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【読書感想】いしいしんじ『麦ふみクーツェ』

2018/12/30 読了。

いしいしんじ『麦ふみクーツェ』

音楽家を目指す男の子、ねこ。ねこは人よりかなり背が高く、心臓が弱い。 
ねこは、頭の中で音が聞こえる。それはクーツェの足音。とん、たたん、とん。

いしいしんじさんの平仮名が多めの独特の文体は、異国の絵本を読んでいるように幻想的な気持ちにさせてくれるけど、それは読み心地だけの話で、内容は物凄いリアル。セールスマンの忍び寄り方も生々しい。

ネズミが雨のように降ってくる描写も、ちっともメルヘンじゃない。街の人がネズミで困る様も、臭いも不衛生さも、人間のやり方も、ちゃんと描かれている。

いしいさんのこんなに長い長編を読むのは初めてだったが、本当に読むのが楽しかった。そして、読書という行為がこんなにも、こんなにも愉快かつ不愉快で、目を逸らしたくなるのに一字一句覚えられるもんなら覚えたいという複雑で混沌とした行為であると改めて知った。 

「へんてこで、よわいやつはさ。けっきょくんとこ、ひとりなんだ。ひとりで生きていくためにさ、へんてこは、それぞれじぶんのわざをみがかなきゃならないんだ」

麦ふみクーツェの世界が頭の中にある。

クーツェの足音も。ねことみどり色の奏でる音楽も。先生のねじくれた背骨も。 

私の脳に、ある。
本棚にも、ある。

それだけで、私は強くなるし、優しくなる。

踏ん張って生きる。

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