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言葉の覚え書き

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#日本語文法

『言葉の覚え書き』目次

【第1部 表記】組版右横書き 文体口語体と文語体 常体と敬体 能動と受動 文のねじれ 「べき止め」 「さ入れ表現」 可能の表現 助動詞「れる」「られる」 可能動詞 「ら抜き言葉」 用言の活用と音挿入 改行・段落改行と段落 文字種日本語の文字体系 全角と半角の使い分け アルファベット、アブギダ、アブジャド ギリシャ文字 Unicodeについて ヘボン式ローマ字 漢字常用漢字 同音の漢字による書きかえ 字体・字形 仮名現代仮名遣い 「じ」「ず」と「ぢ」「づ」 漢語に続

「すべき仕事」? 「するべき仕事」?

「べき」は、義務を表す助動詞「べし」の連体形で、用言の終止形の後に続きます。 文語「す」の終止形を使うなら「すべき」、口語「する」の終止形を使うなら「するべき」となります。したがって、この2つは動詞における文語と口語との違いでしかないので、どちらでもよいということになります。硬派な内容なら「すべき」、読みやすさを重視するなら「するべき」というふうに、目的に応じて使い分ければいいでしょう。 但し、「べき」は連体形で、必ず体言の前に使うものですから、文末に来ないように注意して

「行かざるおえない」?

「行かざるおえない」ではなく、「行かざるをえ(得)ない」。 こう書いてしまう人は、「行かざる」「おえない」というふうに、そもそも語の区切りを誤認しているものと思われます。 正しくは、「行かざる」「を」「得ない」。「得ない」は「やむを得ない」と同様、「得る」の否定形。通しで、「行かざる」ことができない、すなわち「行かないわけにはいかない」という意味になります。

「足蹴りにする」

口語文法に従えば「足蹴りにする」ですが、ひどい仕打ちをする意の慣用句としては、文語文法に沿って「足蹴にする」が一般的です。 「足蹴」の「蹴」は、下一段活用の文語動詞「蹴る」の連用形が名詞になったものです。 口語では「蹴り」となります。

「おもねない」?

「おもねない」ではありません。正しくは「おもねらない」。 「おもねる(阿る)」はラ行五段活用なので、 と変化します。 打消の助動詞「ない」は未然形に続くので「おもねらない」。接続助詞「て」や過去・完了の助動詞「た」は、連用形に続いて「おもねりて」「おもねりた」、これが促音便化して「おもねって」「おもねった」となるので、「おもねて」「おもねた」も誤りです。 近年、「おもねない」のような、活用語尾のラ行音が脱落した下一段活用の形が許容される動きもありますが、文法に影響を与

反映「する」? 「させる」?

物自体が主語となり、像を映す意の場合は「反映する」。 像を映す物自体が客語となり、主語がそういう状態になるよう仕向ける意の場合は「反映させる」です。

「幕開け」? 「幕開き」?

動詞が名詞に転用されるときは、連用形が使われます。 例えば、「遊び」(<「遊ぶ」)や「恨み」(<「恨む」)などです。 「幕が開く」の「開く」はカ行五段活用で、連用形は「開き」ですから、「幕開き」が本来の形ということになります。 「幕開け」という形が生まれたのは、「夜明け」(<「明ける」)や他動詞としての「開ける」(下二段活用。連用形は「開け」)からの類推によるものと考えられます。 参考

「ねた」? 「ねった」?

これら2つの動詞は、まず活用の種類が異なります。口語文法に則ると、「練る」はラ行五段活用、「寝る」はナ行下一段活用です。 動詞の活用は、終止形だけをみてもわかりません。判別する方法としては、打消の助動詞「ない」を付けてみることです。ここから未然形の活用形がわかり、連用形以下の形も続けて導き出すことができます。 「練る」の打消は「練らない」ですから 「寝る」の打消は「寝ない」ですから とそれぞれ変化することがわかります。 過去や完了の助動詞「た」は連用形に続きますから

「したり顔」

「したり」は、うまく事が運んだときに発する感動詞で、もともと動詞「す」の連用形に助動詞「たり」が結びついた語です。 したがって「したり顔」とは、してやった、うまくいったといわんばかりの得意げな表情のことをいいます。現代のはやり言葉で言い換えるなら「ドヤ顔」といったところでしょうか。 なお、「知ったかぶりをした顔」という意味ではありません。

「月に『やるせぬ』わが想い」?

思いを晴らすことができないという意味の「やるせない(遣る瀬ない)」は、名詞「遣る瀬」に形容詞「なし(ない)」が付いたものです。よって、「ない」の部分を、動詞に続く打消の助動詞「ず」の連体形「ぬ」とすることはできません。 形容詞「なし」はク活用をとるので、連体形「なき」を繫げて「やるせなき」となります。

「無理からぬ」?

「からぬ」は、「遠からぬ」のように、形容詞とともに使うものです。「無理だ」のような形容動詞には使えません。 「無理だ」は、文語としてはナリ活用の形をとるので、「無理ならぬ」となります。

「王家に『捧ぐ』歌」?

文語の「捧ぐ」は下二段活用なので、体言が続く場合は連体形の「捧ぐる」でなければなりません。 捧-げ(未然形)/げ(連用形)/ぐ(終止形)/ぐる(連体形)/ぐれ(已然形)/げよ(命令形) 口語の連体形は終止形と同じ「捧げる」。下一段活用です。 捧-げ(未然形)/げ(連用形)/げる(終止形)/げる(連体形)/げれ(仮定形)/げよ(命令形)

「憂う声」?

文語の「憂ふ」は下二段活用なので、後ろに名詞を続ける場合は連体形の「憂ふる(憂うる)」にする必要があります。 憂-へ(未然形)/へ(連用形)/ふ(終止形)/ふる(連体形)/ふれ(已然形)/へよ(命令形) 口語「憂える」であれば、下一段活用なので、連体形は「憂える」となります。 憂-え(未然形)/え(連用形)/える(終止形)/える(連体形)/えれ(仮定形)/えよ(命令形)

「がえんぜず」

承諾しないという意味ですが、本来は漢文の「不肯」を訓読した「かえず」または「かえにす」です。 「かへず(かえず)」は、動詞「肯ふ」の未然形に打消の助動詞「ず」が付いたもの。 「かへにす(かえにす)」は、動詞「肯ふ」の未然形に、上代の打消の助動詞「ぬ」の連用形「に」と、サ変動詞の「す」とが結びついたものです。 さす竹の皇子の宮人ゆくへ知らにす ──『万葉集』第二巻167 打消の助動詞「ず」は、この「にす」から変化したといわれています。 「かへにす」が変化して「がへんず