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論文紹介 エスカレーションを管理しながら米国が中国と交戦する方法とは?

近い将来、アメリカと中国との間で戦争が勃発するとしても、それが直ちに全面戦争に繋がるとは限りません。アメリカと中国はいずれも核保有国であることから、台湾海峡、南シナ海、あるいは東シナ海で軍事衝突に至ったとしても、相手国の本土に被害を及ぼす行動は慎重に避け、限定的な範囲で消耗戦を続けることになる可能性があります。つまり、本土に対する攻撃を避ける場合、アメリカと中国のどちらが優位に立てるかは、海上優勢の争奪によって大きく左右すると考えられます。

このことはすでに2012年に発表された「平和とエアシー・バトルの狭間で(Between Peace and the Air-Sea Battle)」の中で指摘されていますが、この記事ではその内容をかいつまんで紹介してみたいと思います。

Jeffrey E. Kline and Wayne P. Hughes Jr. (2012). Between Peace and the Air-Sea Battle: A War at Sea Strategy, Naval War College Review, Vol. 65, No. 4, pp. 35-41. https://digital-commons.usnwc.edu/cgi/viewcontent.cgi?article=1490&context=nwc-review(PDFファイル)

海上戦争(war at sea)はどのような構想か?

この論文の目的は、2010年代に盛んに議論されていたアメリカ軍の作戦構想である「エアシー・バトル(Air-Sea Battle)」に代わる別の構想を示すことです。エアシー・バトルは、アメリカ軍が中国の本土に対して航空機で精密な打撃を加え、中国軍の弾道ミサイルなどの装備を撃破することを目指す構想ですが、これが技術的に実行可能であったとしても、中国軍の激しい反撃、あるいはアメリカの本土を対象とした報復を誘発する恐れがあるため、エスカレーションを厳格に抑制すべき場面で実行できないかもしれません。

著者らは「最も挑戦的な紛争、すなわち全面的な通常戦争に備える上で非常に効果的な手段として考えるのであれば、私たちはエアシー・バトル構想の一部を称賛する」と述べていますが、同時に海上戦争(war at sea)という新しい構想も必要であると主張しています。これは「協調、競合、対決、戦争未満の紛争、戦争のいずれの場合においても」実行が可能だとされています(Kline and Hughes 2012: 35)。著者ら自身の説明によれば、それは次のような軍事行動を組み入れた構想です。

「海上戦争戦略の目的は、まず中国の陸上および海上における侵略を抑止することであり、次いで抑止が失敗した場合は敵対行為として『第一列島線』(日本から台湾を経てフィリピンまで続く列島線のこと)の内側において中国による海上交通の利用を拒否することである」(Ibid.: 35-56)
「この戦略の方策は以下の通りである。まず、中国の船舶輸送に遠方から干渉し、第一列島線の内側に分散させておいた潜水艦で攻撃と機雷の敷設を実施する。また、中国の近海で対艦ミサイルを搭載した小型の戦闘艦艇から編成される戦隊で攻撃する。海峡やチョークポイント(航路の合流地点)を哨戒艇によって海上封鎖を行う。南シナ海で危険な状態にある島嶼部を保持するため、海兵遠征部隊を配置するが、中国本土に地上部隊を送り込もうとはしない」(Ibid.: 36)
「この戦略を実行する手段は、通常戦力である航空機、水上艦艇、潜水艦、そしてアメリカとその同盟国が提供する小型の戦闘艦艇から編成される前方展開戦隊である」(Ibid.)

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