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【日記エッセイ】「ヤングケアラー 5つ目の記憶」

母の気持ちの揺れで僕も揺れていた。母の大きな揺れで僕の小さい揺れは覆われた。僕は素直になれずに我慢することばかり覚えてしまった。

僕は母のことで何もしたくなくなる時があった。ため息もつく。ただでさえ母で大変なのに男のお前がため息なんてつくのかと父は嫌そうな顔をした。本当にそれが嫌だった。殺意すら湧くときもあった。「元はと言えばお前だろ、お前のせいだろ!僕は関係ないだろ」そう思う時もあった。憎くて仕方ない瞬間もあった。男だからが本当に嫌だった。お前はシャッキとしろ!ピシッとやれ!じゃないとどうすんだよ。そんな雰囲気が空気としてずっとあった。

だからかわからないけど、男同士の競争が苦手だった。興味が薄い気がする。どっちかというと、バランスを取る方に立ち位置を取りたくなる。あいつを負かすとか、圧倒時に勝つとか全然興味がなかった。そんな子供だったような気がする。それは勝ってこなかったから、勝つことの面白さを知らなかったからそうなったのかもしれない。言い訳にも聞こえる。けれど僕はサッカーをしてもいつもゴール前でパスを出す人だった。

そんな僕は父の目には優柔不断で女々しい奴に思えたんだと思う。

父にはよく「 お前はオカマか!」とか「お前は女か!」とか言われた。

そうなる背景には親の影響もあることを一切父は考慮に入れて話してはくれなかった。僕が勝手にこんな感じになったみたいな言い回しをされる。それもしんどかった。本当にしんどかった。それに反発して強く言い返してしまったら、母が傷ついてまたおかしくなったらどうしようと思って、言い返すことも出来なかった。僕は父のそういう言葉にヘラヘラすることしかできなかった。

父は「何やねんお前、男やったらちょっとは言い返さんかい」と言った。

おかしくなりそうなった。でもできるだけ穏便に済ませたくて我慢することになる。その我慢に本当に息が詰まりそうになる。胸がパンパンになる。何もしたくなくなる、何かが歪んでいくのが分かる。

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