すらすら読める人事小説:部下を持つ⑩
くしくも、この瞬間が新生新卒採用チームの船出の瞬間だった。記念すべき第一歩としては、少々貧弱な場の設定である。山田は、新生チームの船出は、もっと華やかに豪勢に行きたいと常々思い描いていた。
「あ、ああ。よろしく。山田です」
それにしても、聞いていないことだらけじゃないか。東口の他にもメンバーがいたなんて。しかも入社したばかりの新卒社員とは。俺に新人教育もやれと言うのか。
山田は心の中で、数日前に描いたチームビルディングの計画が早速狂いだしていることを感じた。
「今日の段取りは東口さんに任せておけばよいのかな?」
「はい、お任せください。学生はあと1時間もすれば到着予定です」
「ん?1時間?さっきエレベーターで何名かと一緒になったけど」
山田は、エレベーターで一緒になった学生の雰囲気から、本能的に優秀さを感じ取っていた。あくまで第一印象だが、次々に質問を投げかけ、どこまで掘れるか試してみたいと感じていた。
「今日はうちを含めて4社がこのビルで面接をやるようです。他社への応募者じゃないでしょうか?」
山田は、さっきの学生と面接できないことに落胆すると同時に、このあと面接に来る学生の質に一抹の不安を覚えた。山田は、採用担当者のレベルに応じて集まる学生の質が左右されると考えている。目の前の東口、そしてニコニコ微笑んでいるだけの伊丹が、どれほどの学生を集められるのか。
「こちらが今日参加予定の学生の履歴書です」
東口は、数センチもの厚さの書類の束を山田に手渡した。
「こんなにいるのか、何人?」
「20名です。でも全員来るかどうかわかりませんから。少し減りますよ、きっと」
東口は、当日欠席する学生が居ることを経験上知っていた。人数が減れば面接官としては楽になる。東口は、今日の面接がそれほど大変ではないことを伝えたかったのだが、山田の関心はそこにはなかった。