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小説:部下を持つ 16

東京へ戻る乗客には、出張を終えたサラリーマンも多い。夕方ともなれば、アルコールを手にする者も現れる。しかし最近は、PCを叩く者、携帯を触る者の数が一気に増えた。
いつのころからだろうか、新幹線の車内にはコンセントが設置されるようになった。そしてネット環境も整備されている。そのおかげで、超高速で移動しながらも、やろうと思えば仕事ができてしまう。ただ、今も昔も変わらないのは居眠りする者の存在だ。
適度な揺れ、そして緊張感からの解放が眠りを誘うのだ。立川産業の4名も、いつの間にか眠りに落ちた。

山田が越智と大阪でどのような話をしたかについて触れておこう。
越智は広告代理店の人事部から、立川産業の人事部へ転職してきた社員である。
他の社員との相性が合わず、ろくに成果も出せずにくすぶっていた。
最近は2週間ほど出社しておらず、その間に越智はひそかに転職活動をしていた。
そのころ人事部では、社員、派遣社員問わず退職する者が相次ぎ、佐川部長に対する社長をはじめとする役員からの風当たりが強かった。これ以上の退職者を出すわけにいかなかった佐川は、越智に甘い言葉で異動の可能性をささやき、退職を思いとどまらせていた。

大阪での昼食は、東京と同じように、店を見つけるのに苦労する。山田と越智は、午前中の面接を終え、12時前に地下のとんかつ屋に入った。
「越智さん、2週間ぶりの仕事はどうだい。疲れただろう。」
「はい、すみません。自分は何もしていないのですが、正直疲れました」
「まだ午前が終わっただけだから、しっかり食べて午後も頼むよ。ここは復職祝いで俺のおごりだ」
越智は、やや微笑みながら首を垂れた。
つづく

次回は本編の最終回です。
そのあとは、立川産業の人事部がおりなす内定者に向けた惹きつけ策(内定者を逃がさないための打ち手)が展開されます。お楽しみに。

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