーンなステレオスコピック動画作成Appを作りたいと思いつつも、スマホApp作成は、自分の能力の輪を完全に超えています。「一緒に作ってくださる有志がいらしたらなぁ…」と思っています

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■ おわりに

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いかがでしたでしょうか
Lマウント3眼レンズ「三つ目ルンです (#MITUMERUNDES) 」のDIYのご紹介は以上です

ふだん見慣れた被写体の、まったく異なる特徴を捉えることができる、ぜひ皆さんにも体験していただきたい、面白いレンズが作れたと思っています


「写ルンです」をレンズキャップに取り付けるDIYをしてからちょうど1年、工作能力もずいぶん向上しました。モノを作って情報発信すると、インターネットが無かった昔では想像もできなかった、様々な方々から貴重なアドバイスやフィードバックをいただけて、大変ありがたく感じています

3Dプリントについての知見や、皆さんからいただいたアドバイスも、いつか記事にして皆さんに還元できたら、と考えています

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■ 補足. オススメのカメラなど

「三つ目ルンです」を合わせるなら、コンパクトな SIGMA fp / fp L がオススメです。特に、ステレオスコピック動画をつくる場合は、1枚の写真を3分割するので、元の写真が高解像度なほどよいので、6100万画素の SIGMA fp L は最適のカメラです


一方、電子シャッターしか搭載していない fp シリーズに対して、メカシャッターを搭載している機種の方が有利な場面もあります。数日の試用での印象ではありますが、パナソニックの S5 はオススメのカメラです


「写ルンです」良いですよね


「三つ目ルンです」のフォントは、@kj_making さんの作成された「WIP MARKS | 試作品個体識別用フォント」です。3DCAD、3Dプリントに適した設計がなされており、気に入っています


今回の記事タイトルは、チャールズ・ユウ「SF的な宇宙で安全に暮らすっていうこと」をオマージュしました。面白い小説です




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