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ノスタルジックかつ空恐ろしい怪の原風景。ジワリと魂までくる昭和レトロな実話怪談『勿忘怪談 野辺おくり』(ひびきはじめ)著者コメント&自薦試し読み

懐かしさと恐ろしさはどこか似ている。ひびきはじめ待望の初単著!

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あらすじ・内容

「これは葬列…?」

畳の縁に整然と並ぶ玩具たち。不気味な光景は不吉な予兆となって…(「野辺おくり」より)

記憶の抽斗をそっと開けて覗く、昭和レトロ実話怪談!

田んぼに裏山、井戸にお宮、
三軒長屋に駄菓子屋さん。野良犬が自由に闊歩し、サイドカー付きのバイクが土埃をあげて走っていた昭和。
その時代に子供時代を過ごした体験者たちの記憶から零れた懐かしくもぞっとするレトロ怪談を中心に、現在の一風変わった怪現象、不穏な恐怖譚を集めた実話怪談集。

・畳の縁に整然と子供が並べた玩具。葬列のような不気味な光景は不吉な予兆…「野辺おくり」
・祖母の田舎で一緒に遊んだ全身緑の異形…「スーパージェットマン」
・井戸に落ちた獣を弔って以来、家の土間に何かが来る…「井戸」
・小学生女子4人で行った降霊遊び。順番にし、の先にある文字は…「キューピッドさん」
・山中の廃墟の裏に転がる桃と泣き声…「廃スナック」

他、恐怖と郷愁がジワリ迫る46話を収録。

著者コメント

『ずっと長い間、暗い物置の片隅に置かれたままの段ボール箱。
 中に入っていたのは、かすかにカビの匂いを纏った画用紙に、通信簿、夏休みの工作、絵日記。お気に入りだった玩具。中高生の時のノートや、使い古しの文房具。好きだったアイドルのプロマイド。部活で使った小物も。
「ああ、これこれ。懐かしい」
と、次々に引っ張り出す。
段ボール箱の中で、いつまでも捨てられない想い出の品の陰にひっそりと隠れていたのは、記憶の抽斗にしまい込んだはずのあの日の出来事』
ぼくと同世代や、人生の先輩方から聞き集めた懐かしい年代の話を中心に、普通の人々の平穏な暮らしに突然挿し込まれた不可思議な話怖い話をまとめました。
一風変わった、昭和レトロ風味の怪談をお楽しみいただければ幸いです。

著者自選・試し読み1話

どっからきたん

 昭和五十年代の半ば、近畿地方のある田舎町での話である。
 夏の良く晴れた午後のことだった。
 農業を営むAさんが息子と散歩をしていると、子どもが一人田んぼ道にぽつんと立っていた。真っ黒に日焼けした男の子だったという。
 幼稚園に通う息子と同じくらいの年齢に見える。
 しかし自治体やたまに参加する幼稚園の行事では見かけない子だ。すべての子どもを知っているわけではないが、なんとなく近所の子ではないように思えた。
 夏休みだから街から帰省してきた家族の子どもかもしれないが、それならばこんな場所に一人でいることも、くたびれたランニングシャツに汚れた半ズボンという、見るからに普段着然とした格好も不自然である。
 迷子だろうか。
 どうしたものかと考えていると、息子が先に男の子に話しかけた。
 子ども同士はすぐに仲良くなる。
「どっからきたん?」
「家。自転車に乗ってきた」
 Aさんが、誰かにうしろに乗せてきてもらったのかと訊くと、そうだと頷く。
「お兄ちゃんの自転車のうしろに乗せてもろてた」
 ところが、その兄らしき人物も自転車も近くに見当たらない。
 お兄ちゃんはどこへ行ったの、と訊くと男の子もわからないという。
 ランニングシャツの裾に安全ピンでハンカチが留められている。もしや、と見ると黒いマジックで住所と名前と電話番号が書いてあった。男の子はMくんというらしい。
 記された住所は同じ市内とはいえ、車でも三十分以上かかる。通常は自転車で行き来する距離ではない。
 ならばお兄ちゃんと呼んでいる大人の人と一緒に自転車ではなく車で来たのか、と訊ねなおすと、お兄ちゃんは小学生で、乗っていたのは自転車だという。
 やはり兄弟で自転車に二人乗りをしていたということなのだろう。
 AさんはMくんを連れて家に戻り、ハンカチに記された電話番号に電話をかけた。
 先方もMくんを探していたと見えて、電話口に出た両親はあわてたようすだった。
「Mくんがこちらで迷子になっているようです」
 Aさんがそう伝えると、町名を聞いた両親は、そんなはずはないと狼狽えながらも、すぐにうかがうといった。
 両親とAさんが電話で照らし合わせるMくんの服装や特徴は、ぴったりと一致していた。
 しばらくして両親はタクシーで待ち合わせの場所までやってきた。
 一緒に小学校の高学年と思しき男の子がいる。
 どうやらこの子がお兄ちゃんらしい。
 見れば、膝小僧に血の染みた絆創膏を貼っている。
 弟が見つかって安心したのか、お兄ちゃんは涙目になりながら、あらためてAさんにも事情を話し始めた。
 両親にも同じことを何度も話したのだろう。
 噛みしめるように話す一言ひと言に信じてほしいという思いが伝わってくる。
「Mを自転車のうしろに乗せて田んぼ道を走ってたら、道に大きい穴が開いてて、避けようと思たんやけど、間に合わなんで、そこにタイヤがはまって、コケてしもたんです。うしろを見たらMがおらんかって。どこかに落ちよったんかと思て、あちこち探しても、どこにもおらんかって……」
 お兄ちゃんは話しながら泣きだしてしまった。
「Mくんが見つかって良かったな」
 Aさんは、そういって小さな背中をそっと撫でてあげたという。

―了―

🎬人気怪談師が収録話を朗読!

https://youtu.be/j1ny4ZO_I9Q

11/27 18時公開

著者紹介

ひびきはじめ Hibiki Hajime
一九六三年滋賀県彦根市生まれ 「てのひら怪談」シリーズ「幽」怪談実話コンテスト優秀賞を経て、Amazon・kindleから「怪談琵琶湖一周」を自主リリース。二〇二〇年愛猫の名を取ったミケとーちゃん名義で竹書房主催「怪談マンスリーコンテスト」に応募し最恐賞を二度佳作を三度受賞する。

好評既刊

ミケとーちゃん名義で最恐賞を受賞した作品「パチンコときつねうどん」が収録されています。

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