今さらですが、アドラー心理学をまとめ

『嫌われる勇気』がブームを起こしてから数年が経ち、アドラー心理学の考え方も一般化してきた。私自身も定期的にアドラー心理学に関する本を読み返して人生の糧としている。ここでは、そんなアドラー心理学の重要概念をまとめたい。

●重要概念

目的論

アドラー心理学の中核をなす重要概念がこの「目的論」である。ほかにも重要単語が出現するが、全てこの概念に通じる。そして、アドラー心理学がフロイトと対をなすといわれる所以でもある。

心理学の一般的な学派であるフロイトによれば、人は過去の出来事によって人間心理を理解できると考える。「トラウマ」という言葉がまさにそれを象徴する。現在の心理状態の説明に過去の出来事を理由として持ち出すのである。例えば、ある人が水を嫌っていて、プールに入るとパニックになってしまうとする。フロイト的な考えによれば、過去に溺れた経験があるなどの悪い体験が「原因」となってパニックになってしまうと理解する。

一方で目的論とは、現在の心理状態について、その人の目的を理由として説明する。つまり、先の例でいえば、その人は水に入りたくないという「目的」を達成するためにパニックという感情を表していると考えるのである。

アドラーの思考の背景にはすべて、この目的論がある。

他者貢献

他者貢献という概念は、社会の中で自分らしく生きていくための重要な概念である。アドラー心理学で有名な「嫌われる勇気」はその言葉尻だけではミスリーディングの恐れがある。相手のことなど関係なく自分らしく好き勝手に生きればいいんだ、嫌われるのを恐れるな。そんな意味で理解すると危うい。アドラーは集団の中で埋没せず、そして他人を蔑んだりせずに生きていくことを説いている。

他者貢献とは、"仲間を認め仲間と調和し、仲間のために貢献すること"を意味している。それは決して、自己犠牲をして奉仕することを求めているわけではない。ただ単に他者へ関心を向けることで十分だという。頼り過ぎず、頼られすぎない、絶妙なバランスを維持した関係だ。

その状態を実現するためには、自己受容…「自らを蔑んだりせず、自分の存在を受け入れること」と、他者信頼…「他人を敵ではなく、自分を助けてくれる存在として信頼すること」の二つが欠かせない。

各々が一本の棒として自立し、それぞれが支えあっている世界をアドラーは理想の状態だと考えたのだろう。

課題の分離

それぞれが自立した個人である世界においては、自分の問題(=課題)と他人の問題は明確になるはず。人は、他人の問題には立ち入ることはできないのである。

アドラーは、自分の課題と他人の課題を分離し、他人の課題に踏み込むことを避けなければならないという。

例えば、仕事で作成した提案を上司に評価してもらいたいと思うこと。それは既に他人の課題に踏み込んでしまっているのである。上司がその提案を評価するか否かは、自分ではどうすることもできない。自分で制御することができないこと、つまり他人の課題のために悩むことは意味がないのだ。それよりも、今できる自分の課題と正面から向き合い乗り越えていくことが有意義なことだろうか。より良い提案になるようにブラッシュアップしたり、代替案を用意しておいたり、悩んでいる間にできることがたくさんあるのだ。


優しく、そして厳しい

アドラーの心理学は、私たちに優しく寄り添い勇気を与えてくれる。「あなたは自分らしく生きていけばいい。どんな過去も関係ない、今をどうしたいか考えよう」と。そして、同時に非常に厳しい教えでもある。この世界では、一人ひとりが自らの足で立ち自らの人生を歩まなければならない。そして、自らの課題に真摯に向き合う責任が伴うのだ、と。

アドラーの教えは「自由」という言葉に近いと感じている。

人は、自由を望む。どんなひとも誰かに拘束をされたり、強制をされたり、自分の未来を決められることを望まない。自分が自由であることを求めるものだ。そして、自由を勝ち取るために多くの人が命を懸けて戦ってきたのが人間の歴史でもある。

しかし、同時に人は自由を得た瞬間にとてつもない不安を抱くことになる。この点、フロムの『自由からの逃走』の考察は興味深い。

私が思うに、人は理想と責任の狭間の中で永遠に悩み続ける生き物なのではないだろうか。そうであれば、その事実をまずは受け止め、自らを知り現実を生かなければならない。

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