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【読書感想】吉村萬壱『臣女』

2018/02/27 初めての本、読了。

吉村萬壱『臣女』

止め処なく感情が押し寄せてきて感想らしき感想が浮かんでこないが、とりあえず書いてみる。というか、文字にしなくてはならない気がする。

身体が巨大化していく妻を懸命に介護する夫の話。冒頭で既に3メートル。どんどん大きくなる。変形時には壮絶な痛みを伴う。その描写は実にリアル。変形する骨の音まで脳髄に響いてくる。

この小説の設定は突飛だ。しかし、巨大化する人間という設定にすることで、誰も傷付けないで済んでいる。実在する病気やそれを連想させずに、読み手の介護経験と共鳴させる。共鳴は共感となり、読み手の固い殻を1枚ずつ剥いでいく。これは正に『愛と介護の物語』であった。

介護とは、糞尿と塗れることである。尿には尿の、糞には糞の臭いがある。それは家や人に染み込む。糞尿に立ち向かうのが介護である。臣女は、糞尿の描写がこれでもかと出てくる。その描写は臭いまで立ち上がってくる程、細かい。私は妻の糞尿に格闘する夫が哀れで愛おしくてたまらなかった。

妻の巨大化の原因は、夫の浮気の可能性が高い。夫もそれを分かっているが、妻を介護しながら浮気相手に懸想する。そうでもしなければ立っていられないのだ。 
それでいて、妻を支配したいという欲望も併せ持つ。巨大化した妻に対する異常なまでの万能感。社会に晒したくない、離れたくない、というのは建前で、自分から何もかもなくなるのを怖がっている。介護する人間と介護される人間が1つの家に居れば、そういう優越感と支配欲は混在し、失いたくない愛情も波のように押し寄せるので堪らない。

終盤こんな文章がある。 

『確かに私たちはきっと間違えたのだ。いつも、肝心な選択を間違えてしまうのだ』

間違いなく、2人はどこかで間違えた。
しかし、間違えたことで、小さい男と大きな女は2人だけの豊かな時間が過ごせたのだ。
糞尿の臭いに包まれていても、それが幸福だと私は知っている。

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