見出し画像

現代の中ロ関係を読み解く『ロシア、中国、21世紀の世界の地政学』の紹介

現代の国際情勢を理解する上で中国とロシアの関係は大きな関心事となっています。いずれもアメリカと利害の対立がある国であり、戦略的、経済的な連携を深めています。

今回は、現代の中ロ関係を分析したPaul J. BoltとSharyl N. Crossの『ロシア、中国、21世紀の世界の地政学(China, Russia, and Twenty-First Century Global Geopolitics)』(2018)を紹介したいと思います。最近の国際情勢を踏まえた研究成果となっています。

画像1

1 歴史的基礎、戦略的展望、世界秩序
2 中ロ関係のエネルギーと経済の基礎
3 中ロ間の軍事・戦略関係
4 ロシア、中国、現代の国際紛争
5 非伝統的な安全保障の問題
結論

著者らの分析によれば、安全保障に関して中国とロシアの利害は一致する傾向にあります。2016年6月の中ロ首脳会談で、中ロ間では戦略的協力を推進することが約束されたことで、その傾向は強まっています。ロシアは以前から武器の販売や、共同での軍事演習を通じて中国の軍事的近代化を支援してきましたが、上海協力機構を通じて、あるいは二国間で共同作戦を行うなど、安全保障協力を強化する取り組みに前向きです。

中ロ関係を強く結びつけるもう一つの要因は、現在の国際秩序に対する不満であり、両国はそれぞれの国益を追求するために、国際秩序の枠組みを変更しようとすると著者らは論じています。2014年のウクライナのクリミアを併合し、またドンバス地方への軍事的介入を通じてロシアは既存の国際秩序のあり方に挑戦してきました。中国はウクライナの問題に関しては中立の立場をとっています。中国は南シナ海への進出を通じて国連海洋法条約に反する独自の権利を主張しており、近隣諸国との間で領土問題を深刻化させています。この問題に関してもロシアは中国の肩を持っています。

最近のヨーロッパ諸国ではポピュリズム政党が台頭しており、またアメリカ政治でも二極化が進んでいるため、著者らは中国とロシアにとって立場を向上させやすい有利な国際情勢が出現しつつあると述べています。著者らは中国とロシアには、アメリカほどの能力はなく、限定的な影響力を行使することしかできないと評価していますが、アメリカの対外政策を逆手にとりつつ、連携して妨害すると論じています。

例えば、中国とロシアは北朝鮮が核戦力を増強する政策に対して反対の立場をとっており、この点ではアメリカとも立場が一致しています。しかし、アメリカや韓国が北朝鮮の脅威に対してミサイル防衛システムの配備で対抗することに関してはいずれも強く反対しており、先に述べた2016年6月の首脳会談でもミサイル防衛が中ロ両国の安全保障上の利益を損なうものであるという立場で共に非難を加えました。

国際テロリズムの脅威に関しても中国とロシアはアメリカと同じく脅威として協力する姿勢を示しています。しかし、中国とロシアが想定するテロリズムはアメリカが想定するテロリズムよりも広い意味で解釈されており、既存の体制を弱体化させようとする政治勢力であれば、たとえ非暴力的な団体であったとしても、弾圧を加えることがあります。中国とロシアが特に強い関心を示しているのは中央アジアのイスラム過激派の動向ですが、それは中国は少数民族の自治区である新疆ウイグル自治区で、ロシアは構成共和国のチェチェン共和国でそれぞれ国内的な民族問題を抱えており、国外で活動するイスラム過激派と連携することがないように警戒しているためです。

ただ、中央アジアに対する両国の対外政策を調べると、中ロ関係が全面的な協力関係ではないということも分かります。著者らは2015年に中国がアジアインフラ投資銀行を発足させ、アジア諸国のインフラ整備を中国主導で支援する国際金融のメカニズムを創設したときに、ロシアは中央アジアで中国の影響力が強まることに懸念を抱いたことを指摘しています。ロシアにとって中央アジア諸国、特に旧ソ連を構成していた国々に対する影響力は確保したいという思惑があります。このため、中国としてはロシア主導で進めるユーラシア経済連合に対して中国が一帯一路を通じて協力する立場をとるなど、政策、戦略の調整に注意を払い、ロシアと対立することを慎重に回避しました。

中国とロシアの関係はこのような不安定さを残しているため、表面的な連携だけでその強度を測定することが難しいことが本書の分析でよく分かります。また現在の中ロ関係はロシアのプーチン大統領と中国の習近平国家主席との個人的な関係に依存するところも少なくないことも脆弱さとして指摘することができるでしょう。中ロ関係が強化される傾向が長期的に維持されるのかどうかには不透明であり、いずれかで政権交代が起これば両国の関係は急速に冷え込む可能性も考えられます。

関連記事


調査研究をサポートして頂ける場合は、ご希望の研究領域をご指定ください。その分野の図書費として使わせて頂きます。