連続小説:部下を持つ 20
沈黙を破り、越智が発言する。
「今年、うちらしい学生に合格を出そうということで最終面接のやり方を変更しましたよね。あの面接を突破してきた学生を見ていて思ったんですけど、もしかすると今年の内定者と去年の内定者は少し違うような気がするんです」
皆が越智の発言に注目した。この状況を打開するためのヒントがありそうだと感じたのだ。
越智が言うように、今年の内定者と去年の内定者は明らかに違っていた。それは、最終面接のやり方を変えたことで、前年までとは全く異なった内定者を確保できたことが大きな収穫だった。一般的な最終面接は、企業の大小を問わず社長や専務などの役員との面接が主流であろう。したがって人事部は、役員から評価の高そうな学生を吟味する。もし学生が役員のお眼鏡に叶わなければ、人事部の眼力を疑われ、ひいては自分の首を絞めかねない。役員との馬が合いそうな学生を人事部が選んで役員面接に臨ませるのは、人事部の行動としては不自然ではない。
立川産業もご多分に漏れず、役員面接には役員受けしそうな学生を送り込んでいた。そればかりか、学生に対し面接対策まで行い、人事部が優秀な学生を集めていると思わせる演出をしていた。これもまた岡部が編み出した手法だったが、部長の佐川には全てが共有されていたにも拘らず、黙認されていた。人事部が褒められることは、佐川の利害と一致するからだ。ここに山田が踏み込んだ。役員面接は実施したが、人事が同席し質問を固定した。すべての学生に同じ質問をぶつけたのだ。学生からの自己紹介もなし。学生時に最も注力して取り組んだことなどのふわっとした質問もなし。質問は次の3つとした。
1. 当社はテレビTMを検討しています。もしあなたがマーケティングの担当だった場合に、どのようなCMを作りますか?
2. (商品を手渡し)あなたはこの商品の担当者です。利益率を高めるための戦略を考えてください。
3. 当社は海外進出を検討し始めました。あなたはその業務をアサインされたとして、どのようなことから取り掛かりますか。
新卒採用を担当した人でなくとも、この問題が学生にとってとてもハードルの高い質問であることはお分かりだろう。
最終面接の場である。ただでさえ緊張しているのだ。自己紹介を準備してきた学生は面食らい、頭の中が真っ白になることは容易に想像できる。事前にHPを読み込んでいても答えがあるわけではない。社員でさえ答えられない可能性があるほどの厳しさである。
入社後に、最終面接での質問のことを新入社員に振り返ってもらったところ、
いくつかの企業で最終面接を受けたが、立川産業の最終面接では他社では経験したことないほど頭を使った、
あの質問があったから入社を決めた、
立川産業にはきっと考える文化があると思った、
面接を受けながら自分が成長できたと感じた、といった回答が大半を占めた。
この質問をした狙いは、まさにこれら合格者からの回答にあった。合格者の大半は、成長意欲が高く、自ら考えることを好む。そして、自ら考えたことにチャレンジするためにこの会社に入社してきたのだ。つづく・・