見出し画像

「軍事力が重要な理由は、権力の最後の手段が戦争だからである」

20世紀のイギリスの外交官であり、また歴史学者でもあったエドワード・ハレット・カー(1892~1982)は国際政治学の古典的著作『危機の二十年(The Twenty Years' Crisis: 1919–1939: An Introduction to the Study of International Relations)』(1939)で国際政治学における権力の意義、特に軍事力の重要性を説いています。

カーの見解によれば、政治と権力は切り離せないものであり、権力を伴わない政治は原理的に不可能です。このような立場に依拠してカーは国際政治における権力の意義を次のように述べています。

「権力が政治の本質的要素であることを理解できなかったまさにそのことによって国際統治の形をつくろうとする試みはこれまですべて挫折してきたし、この問題を議論しようとする試みもまたほとんどすべて混乱に陥った。権力は統治の不可欠の手段である」(邦訳、212頁)

そして、国際政治における権力で特に重要なのが軍事力である、とカーは論じています。軍事力が最高度の重要性を帯びているのは、国際政治において最後の手段となるのが戦争だからです。

「軍事的手段が最高度に重要であるのはなぜか。その理由は、国際政治における権力の最後の手段が戦争である、という事実にある。国家のあらゆる行動は、その権力の側面からすれば、戦争―すなわち望ましい手段としてではなく、結局のところどうしても使わなければならない手段としての戦争―に向けられている」(同上、216頁)

一見すると、これは物騒な考え方であると思われるかもしれません。しかし、国家の対外政策は、その国家の意図によって制限されているだけでなく、軍事力、より厳密にいえば自国と他国の軍事力の比較評価によって制約されるという知見を得ることができます(同上、218頁)。意図と能力の両方を分析することによって、はじめて国家の対外政策を理解し、それに対処することができるようになるとカーは考えていました。

古い外交の用語に「列強(powers)」という言葉があります。これは現在ではあまり使われなくなっていますが、これは軍事力の相対的な水準によって格付けされた国家の地位を表していました。カーは「大国(great power)」と呼ばれることは、「通常、大規模戦争を戦って勝利したその報償のようなものである」と述べています(同上、217頁)。

国際社会における国家の対外的な地位は相対的な軍事力の優劣によって影響を受ける側面があると認めることが国際政治を研究する上で非常に重要だとカーは強調しました。

カーは『危機の二十年』を第二次世界大戦が勃発する直前に書き上げていますが、そこでイギリスの地位が低下することを引き起こした事件として、1931年9月の海軍暴動事件が挙げられています。

これはスコットランドで海軍の部隊が起こした反乱であり、政府が決定した給与の切り下げが原因でした。この反乱のためにイギリスの通貨は平価切下げに追い込まれるほどの打撃を受けました。その国家が軍事力を発揮できなくなることは、その国家の地位と信用を低下させ、国際金融における取引にまで影響が及ぶことを知っておくことが重要です。

参考文献

E. H. カー『危機の二十年:理想と現実』原彬久訳、岩波書店、2011年

関連記事


調査研究をサポートして頂ける場合は、ご希望の研究領域をご指定ください。その分野の図書費として使わせて頂きます。