友達を応援できなくなった話。



LINEというアプリにはタイムライン機能(?)というものがある。

ツイッターのようなものだ。


時々それが通知される。




~が初めてタイムラインに投稿しましたよ、だとか
~が久々更新しましたよ、だとか。




そういったものにあまり関心はないんだけど、
仲の良い友達や芸人の誕生日ですよって通知には敏感で、
気付いたら出来るだけ誕生日おめでとうスタンプを送るようにしている。

パンダがケーキを持っている愛らしいスタンプが多い。






つい先日も専門学校時代の同級生が誕生日で通知されたのだが、
僕はそいつに「おめでとう」と送る気になれず画面を閉じてしまった。








22~23歳の途中まで、僕は学芸大学駅の近くに住んでいた。



駅から約10分くらいの、強風が吹けば壊れてしまいそうなボロボロのアパートに一人暮らしをしていた。
五本木というとこだ。





専門学校時代の友人たちも何人かその近くに住んでおり、
僕らは久々皆で集まろうということになった。





学芸大学駅から歩いて2分程度の場所によく行く安い居酒屋があった。
そこに集まり各々近況を話し酒を呑んだ。

そいつもそこに彼女と来ていた。

彼女は僕らの後輩であった。





皆しっかり働いており、専門学校柄、アパレルで働く者が多かった。



他の職種に就いているのは僕とそいつくらいで、
僕は芸人、そいつは当時役者の付き人をやりながら役者を目指していると言っていた。





僕らは酒を呑み、語らい、そうこうして良い気分になり
追加でいくつかツマミの注文をした。





その時である。






「すいません。あと梅茶漬けと鮭茶漬け。一つずつ」





そいつは言った。





僕は耳を疑った。

宴は始まってまだ一時間程度、宵の口である。





僕は絶句してしまった。
もしかしたら「絶句」と口に出していたかもしれない。






・皆で楽しく呑んでいるのにお前はなぜお茶漬けを頼むのか。

・それはツマミなのか。

・自分達だけで食べないよね。

・食べた場合それって割り勘じゃないよね。多めにその分払うよね。

・って言うかまだ〆にはだいぶ早いけど。

・お茶漬けか。そんなものもあるのか。

・僕も食べたいな。

・あの娘ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう。



云々。






僕は色んな思いが頭にグルグルと渦巻いた。





案の定そいつらカップルの前に置かれたお茶漬けはそいつらが食べ、空になった。





飲み会の会計はキッチリ割り勘だった。








「コイツ応援したくないな」






その瞬間僕はそう思ったのだ。


その瞬間僕はそいつを応援することが出来なくなったのだ。








物凄く小さい話である。自分が。




たった4,500円を全員で分けたので80円くらいのことである。


自分で全額払ってムカついたのではなく、しっかり自分も割り勘しての苛立ち。人間が小さすぎる。







果たしてそうなのか。僕は小さいのか。


いやそんなことは無い。そんなはずがない。





鹿児島の曽於郡という小さな町で生まれた僕は、
出身地こそ小さいが志は高く器はデカいのである。


そうだろう。





この苛立ちは自分だけのものでは無い。

きっと皆もそうだ、同じ気持ちに違いないと思い見渡すと、皆良い笑顔。




酒で赤らんだ頬が可愛らしい。皆夢追い人。これからどうなるか分からないけど一所懸命に人生を全うしようね。きっと良い事は続くし、悪い事は明日は明日の風が吹くさだよ。頬に当たる夜風が気持ちいいね。東京の空も意外と星が見えるんだ。素敵な映画を観よう。









嗚呼。小さいのは僕だけである。

小さい細胞がたくさん集まって、結果小さいモノとして生み出されたのが僕だ。




僕は膝から崩れ落ちて吐いた。



この吐しゃ物は酔いから来るものなのか。それとも出来の違いにもんどりうった所為か。





会はそのまま終わり僕らは帰路に着いた。




嗚呼。彼は今も役者を目指しているのだろうか。



もう一度彼と顔を合わせるような機会があれば、僕は笑って「久しぶり」と言おう。











いや無理。やっぱりあそこで自分らだけお茶漬け頼むの違うと思う。





夢の一つに自分の書く文章でお金を稼げたら、 自分の書く文章がお金になったらというのがあります。