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論文紹介 なぜ機械化された正規軍で反乱軍を鎮圧することが難しいのか?

19世紀までの正規軍は、しばしば反乱が起きた地域の治安を維持する任務に駆り出され、一定の成果を上げてきました。ところが、20世紀の歴史を調べると、反乱が起きた地域での治安維持は非常に難しくなり、ベトナム戦争(1964~1975)では米軍が、アフガニスタン紛争(1979~1989)ではソ連軍が撤退を余儀なくされています。

その時代の超大国の軍隊であっても、反乱軍に対して勝利を収めることが難しくなった理由について研究者はさまざまな議論を戦わせていますが、正規軍が機械化(自動車化)されたことが反乱軍に優位を与えているのではないかという説が次の論文で唱えられています。

Lyall, J., & Wilson, I. (2009). Rage Against the Machines: Explaining Outcomes in Counterinsurgency Wars. International Organization, 63(1), 67-106. doi:10.1017/S0020818309090031

正規軍は反乱軍を相手に苦戦を強いられてきた

著者らは19世紀までは正規軍と反乱軍の戦いで正規軍が優位に立つことが多かったものの、20世紀以降では反乱軍が優位に立つケースが増加した理由を考えています。

1800年から2005年までに発生した286件の反乱のデータをまとめると、1800年から1875年までは正規軍が反乱軍に勝利を収めるケースが半数以上を占めており、特に1826年から1875年までの50年ほどは圧倒的な優位を誇っています。ところが、1876年から1900年の時期に入ると、90%を超えていた正規軍の勝率は70%にまで低下し、1901年から1925年には60%をやや上回る程度になっています。

このトレンドはその後も一貫しており、1926年から1950年の時期に正規軍の勝率は50%を下回って下がり続けました。1976年から2005年にかけての勝率を計算すると、正規軍は反乱軍に対して勝利を収める公算は30%にも達していないのです。

なぜ正規軍の機械化は反乱軍を有利にしたか

著者らは第一次世界大戦(1914~1918)の影響で進められた正規軍の機械化の影響ではないかと考えています。

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