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水谷豊自伝 (著:水谷豊・松田美智子) 読書感想文

2023.09.06読了。

俳優・映画監督・歌手の水谷豊さんの自伝を読みました。

水谷豊さんは、少年時代から器用でアメリカ文化に親しみ、子役の頃から笑い上戸で小池朝雄さんを怒らせたり、岸田今日子さんから布団でノミの面白い話を聞かされるといった最初のエピソードからして面白かったです。

水谷さんが映画に惹かれたきっかけの『俺たちに明日はない』は私も大好きな映画です。
私は水谷さん以上に物をよく悪気なく壊してしまう癖があるので自己破滅型のアメリカンニューシネマに憧れますし皿とか家電とか破滅してでも(親に怒られるだけですが笑)壊してみなきゃ見えないものがあると心のどこかで思っているのかもしれないなと思いました(笑)。

水谷さんが高校時代、受験に失敗して家出をされたことがあるとは存じていましたが精神状態がおかしくなるぐらい追いつめられていたと知り私と似ていると思いました。

私は、高校生の時に受けていたイジメや通っていた学校の体制に憤りを感じたり、将来への不安を抱いたり、死について深く考えたりし時には自殺をはかろうとまでして衝動的に家出をして夜、見知らぬ神社の軒下で色々考えながら寝たことがあります。

水谷さんが影響を受けた映画にしても、水谷さんが出演したTVドラマ『傷だらけの天使』にしても、今の俳優活動にしても、「安住しない」という精神が水谷さんを突き動かしていたということがわかりました。

岸田森さんのファンでもある私にとっては森さんの愉快なからかいの数々やおふざけだけでなく、水谷さんへのさりげない気遣い、そして、
「俳優にとって最高の褒め言葉は、地でやっているんですか、と聞かれることだ。それは芝居をしているのが見えないって意味だから。何を演っても水谷豊だと思われること、これがすごいんだ」
という水谷さんに今でも残っている言葉、スピリットが受け継がれているんだなと改めて感銘を受けました。

水谷さんには、前述した方々や、ユーモアのある高校時代の恩師たち、親友の松田優作さんや、鶴田浩二さん、宇津井健さん等、いろんな人たちとの出会いがあって今があるのだとよく分かりました。人と出会うって本当に大切なんですね。

水谷さんには「子どもと動物に食われる」(場を持っていかれるという意)という感覚がなく、
「食うとか食われるとか、同じ役で競争しているわけじゃないからね。現場では、それぞれの世界を生きているだけなんですよ」
という言葉から、水谷さんが子役の時に会ってきた素晴らしい大人の俳優の岸田今日子さん等、演出家のジャン・メルキュールさん等、プロデューサーの小坂敬さん等からの影響が垣間見える金言だと思いました。
いつかキッズ・ムービーを水谷監督に撮ってほしいなあと思いました。

また、
「僕は変わる努力はしないんです。むしろ、変わらないものを持ち続けている方が大事かな。本当に必要なら、自然に変わりますよ」
人生の先輩からの言葉としてしっかり受けようと思いました。

特にこの本の中で感動した水谷さんの言葉、

「天国と地獄のうち、地獄が勝っている状況ならば、僕の役割は、娯楽担当かと思います。少しでも苦痛を和らげてあげたい。病気を治すことはできないけれど、ひととき悩みを忘れて、楽しんでもらえるようなものを作りたい。そういう思いがあります」

「僕があまり深く悩まなくなったのは、人生はいつか終わると分かっているからで、その間はなるべく嫌なところへは行かないようにしようと思っています。ネガティブな感情を寄せつけないようにして、時々、自分に微笑む。いつまでもずっと生きているのなら、抱えている悩みをどうしようか考え続けなくてはいけないけれど、それはない。今は辛い、苦しい、悲しいだろうけど、それは一時のことで、永遠に続くものじゃない。心配しなくても、大丈夫だよ、ちゃんと終わるから」

こういう言葉を言ってくれる水谷さんのやさしさと覚悟に私のような弱者は本当に感謝の気持ちでいっぱいです。

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