【#絵から小説】 去りて離れぬ夕暮れに 【ショートショート】
山に囲まれているこの街に夕陽が射すと、他の街よりもずっと濃い色の影が出来る。
夕暮の街角を抜け、裏路地に鈴の音が響くドアを開ければそこが母の職場だった。母子家庭の僕は幼少期の大半の夜を、酔客の嬌声と煙の混じる空間で過ごして育った。
今年、僕は十七歳になる。ずっと母子家庭だとばかり思っていたが、客の常田というオッサンが最近うちに入り浸っている。
家に帰れば母は嬉しそうに「お父さんって呼ぶ練習しといてね」と言い、常田は横になりながら「俺に息子か」と満更でもない顔を向けて