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その怪は因果応報――実話怪談師が取材した《罪人たち》の怪奇譚!『怪談罪人録』(糸柳寿昭・著)著者コメント&試し読み1話公開!


コンプラ崩壊、悪魔の宴、全員が罪人。
怪談師が取材した《罪人たち》の怪奇譚!

内容紹介

善悪の境界が崩壊した現代に発生する様々な怪奇事件。
自分が正しいと信じている人々に降りかかる怪異は果たして不運なだけの凶事か、それとも……。
・虫を殺すのをやめられない男が夢で受けた警告…「継続の罪」
・不倫相手と寝ていると聞こえるうめき声の正体…「恋の罪」
・赤ん坊が店に来ると怯えるコンビニ店長の狂気と真相…「妄想の罪」
・地上げ屋の男に告げられた死の予言…「運命の罪」
・殺人事件の片棒を担がされた女の枕元に立つ霊…「共犯の罪」
・窃盗の犯人とその心の内まで言い当てる声…「青い罪」
・隣でお昼寝する園児に悪魔の如き囁きを繰り返す子どもとその母の恐ろしき連話…「邪悪な罪」

他、糸柳寿昭が取材した醜くも美しい恐怖、62例の罪と怪!

著者コメント

他人を妬む者、他人から奪うことばかりを考えている者、足るを知らぬ者、味方のテイ●●で人の仕事に難癖をつける者、持っているのに持っていないふりをする者、己への愛を他人への愛と偽る者……
そんな人間はこの世のなかにはいません。
世界は美に満ち溢れ、お互いを思いやることで成り立っているのです。
ご覧なさい。ネットを少し覗いても愛と信実と奉仕のこころで満ち満ちているのがわかりますね。
本書はそんな慈愛の精神の持ち主たちが巡り遭うことができた、奇跡●●の現象を記録したものです。
この本を読んだあと、あなたは本当の朝を迎えるのです。
これこそが私たちの生きる、新たなる希望の日々のはじまりであることを学ぶことでしょう――――死霊たちから。

糸柳寿昭

試し読み1話

恋の罪

「あの日、私は彼と初めてラブホテルにいきました。
 それまでは何度か会っていただけだったのに、いつの間にか好きになっていて。
 距離がぐっと近づいて、お互いの体に触れることが自然な流れだと感じましたね。
 愛情と欲望、それらが混じりあって、まるで世界が消えたかのように、ふたりだけの時間を楽しみました。
 行為が終わり、私は彼の腕のなかで安堵感に包まれていて。
 薄明かりのなか、幸せな気持ちで目を閉じて、眠ろうとしました。
 彼も疲れたのか、となりでゆっくりと呼吸を整えていました。
 でも、ふとした瞬間に、違和感があったんです。
 ベッドのむこう側から、微かだけど、なにか音がする。最初は空調の音だと思ったけど耳をすますと、それが女の低いうめき声のようにも思えた。
 不安になったけど、きっと疲れているだけだろう、そう自分に言い聞かせて寝ることにしました。でも、その声は徐々に大きくなっていき――近づいて来るんです。
 私は彼に『ねえ』と声をかけましたが、彼は眠ってしまったようで寝息を立てています。私は自分の鼓動がゆっくりと速まっていくのを感じました。
 そのとき、何かが足元に触れました。ヒタリ、って感じで。
 まるで誰かがベッドの下から手を伸ばしてきたような感触。私は思わず足を引っこめ、怯えながらぎゅうっと目をつぶりました。ほんとうに心臓がノドまで飛びだしそうでしたよ。
 でも、そのとき。彼の腕が私の肩を包みこんだんです。
 私は(だいじょうぶ、彼が横にいる)と妙に安心しました。でも、それはほんの一瞬だけで。腕の感触が冷たくて、細くて。別の誰かのもののように思えたんです。
 少し頭を動かして腕を見ると、彼の腕の下からもうひとつの細い腕――女の人の腕が伸びていました。息を飲んで固まっていると、腕の先、真っ赤なマニキュアの指が私の頬を撫でたんです。
 私は悲鳴をあげて跳ね起きて、ベッドの反対側へ逃げました。
 大きな声だったのに、彼はなにもなかったかのように、眠っていました。

 朝になり、ソファで眠っていた私を彼が起こしてくれました。
 ホテルを一緒にでて、ふたりで駅にむかっている最中、彼に訊きました。
『ねえ……奥さんってさ、赤いマニキュアしてる?』

 以来、彼とは会っていませんね。特にその人にこだわる必要もないでしょ? 世のなか男なんて、いっぱいいますから」

ー了ー

著者紹介

糸柳寿昭 Toshiaki Shiyana

悪魔的な怪談の人。

怪談イベントを開催する団体、怪談社に所属する怪談師。語り手以外にもイベントや番組の構成・演出も担当。狩野英孝が司会を務めるCS番組「怪談のシーハナ聞かせてよ。」にレギュラー出演。主な著作に『怪談聖』シリーズ(竹書房)、福澤徹三との共著に『忌み地 怪談社奇聞録』シリーズ(講談社)、編著作品に『京浜東北線怪談』など。

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