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SF - Sumo Fiction

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狂気に満ちた相撲SFの世界(手動収集)
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#逆噴射小説大賞2019

俺の心音は120デシベルを超えて、なお

 壁の汚れに似た曇天を否定するように、原色のレーザー広告が空に飾られていた。
 広告の中の女が俺に微笑む。そんなマニキュアをたった一本買ったところで、俺の小指の先すら塗りつぶせない。
 耐用道路を選んで歩く。なるだけ早く、しかしトルクは抑えて。
「うるせぇぞ! 何にも聞こえやしねぇ!!」
 足元の指向性マイクは俺の駆動音の中から野次を拾い上げた。すまんね、どうにも。心の中だけで謝罪の言葉を呟く。

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RGコンフィデンシャル

"馬頭嵐"こと前頭筆頭、田並久寿男(たなみ・くすお)は、今夜のねぐらを熱海の寂れた旅館に決めた。さしたる理由はない。この一週間、追っ手をかわしてきた幸運が、今夜も続けばという、淡い期待があるだけだ。

追われる者に特有の神経質さで、馬蹄型に配置された客室を、一つずつチェックしてまわる。待ち伏せの危険は薄いが、彼はまだ生きていたかった。一組四人の子連れの家族のほかに、宿泊客はない。少しだけ安堵すると

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乱れ大銀杏

 勝った負けたが力士の咎なら惚れた腫れたは男女の咎でしょう。そう彼女は言った。

何が咎であろうか、好き合った男女が、つかの間を共に過ごすことの。

隠れて待ち合わせた彼女との密会で、彼女は…いや、俺の所属する部屋の、女将さんは言った。

「優勝してください。2度。」

つまりそれは、道ならぬ道を通す唯一の方法。潔癖を尊ぶ角界に無理矢理言うことを聞かせる御免状。神に等しき力人の証、横綱を巻けと言っ

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われら新天星開発公団

われら新天星開発公団

泥7節から10節ころのボルスは俗に「新人殺し」と呼ばれる。岩泥混質の滑らかな挙動に目測を狂わされたパイロットが操作を誤り、大概は張り手を横から浴びて爆散する。5建高の巨躯と相反する反応速度から、8期公団までは泥節中の「整地」が禁止された程だ。
今は違う。爆炸弾頭に燃束、何より新型の機体がある。ボルスの挙動をサイトに捉えつつ、飛んでくる熱誘導ミサイルも……え?
ミサイル?

「モリタ!3番機!」

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地獄角力乱和

その日、事件は起こった。邪悪なる闇行司となった式守伊之助の手によって、大関大三玉の清めの塩がゾンビパウダーにすり替えられたのだ。

満員御礼結びの一番、大三玉がゾンビパウダーを土俵に撒くと同時に皆既日食が始まった。その瞬間、土俵に染み込んだ力士の怨念が解放され大三玉を包み込み、苛んだ!

苦悶の声と観客たちのざわめきに何事かと振り向いた横綱聖条路は無念と怒りの赤いスモウ・スピリットに包み込まれ苦悶

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力士が飛んだ日

力士が大型化を始めたのは19世紀初頭の事だった。それまで単純労働のためのものと思われていた力士たちは【運輸】という新たな土俵に立った。

レールを必要とせずあらゆる地形をすり足で越えていく力士力機関車は大陸内の流通を劇的に進歩させ、港には1万トンの積荷を乗せた横綱級力士船が行き交う。

様々な流通網が力士によって支えられる中、未だに彼らが立ち入れていないのが空だった。

一般には知られていないが、

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