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日常に差し込まれた奇異なる存在を徹底取材し炙り出す『暗獄怪談 我が名は死神』(鷲羽大介/著)著者コメント+収録話「怪談師の鷲羽さん」全文掲載

あらすじ・内容

引き寄せてしまうのか、引き寄せられてしまうのか。目の前の奇妙な出来事に身を乗り出してしまうのが怪談作家の性──。
・肝試しに訪れた場所、自分たちを追い越す黒い車の顛末「廃墟への道案内」
・いつも沈んだ顔をしている彼。その理由を聞いた彼女が取った行動、そして恐るべき後悔「許してくれない」
・ファミレスで偶然出会った中学校の同級生と卒業してか
らのそれぞれを語り合うが…衝撃の結末「虚ろの十年」
・祖母の遺品の小さな白木の箱を開封してから友人に降りかかる怪異の数々。リアルに進行している恐怖に新たな戦慄が加わる「我が名は死神」
――など圧倒の100話収録。

著者コメント

 腰痛。帯状疱疹。頚椎湾曲症。三叉神経痛。扁桃腺炎。
 一ヶ月にも及ぶ、コロナでもインフルエンザでもない謎の咳。
 この本を執筆している間に見舞われた、体調不良の数々である。
 私がやっているような怪談の執筆というのは、生と死の狭間から立ちのぼる香気を、ビニール袋に詰めて採集するような作業である。どうしても身体が死の世界へ近づいてしまうのも無理はないし、漂っている香気を残さずお届けできるものでもない。
 それでも、七転八倒しながらなんとか書き上げた、私にとっては単著第三弾となる本である。どうかお楽しみいただきたい。

鷲羽大介――本書「あとがき」より全文抜粋

試し読み

怪談師の鷲羽さん

 その夜、私は裕一郎さんからお話を聞かせていただき、満足できる取材ができた。
 しかし、裕一郎さんは私のことを一貫して「怪談師」と表現していた。「鷲羽さんはプロの怪談師なんですよね」「怪談師ってすごいお仕事ですよね、たたられたりしないですか」「どうして怪談師になろうと思ったんですか」といった具合である。
 こういう本を読む方なら間違えることはないと思うが、怪談師というのは話芸のひとつとして、観客の前に出て自分の声で怪談を語る、ライブパフォーマーのことである。
 私は怪談作家であり、こうして取材したお話を再構成して、文章でその怖さを表現するのが仕事だ。中にはかけもちでやっている人も少なくないが、私は語りのプロではない。怪談師ではない、と思っている。
 だが裕一郎さんはそんな区別を気にしていないようだった。
 わざわざ指摘するほどのことでもないだろう。内心でちょっぴり違和感を抱きながら、私はそれを表に出さないようにつとめ、その夜遅くに裕一郎さんと別れた。
 日付が変わる頃に帰宅した私は、裕一郎さんのお話を聞いている間、表情が硬くなっていたような気がしてきた。こんなことではいけない。私は洗面所の鏡に向かい、柔和な笑顔を意識して、表情を作る練習をした。ただでさえ図体が大きいのだから、相手に威圧感や不快感をなるべく与えないよう、普段から表情を意識しておくことにしている。
 次の日、裕一郎さんから電話がきて、開口一番「昨日はすみませんでした」と謝罪を受ける。どうしたんですか、と私は訊いてみた。
「昨夜、寝入りばなに夢を見たんです。落語家みたいな着物を着た鷲羽さんが、俺は怪談作家だ、怪談師じゃねえよ、って扇子で私のことをはたくんですよ。これはいけないなと思いました。本当にすみません」
 こうなっては、謝るのはむしろ私のほうである。こちらこそすみません、と恐縮するばかりであった。
 
 なお、裕一郎さんから聞いた話は、この本のどこかに収録されている。話者の名前が出てこないタイプのものだ。探してみるのもまた一興かと存ずる。

―了―

著者紹介

鷲羽大介 (わしゅう・だいすけ)

174センチ89キロ。右投げ右打ち。「せんだい文学塾」代表。
著書に『暗獄怪談 憑かれた話』『暗獄怪談 或る男の死』、共著に「江戸怪談を読む」シリーズ『猫の怪』『皿屋敷 幽霊お菊と皿と井戸』のほか、「奥羽怪談」「怪談四十九夜」「瞬殺怪談」各シリーズなど。

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