イーリード大橋武広

社会保険労務士×事業会社の人事部長×今は人事コンサル兼経営者/ゴルフはクラチャン6回の腕前w/人事周りのことを綴るべく、令和6年6月にnoteを始めました。

イーリード大橋武広

社会保険労務士×事業会社の人事部長×今は人事コンサル兼経営者/ゴルフはクラチャン6回の腕前w/人事周りのことを綴るべく、令和6年6月にnoteを始めました。

最近の記事

連続小説:部下を持つ 25

ほとんどの内定者が不安を口にした。東口のアドバイスがまたも空振りに終わりかけたとき、一人の内定者がはっと気づいて発言した。目黒葉子、大阪の私立大学出身者だ。 「もしかすると、お客が来なくて困っているお店であれば話を聞いてくれるかもしれん」 そんなことはわかっているが、それがどこにあるかわからないから困っているんだという意見が相次ぐ。片っ端から電話をかけまくれば別だが。 「例えば新規オープンのお店とか、目立たない場所にあるお店とか、きっと集客に困っているお店はあるはずよ」 「な

    • 連続小説:部下を持つ 24

      その後も午前中一杯かけて、内定者は、ランチのメニューやサービスについて意見を出し合った。 やがて12:00になり、内定者は、新宿西口と新宿北口・大久保方面に分かれ、ランチに出かけた。内定者は、今回のお題である新宿のランチ事情を確かめることができそうだと、軽やかに歩き始めた。しかし、歩き始めて数分で、今回のお題が自分たちの想像以上に切実であること、そしてバーチャルではなくリアルであることを知り、来年入社する自分たち自身の問題として捉え始めた。 まず直面したのは、店の前にできた長

      • 連続小説:部下を持つ 23

        議論は1時間近く続き、濃淡バラバラ10の意見が出た。その中から、立川産業の社員が苦労している昼食問題をテーマにすることにした。これは、自らも日々の昼食問題に頭を悩ませる東口が提案したものだ。 具体的にはこうだ。 立川産業の社屋は新宿西口にある。新宿西口には、ここ数年で多くの企業が移転してきており、それを目当てに出店してくる飲食店も多かった。しかし大家側はさらに上手を行った。新規出店舗を狙い飲食店全体の家賃が高騰したのだ。そのため旧来からある店の中には、高い家賃に根を上げ店をた

        • 連続小説:部下を持つ 22

          その後の議論では、次の5点を要素に、第1回目の内定者フォローグループワークが決定された。 ①     バーチャルではなく現実の課題を解決すること(そのほうが迫力が出る) ②     机上のワークだけではなく、ワークで話し合った解決策を検証する機会を設けること ③     ワークから検証まで、1日で結果が出ること ④     考えさせることが重要なので、どこかに答えがあるようなテーマではないこと ⑤     社外に出かけていく場合には、安全を配慮し人事部社員がフォローできること

          連続小説:部下を持つ 21

          「そう言われてみれば去年の内定者とは違いますね・・・。なんでしょうか、一言で言えば優秀です。」 唯一昨年までを知る東口がゆっくりと口を開いた。 「どんなところが違うんだい」 山田も東口のテンポに合わせてゆっくりと聴いた。 「なんでしょう、まず話していて楽しいんです。話や質問が深いですし。逆に言えば油断できないというか。えーっと、他には・・・例えば内定式には内定者代表の挨拶をしてもらうんですけど、その人選に困らないというか。」 「なるほど、確かに去年の内定者とは違うようだね」

          連続小説:部下を持つ 21

          連続小説:部下を持つ 20

          沈黙を破り、越智が発言する。 「今年、うちらしい学生に合格を出そうということで最終面接のやり方を変更しましたよね。あの面接を突破してきた学生を見ていて思ったんですけど、もしかすると今年の内定者と去年の内定者は少し違うような気がするんです」 皆が越智の発言に注目した。この状況を打開するためのヒントがありそうだと感じたのだ。 越智が言うように、今年の内定者と去年の内定者は明らかに違っていた。それは、最終面接のやり方を変えたことで、前年までとは全く異なった内定者を確保できたことが大

          連続小説:部下を持つ 20

          連続小説:部下を持つ 19

          「合宿の踏み絵は成功したというわけか」 「そう思います」 「10名の辞退理由と35名の入社理由は記録しているよね?」 「辞退理由はヒアリングしてあるはずですけど、入社理由ですか?聞いたことありません。」 「うちの社員がなぜ入社を決めたのかを聞かないで、どうやって『学生目線のうちの良さ』を次の年の学生に説明しているんだよ」 山田はあきれて語尾が強くなった。東口に言ってもどうしようもないことと理解しているが、ここまで続くとイライラも限界だ。ただ、改善するにはこれ以上ない現場とも言

          連続小説:部下を持つ 19

          連続小説:部下を持つ 18

          手段が先か 7月下旬には25名の内定者がそろった。例年に比べて少なめだ。 山田は新卒採用チームを役員会議室Cに集めた。役員会議室Cは15階の役員室から離れ、2Fの総務部の前にある。 社員用の会議室が空いていなかったため、山田は、懇意にしている役員秘書に根回しし、役員会議室をおさえていた。ちょうどその日はタイミングよく、役員たちの会議は一切予定されていなかった。議論をするには十分すぎる空間を確保できた。新卒採用チームの社員は、普段使用できない会議室での会議に高揚感を覚えていた

          連続小説:部下を持つ 18

          連続人事小説17話 部下を持つ 

          「ところで、越智さん。俺がなぜ新卒採用チームを引き受けたかわかるかい?俺はね、今の新卒採用のやり方をぶっ壊したいと思っているんだ。まだうちのやり方を全て理解しているわけではないけど、横目で見てきた感じでは、きっと大量に集めて大量に落とす採用をやっている。もちろんそのやり方で優秀な学生を採れるならいいのかもしれないが、大量母集団を作らなければ始まらないと考える時点で、実は思考停止しているのと同じなんだよ」 「どういうことでしょうか?新卒採用は応募者をどれだけたくさん集めるかがセ

          連続人事小説17話 部下を持つ 

          小説:部下を持つ 16

          東京へ戻る乗客には、出張を終えたサラリーマンも多い。夕方ともなれば、アルコールを手にする者も現れる。しかし最近は、PCを叩く者、携帯を触る者の数が一気に増えた。 いつのころからだろうか、新幹線の車内にはコンセントが設置されるようになった。そしてネット環境も整備されている。そのおかげで、超高速で移動しながらも、やろうと思えば仕事ができてしまう。ただ、今も昔も変わらないのは居眠りする者の存在だ。 適度な揺れ、そして緊張感からの解放が眠りを誘うのだ。立川産業の4名も、いつの間にか眠

          小説:部下を持つ 16

          すらすら読める人事小説:部下を持つ15

          山田はおもむろにノートとペンをカバンから取り出し、□を3つ書いた。そして皆に向かってノートを見せた。1つ目の□には課題を書くという。さっきまで目的と言っていた山田が、今度は課題と言い出した。東口はモクテキでもカダイでも付き合うぞっと、半ば自棄になって山田の問いに答えた。 「カダイですか?新卒採用の?え~何だろう。面接官を誰に頼もうか、いつも悩みます。そもそも面接官をお願いできる社員が少ないんですもの」 「少ない?それは応募学生人数と採用予定数、承諾予想数などから算出した必要面

          すらすら読める人事小説:部下を持つ15

          すらすら読める人事小説:部下を持つ14

          「今日の面接はどうだった?」 帰りの新幹線の中で、山田は東口、伊丹に尋ねた。越智は、質問する山田の隣で静かに話の流れをうかがっている。 「いやー20名全員が来るなんて奇跡ですよ。山田課長の初めての面接で全員勢ぞろいなんて、持ってますよね。いつもですと2割は欠席ですからね」 呑気な東口をしり目に、山田は再び尋ねた。 「午前中の面接で俺が面接の形式を変更したとき、どう思った?びっくりした?」 「あっ、はい。何が起こるのかなってドキドキもんですよ。」 東口なりに新幹線内の場の空気を

          すらすら読める人事小説:部下を持つ14

          すらすら読める人事小説:部下を持つ 13

          午前中に残りの10名との面接を終え、昼食をはさみ、午後からはグループワークが用意されていた。 20名が4グループに分かれて着席した。お題は「立川産業の強み・弱み」だ。みなで立川産業の強み弱みについて話し合い、最後に5分程度のプレゼンをするという。 入社前の企業について知っていることと言えば、会社説明会やHPで得た表面的な情報が頼りだ。つまり、全てのグループのプレゼンに個性的な考察は産まれにくい。 面接官は、グループワークへの取り組み方、リーダーシップ、協調性、時間管理力など1

          すらすら読める人事小説:部下を持つ 13

          リアル人事小説:部下を持つ 12

          予定されていた面接開始時刻になり、東口の挨拶も早々に、いきなり2対10の面接が開始された。 山田は、横浜支社長との事前の打ち合わせ通りに、交互に全員に対して質問した。しかし1つの質問に対し10名が回答する形式では、回答していない学生の待ち時間が長い。用意された「学生生活で力を入れたことや思い出について」という意図不明な質問に対しては、学生たちも用意してきた回答を語った。 部活動やサークル、アルバイトについて語る者、幼少期からから現在までを遡る者、母親への感謝の想いを語りながら

          リアル人事小説:部下を持つ 12

          すらすら読める人事小説:部下を持つ11

          「今日の面接官はたしか横浜支社長と私だよね?二人で20名を見ろと。」 「はい、横浜支社長と山田課長は同席いただいて、10名の学生を同時に面接してください」 「10名同時?」 しまった。すでに決まっていた面接とは言え、せめて数日前に段取りを確認していれば軌道修正ができたかもしれない。この面接会は、上司が不在の間に、東口が独断で設定したものだ。東口にとっては、大学からのクレームが来ていることに嫌気がさして仕方なく設定した面接会だ。山田は、面接会の本来の目的をしっかりと定めることが

          すらすら読める人事小説:部下を持つ11

          すらすら読める人事小説:部下を持つ⑩

          くしくも、この瞬間が新生新卒採用チームの船出の瞬間だった。記念すべき第一歩としては、少々貧弱な場の設定である。山田は、新生チームの船出は、もっと華やかに豪勢に行きたいと常々思い描いていた。 「あ、ああ。よろしく。山田です」 それにしても、聞いていないことだらけじゃないか。東口の他にもメンバーがいたなんて。しかも入社したばかりの新卒社員とは。俺に新人教育もやれと言うのか。 山田は心の中で、数日前に描いたチームビルディングの計画が早速狂いだしていることを感じた。 「今日の段取りは

          すらすら読める人事小説:部下を持つ⑩