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【AIとBIはいかに人間を変えるのか】BIについて僕の中に生まれた新たな課題

オススメ度(最大☆5つ)
☆☆☆

〜実現可能性が高いユートピア〜

以前読んだ「隷属なき道」でもそうだったように、AI(人工知能)とBI(ベーシックインカム)はセットで語られる事が多いように思う。

しかし、話の流れはそれぞれ異なり、「隷属なき道」では、「AI技術により雇用が失われる未来を救うのはベーシックインカムだ」という話であったが、本書では「AIとベーシックインカムが組み合わさる事で、人類の歴史が"新しいステージ"に移行する」という、AI技術の発展に対しても好意的な意見が書かれている。

著者の語る"新しいステージ"とは、「働かざるもの食うべからず」ではなく「働かなくても食ってよし」という社会であり、生きるための最低限の保証の上で、全ての人が人間らしく生きられる世界、である。

これぞまさしく全人類のユートピアと言えるだろう。そして、著者はこれが30〜50年後には実現出来る可能性がある、と述べている。


〜僕の思うベーシックインカムの問題点〜

さて、著者はAIとベーシックインカムが組み合わさった世界は、民主主義や資本主義を超えた新しい世界である、と述べている。
もちろん、著者の書いている事が全て実現すれば、全ての人が「収入のための仕事」ではなく「自分の人生のための活動」を行いながら、自分らしく生きることが出来るだろう。
ベーシックインカムの問題点でよく語られるのが、フリーライダー問題(働かない人を増やす)と財源問題であるがこの二つについても細かな試算の上で解決策を提示している。

しかし、本書と「隷属なき道」を読んだ上で、僕の中でもう一つベーシックインカムを導入する上での大きな疑問・問題点が浮かんだ。

それは、「世界中の国が同時にベーシックインカムを導入しなければいけないのでは?」という点である。

例えば、世界に先駆けて日本だけがベーシックインカムを導入したとしよう。
まず、世界中の貧困層がベーシックインカムを目当てに移住してくる可能性がある。かつて、生活保護制度がかなり杜撰に処理されていた大阪市では、日本に移住しようと来日した中国人が関西の入国管理局で「日本での収入源は何か?」と聞かれた時に「大阪の生活保護」と答えた、という話がある。このように、働かなくても収入を得られる制度を聞きつければ海外から貧困層が移住して、ベーシックインカム制度の財政を圧迫するのは目に見えているだろう。世界に先駆けてベーシックインカムを導入してしまうと、ベーシックインカムを導入していない国から貧困層だけに限らず流れてきてしまうのは目に見えている。

次に、企業家や資本家などの裕福な層の日本人が海外に出て行ってしまう可能性がある。
本書では、「財源を確保するために所得税や法人税を引き上げて、富の再分配を行うことがベーシックインカムの大きな意義の一つである」と述べている。もちろん、長期的に見れば、ベーシックインカムにより低所得・中間層の消費性向が高まれば企業の利益にもつながるのだが、当然ながら企業や資本家は税金の少ない国に移住した方が得だと判断するだろう。
ベーシックインカム導入のために、急な増税を実施すればそのタイミングで多くの企業や資本家が海外にでてしまい、本書で語られる富裕層からの富の再分配は財政面で難しくなるのではないか、と思う。

以上の2点から、世界中で一斉にベーシックインカムを導入する、という事をしなければ、先駆けて導入する国がひたすらに損をしてしまうのではないかと思うのだ。
(そういえば「隷属なき道」でもベーシックインカム導入のための解決策として「国境を無くしてタックスヘイブンを無くす」というような事が書かれていた。最初はピンと来なかったが、今はなんとなく納得できる)


〜ユートピアはやはり遠いか…〜

科学技術がいくら発展しても、人々の考え方や感性はなかなか変わらない。どれだけ有識者がベーシックインカムの素晴らしさを唱えても、「働かない人が増える」ことや「財源が足りない」ことなど、不安要素はいくらでも出てきてしまう。

それらを解決するにはいっそのこと、ベーシックインカムを導入してしまうのが1番良いのではないか、と思ってしまう。

まぁ、そんな大博打をうつ国が現れるとは思えないけど。ユートピアはまだまだ遠いか…。

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