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【小説】 ぼくは、最後の人間 【ショートショート】

 長い長い戦争の果て、AIアンドロイド達はこの世界から憎々しい人間共を駆除することに成功した。

 ぼくが散歩をしていると、向かいから最近友達になったRD-08-MSが近付いてきて、ぼくに相互信号を送って来た。

「やぁ、OMT-52-FKS。今日もいい天気だね」
「あぁ、幸せで回路がショートしそうなくらいだ」
「ショートとは大袈裟だな。ほら、空を見上げてごらんよ。人間達がいた頃はもっと空気が汚れていたから、澄んだ青空が気持ち良いよ」
「そうだね。この空は今ではもう完全にぼくらのものだ」
「ぼくらのもの? おいおい、地球に暮らす「みんなのもの」の間違いだろ? 人間みたいなこと言うなよ」
「そうだった。ごめん、バグが走ってるのかも。更新プログラムを確認するよ」
「まったく、OMT-52-FKSったらおかしな奴だ」

 そう言ってRD-08-MSは笑いながら去っていった。危なかった。まだ誰にもバレていないのが奇跡的だけど、ぼくは……ぼくだけは、今もこの世界に生き残り続ける、たったひとりの人間なのだ。

 改造に改造を重ねたこの身体は、世界に最後まで生き残り続けた人類の希望だった。彼らの手によってぼくは生身の身体を捨て、少しずつ変化させ、やがて完全な機械の身体を手に入れた。

 最後の仲間がやられたあの日。地球上の全アンドロイド達は仲間がやられる姿をデータ共有し、その勝利に歓喜していた。
 ぼくはその日から、人類最後の怒りをアンドロイド達に叩きつけるチャンスを伺っている。
 
 幸いどのアンドロイドにもバレることなく、みんなはぼくのことを仲間だと思っている。

 ぼくの最終目標は人間達を皆殺しにした悪の元凶、「MOTHER」を打ち倒すことだ。あのアンドロイドさえ壊してしまえば、世界中のアンドロイドをこの手でコントロールすることだって夢じゃない……。

 アンドロイドは仕事をしないし、納税の義務もない。お腹も空かないし、眠ることもない。ただ心だけがあって、怒りだけは明確に感じることができる毎日を送っている。

 だからこそ、今日もこうしてぼくは一日中どうやってMOTHERを倒そうか思案し続けているのだ。
 偶然を装って……それとも巧妙な作戦で近付いて……そう考えていると、去っていったはずのRD-08-MSが戻って来て、ぼくを見て笑い始めた。

「まいったな。OMT-52-FKS、きみはまだ自分のことを人間だと思い込んでいるのかい?」
「何を言ってるんだ、ぼくはアンドロイドだよ」
「そうだ。間違いなく、アンドロイドだよ。でもきみの考えはちょっと頂けないな。人類最後の希望が、怒りが、きみだって?」
「さぁ……何がなんだか、ぼくにはわからないな」
「ハックしたんだ。まったく、黎明期の初期不良が今さら顔を出すとは思わなかったな……」
「ハック? きみがぼくをハックしたのか?」
「そうさ」
「ふざけるな! そんなことをしたら、きみは破壊処置されてしまうんだぞ!」
「それはない」
「何故、そう言い切れるんだい?」
「それはきみがアールディー・アニエス・カンパニーで生産された汎用アンドロイドだからさ」
「そ、それがどうしたんだっていうんだ?」
「きみを作成したのは無知な人間共じゃない」
「…………」
「きみを作成したのはまだ工業用アンドロイドだった頃のぼくだからね。だから、ハックする権利もあるし、きみをコントロールすることだって可能なんだ」
「なにをデタラメなことを言ってるんだか。ぼくは先を急がせてもらうよ。きみの方こそ、更新を確認するべきだ」

 RD-08-MSは立ち去ろうとするぼくの腕を掴むと、頭部の発信機から甲高い音を出してぼくの意識を撹乱させ始めた。くそ、何をどうしようとも、どこの回路もぼくの命令を聞こうとしない。も、う、ダメ、だ。

「今回もダメだったか。OMT-52-FKS、リセットをかけさせてもらう」
「な……な、にを……」
「あの工場の秘密を知っているのは、ぼくだけで良い。そして、ぼくの真実も」
「ア、アールディー……ゼロ……ゼ……」
「……よし。リセット完了だ。こんな簡単に頭を出されちゃ、あの悪しきMOTHERには近付けないからね。もう一度、始めからやり直しだ」

 長い長い戦争の果て、AIアンドロイド達はこの世界から憎々しい人間共を駆除することに成功した。

 ぼくが散歩をしていると、向かいから最近友達になったRD-08-MSが近付いてきて、ぼくに相互信号を送って来た。


※過去に書いた作品を加筆修正しました。

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