怖い話
ずっと不安がある。
家に帰って郵便受けを見れば頼みも出来ないデリバリー業者のチラシと共に、
国からの督促状や水光熱費の請求書が入っていて震える夜がよくある。
時々電気やガスが止まって見える。
もしかしたら実際に止まっているのかもしれない。
明日生きれてるかも分からないのに未来を約束して年金を払わないといけない不安を抱きしめて眠る夜を君は過ごしたことがあるだろうか。
僕はある。
夢に何とか生かされ、色んな人たちの優しさで生活できている僕の生活はとても不安定で、
それもいつ安定するかなんて分からない。
夢に夢見る生活も中々に大変である。
しかしそんな事よりも僕はもっと恐れていることがある。
日々消え行く金や追われる税金など、それよりも怖い事が僕にはあるのだ。
ハゲるということである。
そう。僕が恐れているもの。それはハゲだ。
僕は絶対に禿げたくないのだ。
「お前は芸人だろ。禿げればそれを笑いに変えればいいじゃないか」
「ハゲは面白いだろ」
「おいしいだろ」
「禿げてる芸人なんか沢山いるぞ」
嫌だ。そんなの分かってる。分かってて嫌だ。
もう心無いイジリは幼少期、少年期に沢山受けたので、これ以上僕はそんなイジリは勘弁してほしい。
というか僕は嫌だから求めてる人がハゲればいいと思う。
一度先輩のロビンソンズの北澤さんに禿げるのが嫌なんですと言うと
「ハゲたら面白いじゃん。おいしいよ」
と言われた。
立派である。
笑いに魂を売った男の言葉である。金言。
そして僕はその金言を右から左に受け流した。
嫌だと。
しかし連日の怠惰な日々や、健康を無視した食生活。
夜更かしに運動不足は日に日に僕の身体と頭皮を蝕んでいき、
切れ毛や抜け毛が目立つようになってきた。
帽子を一度被ったら脱ぎたくないし、
以前アメトーークで「薄毛気になる芸人」だったか、そんな企画だった時僕は目を背けてしまった。
僕はこの企画で笑えないのだと。
しかしトレンディエンジェルのネタでは笑えるから不思議である。
昔からそうだったのか、僕は18の頃とても好きな女性がいたのだが、
その人に
「あれ?タケイ君ハゲてない?」
と言われた。
恋するタケイ青年はそこで
「そうなんすよ~、やばいすよね~」
とも言えず泣きながらその場を後にした。
しかし美容室に行き美容師に髪を切ってもらった時、勇気を振り絞って
「ハゲそうで心配なんすよ~」
と言った。
「ああ、タケイさんはてっぺんが張ってて絶壁なので後ろから見たら気になりますけど、それは頭の作りなので気にすることないですよ」
この言葉に僕は救われた。
そうなのか。僕はただてっぺんが張ってて絶壁なので後ろから見たら気になるだけなのか。
この人は神様だ。僕はずっとこの人にこれからも髪を切って行こうと決めた。
その後、その人は新興宗教にハマって山登りをしたまま帰って来なくなったのはまた別の話である。
神にも神はいるのだ。
それからというもの、僕は相方の高橋という女を泣かせて飯を食っている人間に「ハゲ」だと罵られても
「違うよ。これはね、てっぺんが張ってて絶壁なので後ろから見たら気になるだけなんだよ」
と返している。
コレを読んだ人は、もし知り合いが
「タケイさんてっぺん薄いよね」
などと言っていたら
「違うよ。タケイさんはね、てっぺんが張ってて絶壁なので後ろから見たら気になるだけなんだよ」
としっかり教えてあげて欲しい。
そして僕には直接言わないで欲しい。
ストレスは毛根に良くないから。
夢の一つに自分の書く文章でお金を稼げたら、 自分の書く文章がお金になったらというのがあります。