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論文紹介 フランス革命が戦争の歴史に与えた影響を統計的に検討する試み

1789年のフランス革命の意義は単にフランスで君主制が崩壊し、共和制が成立しただけにとどまりませんでした。革命によって人民は国民へと再編され、国家は短期間で彼らを徴兵して戦地に送り、長期間にわたって大軍を配備、運用する能力を手にしたのです。プロイセンの軍人カール・フォン・クラウゼヴィッツは、この革命がヨーロッパの国際政治のあり方を一変させたと主張していました。

彼の説によれば、フランス革命が起こるまでのヨーロッパの戦争は限定的であり、決して全面的なものになることがありませんでした。君主が率いる軍隊はどれも小規模で、戦時下に再建することは難しかったため、許容可能な損害はわずかで、戦い方も慎重でした。フランス革命で戦争は全人民が取り組むべき問題に変化し、戦地で熾烈な激戦が繰り返され、多くの犠牲を出しながら続くことになりました。

このようなクラウゼヴィッツの考察の妥当性を統計学のアプローチで検証した研究が行われており、その成果が論文として発表されています。

Cederman, L.-E., Warren, T. C., & Sornette, D. (2011). Testing Clausewitz: Nationalism, Mass Mobilization, and the Severity of War. International Organization, 65(04), 605–638. doi: https://doi.org/10.1017/S0020818311000245

著者らは、クラウゼヴィッツの議論で最も重要なポイントを次のように解釈しました。フランス革命で近代的な国民国家が出現し、統治の仕組みが抜本的に変わったことにより、ヨーロッパの国際システム全体が変化を余儀なくされました。

フランスは、国民国家は統治の正当性を人民主権で擁護し、人民が国家に忠誠を尽くすことを求めるという意味で、それまでのヨーロッパの君主制とは異っていました。これは政治体制の違いをもたらしただけでなく、兵役のあり方も変えることになりました。フランスはフランス革命戦争(1792~1802)で徴兵制を導入し、ナポレオン戦争(1804~1815)でもオーストリアやプロイセンはその動員力で圧倒されました。戦争が終わった後も、ヨーロッパの各国で徴兵制の研究が進められ、予備役も拡充されていきました。これにより、クラウゼヴィッツは戦争にかつてない活力がもたらされることになったと指摘し、これは不可逆的な現象と予測していました。

クラウゼヴィッツが20世紀の世界大戦を厳密に予見していたと見なすことはできません。しかし、国民が戦争に動員されれば、第一次世界大戦のような総力戦となる可能性があると考えていた最初の人物であったと著者らは評価しています。この見方を裏付けるため、著者らはアメリカの政治学者ジャック・レヴィ(Jack S. Levy)の著作『近代大国システムにおける戦争(War in the Modern Great Power System, 1495-1975)』(1983)の内容を検討しました。

この著作では、1495年から1975年までの大国間の戦争に関するデータがまとめられています。著者らは、レヴィのデータを別の資料で補い(Correlates of WarとPeace Research Institute Oslo Battledeaths Dataset)、戦争が発生した年と戦闘で死亡した人数をまとめたデータセットを作成しました。

著者らが研究で注目したのは、1789年のフランス革命の前後で戦争の犠牲者数のパターンに重大な変化が起きていたかどうかという点です。ルイス・リチャードソンの研究により、戦争の規模と頻度には一定の関係(べき乗則)が成り立つことが知られています。もしクラウゼヴィッツの議論が妥当であるならば、1789年より前に始まった戦争と、1789年以降に始まった戦争では、発生する犠牲者数の確率分布、つまり戦争が特定の犠牲者数を発生させる確率に統計上、有意義な変化があったと考えられます。これを検証した結果、著者らはフランス革命の前後で実際に犠牲者数の確率分布に違いがあることを見出すことができました。

ただし、1789年という年の区切り方に恣意性があった場合は、別の時点で分析しても同じような結果が得られる可能性もあります。そのため、著者らは5世紀にわたる全期間を対象に分析し、1780年から1790年の時期に匹敵する変化がなかったことを確認しました。分析の厳密さを緩めた場合には三十年戦争(1618~1648)スペイン継承戦争(1701~1714)の熾烈さが際立ちますが、それでもフランス革命戦争の影響には及ぶものではないことが裏付けられました。

クラウゼヴィッツが主張している通り、フランス革命の結果として近代的なナショナリズムが成立すると、国家は大規模な動員を実施しやすくなり、それがヨーロッパ各地で軍拡競争が連鎖的に起きたと考えられます。フランスに対抗するため、フランス以外の国でも徴兵制が採用されるようになり、戦争の規模が拡大していきました。著者らはヨーロッパの域外で発生した戦争を考慮してはいないため、その点に注意する必要はありますが、フランス革命が戦争史に及ぼした軍事的影響がいかに大きなものであったのかを考える上で参考になる研究だと思います。

参考文献

Levy, J. S. (1983). War in the Modern Great Power System, 1495-1975. Lexington: University Press of Kentucky.

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