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論文紹介 反乱軍の戦い方は国際システムの影響でも変化する

内戦で政府軍と反乱軍が争う場合、反乱軍の部隊は政府軍の部隊よりも少ない人員や武器で交戦しなければならないことが一般的ですが、具体的にどのような戦い方を選ぶのかについては、まだ分かっていないことが数多く残されています。歴史上の反乱軍は非正規戦を挑むこともあれば、政府軍と同じような正規戦を挑むこともあり、また時期によって戦い方を調整することもあります。

2010年代に、この疑問を解消しようと取り組んだ研究者が相次いで研究成果を報告しています。ここではその一つとしてStathis KalyvasとLaia Balcellsが2010年に発表した「国際システムの反乱のテクノロジー:冷戦の終結はどのように内戦を形成したのか?(International System and Technologies of Rebellion: How the End of the Cold War Shaped Internal Conflict)」を取り上げてみたいと思います。これは国際システムの構造と反乱軍の戦い方の関係を分析した研究です。

Kalvas, S. N., & Balcells, L. (2010). International System and Technologies of Rebellion: How the End of the Cold War Shaped Internal Conflict. American Political Science Review, 104(03), 415–429. doi:10.1017/s0003055410000286

著者らは伝統的にゲリラ戦(guerrilla warfare)と呼ばれてきたのは、一撃離脱の戦術を基本とする遊撃行動であり、それは正規軍が敗北した場合に、あるいは正規軍がもともと存在しない場合に用いられる非正規戦争の典型的な戦法だったと述べています。しかし、第二次世界大戦以降にゲリラ戦は「革命的」勢力が用いる戦法となり、同時に「反乱(insurgency)」という用語が広く使われるようになりました。

現代の反乱は古典的なゲリラ戦とは性質が異なっており、第二次世界大戦を通じてその効果が実証されてきました。現代の反乱は古くから行われてきたゲリラ戦より成功する確率が高いことが分かっており、著者らはその理由を考察し、3つの要因で説明できると主張しています。一つ目の要因が国外からもたらされる物的支援の拡大です。伝統的なゲリラ戦は近隣諸国から支援を得つつも、多くの面で地元の資源を活用しながら遂行されていました。

しかし、冷戦期にソ連は発展途上国で共産主義体制を確立することを支援するために、反乱軍の支援を実施するようになり、その範囲はギリシャ、中国、キューバ、リビア、パレスチナなどに広がっていきました。ソ連の支援には国境を越えたネットワークを形成しており、物的支援の範囲と規模を拡大することを容易にしていました。

二つ目の革命的な信念も反乱が成功しやすくなった重要な要因とされており、反乱軍の活動に進んで参加し、自らの犠牲を厭わせないイデオロギーが確立されたことによって、戦闘員は肉体的、精神的に厳しい状況に置かれたとしても、精神的な満足を感じ、反乱軍に対する忠誠を持続させることが可能となります。三つ目の要因は軍事的ドクトリンであり、この方面で毛沢東、チェ・ゲバラ、レジス・ドゥブレ、アミルカル・カブラルなどが書いた武装闘争の理論や実践に関する著作は大きな影響を及ぼしました。

彼らは革命を目的とした反乱で最も重要なことは政治的闘争であり、武装闘争を遂行する軍事部門を厳格な政党の規律に服させることが主張されていました。著者らは、これら三つの要因が揃うためには、ソ連の安定的な援助が必要であったため、冷戦の終結、ソ連の崩壊によって、世界中の反乱軍が物的支援の欠乏に苦しめられることになりました。

著者らが、その影響をデータ分析から明らかにしようとしています。1944年から2004年までに発生した147件の内戦を対象に調査を行い、そこで反乱軍が採用する戦力運用の形態を(1)非正規戦争(irregular war)、(2)通常戦争(conventional war)、(3)両方の特性を併せ持つ対称的非通常戦(symmetric non-conventional warfare)に区分してみると、(1)は53.74%と最も多く、(2)は34%と一般に考えられているよりも大きな割合であることが分かりました。(3)は全体の12%強とされています。

冷戦が終結すると、進行中の反乱(より厳密には進行中の戦争)の件数が大幅に減少するのですが、その形態別に割合を見てみると、別の側面が見て取れます。冷戦が進んでいた時期では、(1)の非正規戦争の割合は66.34%でしたが、冷戦が終わると26.09%にまで急落しています。個別の事例を調べると、冷戦終結以降も内戦が続いた国が見出せますが、これらの事例では反乱軍が国際システムからある程度の自律性を維持していたため、ソ連の崩壊にある程度対応することができました。それでも、ペルーやカンボジアの反乱軍は間もなく壊滅し、合法的な政党に移行したコロンビア革命軍はほとんど例外的な事例といえます。

著者らの研究は、それまで国内政治の問題だと考えられていた反乱を国際政治の観点から捉え直すだけでなく、国際システムの構造と結びつけることで、その発生パターンをよりよく捉えることができることを示しています。冷戦期に普及した反乱は大規模な物的支援、イデオロギー、そして規律ある党組織による政治工作を前提としていたために、ソ連の消滅によって持続不能に陥ったという著者らの指摘は、冷戦以降の戦争がどのように遂行されているのかを理解する上で有益だと思います。

ただし、著者らは現代の反乱が成功しやすくなった要因をかなり限定して考察している点に注意が必要です。大国の軍隊の編成が大きく変化したことに注目した分析としては、論文紹介 なぜ機械化された正規軍で反乱軍を鎮圧することが難しいのか?を、戦略的な相互作用に応じて劣勢な勢力でも有利に戦いを進めることができることについては、戦争で戦力の優劣を覆せるかどうかは戦略の選択にかかっている『いかに弱者は戦いに勝つのか』の紹介を参照してください。

見出し画像:Spc. Steven Cope, U.S. Army

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